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1 奇跡―3

 思えばこんな感情を抱くようになったのはいつからだろうか。

 彼女がいなければ、この想いが一生芽生えることもなかったのだろうか。

 彼女を目の端に捕らえる(たび)、どうしてもそうやって思考を巡らせてしまう。



 彼女とは小学生の時から同じ学校に通っていた。

 当時の僕は人に対してさほど興味が無く、一緒に遊んで楽しいと思える誰かがいればそれで充分だった。そんな存在が『友達』なんだと思っていた。

 だから彼女のことも、他と同じ『友達以外のその他大勢』としか認識していなかった。

 中学生になると、僕の中の自己中心的な感覚は徐々に無くなっていった。

 友という概念が広がり周囲の人間も増加したことで友人は(わず)かながらも増え、人との関わり合いの中で相手を鮮明に捉えられるようになった。

 そのせいなのだろうか。

 はっきりした時期なんてわからない。理由もきっかけも恐らくなかった。



 けれど、いつしか僕は彼女にどうしようもなく見惚(みと)れてしまっていた。



 ()しくも彼女とクラスメイトとして過ごすことになり、会話をすることも以前より多くなると、今まで気付けなかった小さな事に少しずつ魅入られていく。

 彼女が努力家だったこと。休み時間はいつも授業の復習に(いそ)しんでいた。

 実は運動は苦手だったこと。何でもできるようなイメージを持っていたが、体育のランニング中に別のグラウンドでウォーミングアップをしている女子達に目をやると置いて行かれないように必死に走る姿をよく見かけた。

 常に怠惰(たいだ)な僕にとって、その頑張りがどれだけ眩しかったか。

 そして話す度に、彼女は心から楽しそうに微笑む。

 フレームの細い丸眼鏡をかけ、伸ばし始めた髪をおさげにしたその表情が弾むのに連動して僕の心臓は揺れる。

 頭から指先、爪先に至るまで、彼女の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくが堪らなく(いと)おしく感じた。


 しかし学年が上がりクラスが変わってからは彼女と話すことはほとんどなくなり、高校に入学すると他の生徒とも授業での議論や班活動程度しかやりとりをしなくなった。

 一方彼女は、勉強もスポーツも以前と比べて明らかに上達し、あっという間にクラスカーストのてっぺんまで登りつめた。

 今の彼女は僕なんかとは釣り合わない、遠い存在になってしまったようだった。

 別に寂しくはない。中学時代からの友人もいる。



 ただ、暖かくも棘のあるこの想いを伝えられたら良かった。それだけが、ひとつ心残りだ。

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