48.火事は探り合いと共に
他作品を書きながら描いていると2週間遅れました
本当にすいませんでした
今日の内にもう一話投稿して遅刻分取り戻したいなぁ
柄にもなく、全て喋ってしまったな。
『もともと、一人で抱え込むには重すぎるものだ。実際、信頼しているのか支配しているのかわからないが、一般生徒に秘密を共有している奴もいる』
「……あの鵜島と黒金のふたりか」
『お前には俺たちがいるんだぜ?多重人格ってだけだからまったく同じ答えが帰ってくるかもだけどな』
『今回は井狩の言う通りですね。でもまあ、未来がいるとなれば僕の出番はないけど』
『そんな時こそ、俺が表に出れば全て有耶無耶にできるだろ!!』
光榴達は慰めてくれているのか、それとも情報共有をしているのか。
よくわからないが声をかけてくれる。
仲間の存在をこうやって近くで感じられることは良いことだ。
体育祭。
もう綱引きぐらいしかしないのではないだろうか。
もう、アイツらが出た種目以外は何をやったのか忘れてしまった。
あと、明日には二色と戦わなければならないし、個人競技では【特待生】に目をつけられる可能性が高い。
これほど頭を使わなければならない体育祭は本当に体育祭と言うのだろうか?
体育祭というよりも体育戦略祭って感じじゃないか?
それに、教師長の影響で不正にもルーズだ。
今の僕に残されている体育祭の意義は、【特待生】を洗い出すこと以外にない。
戦うべき相手がわからなければ対策も取りようがない。
夏樹は面倒ごとを引き起こした直後に教師長のドローンで連れ帰されていた。
他の純也や未来たちもすぐに去っていったがただ一人、菜々だけは残っていた。
「……また、神社に行かない?」
そう言われ、僕は反射的に頷いてしまった。
そういった成り行きで、流されるように神社へと向かっていった。
さすがは政府からの助力のある【創名高校】だ。
燃えていた森の木々も緑を取り戻し、神社の燃えた跡も跡形もなくなくなっている。
まぁ、体育祭前までにこうしておかなければ、体育祭を見に来た客が神社の焼け跡を見てビックリするだろうしな。
「………ねぇ、あの猫の遺体は……どこにいったの?」
「……まだ気にしてんのか。もうさっぱり忘れちまったほうがいいと思うけどね」
「それで、この惨状を生み出した放火魔が出てくるなら、いいかもね」
菜々は、涙を流している。
つらいのだろうか、苦しいのだろうか。
僕には、改造されてからそう言うものが少なくなってしまった……。
教師長たちに不要と判断されたものは全て削ぎ落とされてしまう身体。
この身体を叔父さんが見た時、どう思ったんだろうか……。
「……猫の遺体なんて、残ってるわけないだろ」
「!?貴方まさか……あれを…………」
「あれ?ってなんだよ。救急隊の人たちが言ってたぞ。遺体なんてなかったって」
「………気づいてない?でも、気づかないはずがない。じゃあ、泳がせてる?でも、なんで……」
さっきから、ブツブツと何を言ってるんだ?
気付くも気付かないも、僕は何も知らない。
「この神社にそれ以上の要件はないのか?」
「え、えぇ。ちょっと、思い出しちゃって……」
「まぁ、そんなナーバスになるなよ〜」
手をフラフラと振って寮へと目的地を変えて帰路に着く。
と言いつつも、僕は少し焦っている。
なんと言っても、今、ここには奴がいる。
いや、黒金の操る人形が僕を監視している状況だ。
あそこで無闇に口を開くことはできない。
きっと、黒金 練治はこちらに来る。
奴の【特技】は【金属を操る】だ。
〔玉入れ〕や、神社での追跡もそうだった。
それに、神社を燃やしたのも………。
いや、もうくどくどと慎重に考えるのもやめよう。
全てお見通しとでも言うように、本人に聞けばわかることだ。
「もうとっくにいるんだろ?練治。単刀直入に言うが、神社を燃やした女は、穂村だろ?」
「………あららなんか色々バレてら」
木陰からヌッと人影があらわれる。
言わずもがな、黒金 練治であった。
「どうしてそう思ったのかな?参考までに聞いておきたいよ」
「まぁ、運が良かっただけなんだがな。説明してやる」
僕は、神社が燃えたその日から気づいていた。
神社で起きた放火。
この学校で起きたことならば、【特技】で起こした者であると思った方がいい。
【特技】なら物的証拠も残らない、考えたら限り最良の方法だろう。
ならば、その日神社を燃やした人間は『火』に関する【特技】を持っていることは確定だ。
そして、もう一つは猫の姿。
猫は、残酷なことに燃やされた後にハイヒールで踏まれていたのだ。
そして、穂村の部屋に窓から転がり込んできた時、玄関にハイヒールがあったのが見えた。
それだけかと思うかもしれないが、それだけではない。
そのハイヒールは、濡れていた。
雨の降っていない日に濡れているハイヒール。
雨以外でハイヒールが濡れることがあるのは、多分洗った時ぐらいだろう。
たまたま洗っただけかもしれないが、さすがに他の証拠と合わせると関連性が見えてきてしまう。
最後に、穂村の発言にあった『彼氏』だ。
『火』の『特技』を持っているわけでもないのに放火の現場で僕と合っている。
おおかた、犯罪者どうし気が合ったのかもしれないし、利害の一致や利用関係かもしれない。
そこらは自分にはわからないが、きっとその『彼氏』こそ、黒金 練治なのだろう。
僕は、その仮説を持ちながら穂村を見ていた。
彼女は、神社をあのレベルまで燃やせるほどの火力が出る【特技】を持っている。
この神社を燃やす人間にはぴったりだ。
そのような概要を、黒金 練治へと伝える……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……そんな少ない情報だけで、突き止めたのか?《ラプラスの悪魔》があっただろ。あれはどうした?」
あればなぁ〜、使えないことはないんだけどなぁ。
《ラプラスの悪魔》は、超巨大周囲スキャンだ。
世界中の原子一つ一つの動きを理解して、物理法則に当てはめる。
そのため、それには膨大な脳の容量が必要。
それにより、一瞬だけ彼の思考力は爆発的に増加する。
結果、彼の脳には常人には耐えることができないほどの負担がかかる。
このような話を聞いたことがあるだろうか?
象や人間、ネズミなど、体の大きさや脳の構造上の関係によって体感時間は変化する。
子供の頃の1時間が長いのと同じような原理だ。
それが、《ラプラスの悪魔》を使用している間はどうなるのか。
《ラプラスの悪魔》の瞬時の思考能力の拡張により、彼の体感時間は、とてつもなく遅くなる。
脳が周囲の原子の情報を処理するのに時間を費やすからだ。
その結果、彼はその間1秒を2日間程度に感じる。
その1秒でわかる過去や未来は、最高でも数分。
それを使って他人の過去の行動を理解する。
できなくもないが、流石に無理だ。
精神的に無理だし、普通にだるい。
「《ラプラスの悪魔》を使うほど、頭を使わずに理解したからな」
「ち、チッ。なら、お前なら【特待生】も……」
「なんだ?お前の雇い主の鵜島の話でもして欲しいのか?」
「そこまでお見通しか……。まぁいい。どれだけ情報を持っているのかわかったからよしとしよう」
そう言いながら、練治は寮へと戻ろうとする。
「おい待て。お前がここにきた理由を話せ」
「話すわけない……って言いたいが、別に様子を見にきただけだからそこまで用があるわけじゃない」
「……《ラプラスの悪魔》は、使えないこともないんだ。考えてることはすぐにわかる」
「カマかけのつもりか?残念、本当にそれだけだよ」
「………ならいい、別にここで知る必要もない。だが…」
「だが?」
「バレたことを容易に話すと、死にかねないぞ。命を無惨に奪っていった報いを受ける」
「俺を誰だと思ってんだよ。放火魔よりも、たまたま成り上がった【特待生】よりも、場数だけなら踏んでるんだぜ?」
「……お前のしでかした事は調べがついてる。かなりの罪状だったが………、お前は自慢できるほどの悪人じゃないだろ?」
「人の過去をズケズケと……っ!!」
「まぁまぁ、今日は俺も帰る。一緒に男子寮まで帰ろうぜ」
「…………ここで歯向かっても、結果は見え見えか。体育祭の個人戦に期待するよ」
「クハハ!」
二人は揃って神社を後にする。
男子寮へと歩みを向けて一歩踏み出し………。
歩む先で立ちはだかっていたのは、一人の少女。
「………あら、こんな時間に何をしてるの?それと、その人はだぁれ、帝?それとも光榴クンかな?」
「……勘良すぎないか?もっと慎重に行動しなよ、未来」
「…彼女が、嘘を見破る女か……」
宇賀田 未来が、そこにはいたのだった。