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星見ヶ丘

遠くて見えない星

 彼女と喧嘩をしてしまった。なにげないことだし、悪いのは僕。それでもなんか、謝れる気がしなくて。かれこれ一週間も彼女と連絡をとっていない。

 このまま終わってしまうのだろうかと、頭をよぎる。仕事にも実が入らず、怒られてばかり。仕事帰りに最近はいつも空を見上げてしまっている。この明るい街で、星が見えることもないけれど、どこかで星空を見上げるのが好きだった彼女と繋がれているよう気がするから。

 なにも考えずに空を見上げながら歩いていると看板にぶつかってしまった。


「いったいなぁ。前を見ていなかったとは言え、看板にぶつかってしまうとは。ダメだな、俺」


 そう思いながらぶつかった看板を見る。


「星見ヶ丘、ここに行けば星が見えたりするのかな」


 こんな明るい街の横にある丘から星が見えるわけないと、半信半疑ではありながらなぜか、僕の足は星見ヶ丘へと向かっていた」


 丘などというのは名ばかりでしっかりと長い長い坂が続いていた。だまされたと勝手に思いつつも、足はどんどんと進んでいく。

 どのくらい上ったのだろうか。途中まで続いていた国道から道をそれ、獣道を進む。

 スマホのライトで足下を照らしながら進んでいると目の前が急に開ける。

 街を見下ろせる場所に出たようで小さな広場のようになっている。ホッとしたのか足が崩れ座り込んでしまう。

 その勢いで夜空を見上げるが、見えるのは欠けている月だけだった。


「まあ、そうだよな。こんなに山を登ったとはいえ、目の前には街があるからな。見えるわけないよな」


 自分で分かっていたと言い聞かせるように口から言葉が漏れる。


「え、見えないの?」


 どこからか声が聞こえてくる。こんなところに他にもいるのか?疲れていて幻聴でも聞こえているのだろうか。しかし、なぜだか俺は返事をしてしまった。


「そりゃ見えないよ。街も月もこんなに明るかったら何が見えるんだよ」

「僕には満点の星空が見えているんだけどな。お兄さんには見えない?」

「俺には星も君も見えないけどね」


 そう返すと目の前に彼は現れた。


「驚いた?」


 驚かないわけがない。しかし、なぜだか意地を張りたくなってしまい。


「俺がこんなので驚くわけないよ」


 と言ってしまう。星を見に来たのに何も見えないし、子供にバカにはされるし、今日は散々な一日だ。


「星を見に来たんでしょ? 今日はお月様も人間も元気だから明るくて見えにくいかもね。どうして見に来たの?」


 なんでこんな子供に話さなきゃいけないんだとは思いつつも、話せる相手もいなかった俺は口から漏れるように説明をした。


「今、彼女と喧嘩しててさ。悪いのは俺なんだけどなんか謝れなくて。でも謝れなくて、けど彼女と話したくて。彼女が好きな星空でも見たら気が変われるかなと思ってな」

「そうなんだ。なにで喧嘩したの?」

「いや、それも思い出せないくらいしょうもないことだったんだ」

「そうなんだね。じゃあ謝れば?」

「子供には難しいんだよ」


 そう、子供の頃なら簡単に謝れたのだろう。なんでこんなことで意地張ってるんだろう。


「せっかくお兄さん来てくれたし、星のお話をしてあげる。今日は見えないしね」


 彼はそういうとゆっくりと星について話し出した。


「今は秋だけども見れないなら今の君に会ったお話をしてあげるね。七夕って知ってる?」

「ああ、あれだろ? 七月七日の年に一度織り姫と彦星が会えるって話だろ? それくらいは俺だって」

「じゃあ、どのくらい二人は遠距離恋愛をしているかしってる?」

「え、いや。でもそんなに遠くないんじゃないか? そんなに大きくなさそうだし。天の川」

「15光年も離れている超々遠距離恋愛なんだよ?」

「15光年、ってなんだよ。いつも彼女もあの星は何光年がどう~とか言ってたけど光年ってなんなのよ」

「それくらい星好き彼女の彼氏なら知ってると思ってたのに・・・。1光年は光が一年に進める距離のこと。光は1秒で30万キロも進めて、しかも地球は一周に4万キロもあって・・・」

「一秒で7周半もできるの?!」

「そう。それを一年分だから・・・。とりあえずすっごく遠いんだ。それでも二人は年に一度だけしか会えない。会うために15光年も進んでくるんだよ」

「俺、彦星にはなれる気がしないぞ。というかそんなに遠いならさすがに一緒に入ればいいだろ」

「世の中そんなに甘くないことくらい子供の僕以上に知ってるでしょ・・・」

「すんません」

「それこそ、二人は元々一緒にいたんだ。だけども好きすぎるが故に仕事をしなくなって、年に一度しか会えないぞ!ってされたんだよ。それでも二人は会いに来ている。すごくない?」

「すげえわ、それに比べて俺なんてちょっと喧嘩して一週間話していないだけで」

「そうだよ、大丈夫。周りの星達が見えなくたって織り姫も彦星も一等星。一番輝いているんだから。自分から見えなくたってしっかりと見えると思うよ」

「なんかありがとうな。星が見えなかったけど元気出たよ。正直自分がしょうもなかったなって、星は見えなかったけど、今はなんか見えるような気がするよ。謝ってくる、ありがとうな」

「星はいつだって僕たちを導いてくれる。周りが明るくて見えなくても、心の中の星が輝いていればね」

「本当に子供なのか? そろそろ夜も遅いし、一緒に降りる?」


 俺が声をかけたときには彼の姿は消えてしまっていた。星が見えなかった俺に対して、神様がなにかをしてくれたのかも知れない。帰りは月明かりを頼りに前を進む。


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