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桜。

作者: あらいぐま。

「好きです、先輩。」



「春樹君、、。」



「これで最後にします、。」



「、、、。」




そんな会話を陰に隠れて聞き耳を立てる私。

今日は先輩方の最後の日。

校門前には子の成長を喜ぶ親、別れを惜しむ先輩達、部活や学校生活でお世話になった先輩に泣きながら挨拶をする在校生と皆それぞれ最後の時を過ごしている。

私は何をしているんだろうか。

部活に入っているわけでもないので関わりのある先輩は少ない。まぁ、挨拶をしたい先輩と言えば今彼の目の前にいる先輩くらいだろうか。

私と彼女の接点は彼だ。

彼は先輩のことが1年生の時から好きだった。

1年生の時別のクラスだった私の耳に入るくらいだから知らない人はほとんどいないだろう。

2年生で彼と同じクラスになり席が近かったことから恋愛相談を受けるようになった。

どんな男性がタイプだろうか、好きな食べ物は、いつもどんな音楽を聴いているのか、、そんなこと私じゃなくて本人に聞けばいいのにと思ったし彼にも言った。

好きだということがこんなにも周りにバレるほどアプローチしているのに何故彼はそういう所は奥手なのだろうか。

彼いわく声かけるので精一杯らしいが。

先輩のことを話す彼は色んな表情を見せた。

キラキラ笑った顔、嫉妬して拗ねている顔、切なくて悲しい顔、真っ直ぐで真剣な顔。

向けられているのは私ではない。

分かってる、分かっているはずなのにあっさりと彼に落ちた。その日からいつもはコロコロ表情を変えて話す彼に呆れて聞き流しながら空を見ていたが好きだと自覚してからは彼を見ていられなくて空を眺めた。そんな小さな変化も彼からするといつもと変わらないように見えるようで少し安心した。


ある日廊下で先輩と話す彼を見かけた。

通りすがった私に気づいた彼が声をかけてきてそこで初めて彼女と知り合った。彼女は可愛らしい見た目だけどしっかりしてて優しくて初めて話すのにすぐに打ち解けられるほどの包容力を持っていた。近くで見た2人はそれはもうお似合いだった。何となく諦めてたのに厄介な嫉妬心が芽生える。何もしてないくせに一丁前に嫉妬だけはする自分に腹が立った。だがそれからは彼女ともすれ違えば立ち話する程には仲良くなった。正直彼と話しているより楽だった。彼女から彼の話題が出ることもないし、学校のテストの話とか今流行ってるものとか役に立つ情報から楽しい話までしてくれてとても有意義な時間だった。彼と話す時は大半は彼女の話で先輩が今日何を教えてくれた、こんなことを話した、、と私も聞いた話を嬉しそうに話してた。彼と私の接点もまた彼女なのだろうと思うと少しばかり胸が痛んだ。


今彼の前にいる彼女は何と返事をするのだろうか。

2人の上にはまるで応援しているかのように揺れる桜。

誰かが演出しているかのように綺麗に舞う花びら。

私は映画を観ているのだろうか、軽く現実逃避して心を落ち着かせる。そうじゃないと見ていられなかった。

ならここから立ち去ればいい、そもそも盗み見るものじゃないと分かっているが、結果を知らず後で嬉しそうに報告されるのも、私の前で彼女を想って泣かれるのもどちらも私が耐えられそうにないと思ったから。なら今この目の前で繰り広げられる物語の結末を知ってさっさと帰って1人で泣いて、何も無かったみたいにその結末を聞いた方がいい。私にとっても、きっと彼にとっても。



彼女が覚悟を決めたように顔を上げた。

すると静かに話し始めた。




「私ね、卒業したら一人暮らし始めてここから遠くにある大学に行くんだ。」



それはよく話す私も知らなかった事だった。

ここからは背中しか見えない彼も驚いている様子だったから誰にも言ってないのだろう。




「なら、俺が会いに行きますっ!だから、、」




「あのね、、私も君が好き。」




2人は両思いだった。ずっと傍で見てきたから何となく分かってた気がする。




「じゃあ、!」



「でも、ごめん。今は付き合うことは出来ない。」



「え、。なんで、」



「叶えたい夢があるの。私はそれに本気で向き合いたい」



「、、、。」



私は夢のために好きな人を振ることは出来るのだろうか。

否、それは出来ないだろう。だって両思いなのだから。

好きな人が他の人と幸せになるところなんて見たい人なんているわけがない。振るということは他の人と幸せになれということだろうか、、夢のために?

高校二年生になってからよく聞かれるようになった将来の夢。私には夢とかなくて何となく大学に行ってそれからどんな職に就くか考えようかなんて呑気に考えていた。

そんな私に先輩のことなんて到底理解できるはずはなかった。だか、よく考えると"今は"と言っていた気がする。

彼女はどうしたいのだろうか。



「だから、待っててほしい。」



案外我儘な答えだった。



「4年後。君の気持ちが変わらなかったら会いに来て」

「そしたら今度は私が待つ番。」



彼女は泣きながら笑顔でそう言った。

振っといて今後一途に自分を思ってくれるなんて思ってないからだろうか。彼の答えは、。



「必ず、会いに行きます。」


そう言って彼女を抱きしめた。

泣きながら抱きしめ合う2人。

桜散る花言葉は「私を忘れないで」


ずるい、花言葉までもが彼らの味方か。

2人から背を向けて座り込む。


嗚呼、やっぱりここで結末を知っといてよかった。

止まることのない涙に彼に見られることにならなくて良かったと安堵した。



どうか、その日常に私がいたことも"忘れないで"


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