45.密談は立て続けに
「【特技】が二つ、だって!?」
「そうだ。この学校において、物理的にも駆け引き的にも最大の武器を二つ持てる。そして、将来的にも【特技】を二つ所持したまま生活できる特典付きだ」
「………チッ、ますます厄介じゃないか。でも、【特技】二つか、望んだ【特技】か。選べるんだろう?【特技】二つを選ばない物好きがいるのか?」
「それがですね。望んだ【特技】というのは、それはもう超強力な単一【特技】でして、【原初】の特技や【称号無し】を凌駕する、最強の【特技】をもらえるんですよ」
その言葉に校長は疑問を抱く。
「その言いぶりからして、何か知っているのか?」
「ちょっと………その一端を開催式の代表挨拶で感じましてね………」
「………彼が、そうだと言うのか?」
「十中八九、彼……浦見 心汰は【特待生】であり、『望んだ【特技】を得る』の方の特典をもらっています」
「なるほど………。では君は、どちらを貰ったのかな?」
「自分では心汰と同じ『望んだ【特技】を得る』を選んだんですけどね………。【特技】が二つ使えるんで、きっと申請ミスしたんでしょうね………」
「ちなみに、何と何が使えるんだ?私も言ったんだ、君にも言う義務がある」
「まぁ、一つはわかるでしょう。教師長カメラで見てたら僕が未来に逃げるところが偶々あるはずです」
「それは知っている。【時渡り】だな。『望んだ【特技】』というのは、それよりも強いのか………」
「そうなりますねぇ。さて、もう一つの【特技】ですが……………」
「が?」
「教師長カメラを見ていたなら、これもわかるんじゃないですか?」
「…………?どういうことだ?」
「そのまんまです。僕が【特技】について喋ってる時あったでしょ?まぁ、『嘘だ』って言われちゃったから忘れてるかもしれないけど………」
「…………そうか。つまり、それは無自覚か…………」
「………それ、とか意味深なこと言わずに、直接言ってくださいよ」
「それはそれだよ。それだ」
そういいながら、校長は僕の胸を指さす。
………胸?
胸には何もつけられてないはずだが………。
「そこには何もありませんが………」
「まぁ、時期にわかるよ。今日はありがとう。送っていくよ」
校長先生はそういいながら天窓へとハシゴをかけて登っていく。
「ほら、行きと同じように手を握りたまえ。私も、頭を冷やしたい気分だ」
そう言いながら、校長先生は眉間の皺を伸ばす。
【特待生】の【特技】二つ持ち。
それが校内にいると言うだけで高校の危険が跳ね上がる。
【特技】がある高校ならば、たった一人の【特技】で全てを支配される可能性だってある。
僕の視界の中に別人格が映り込むようになったのも【特技】のせいなのだから、少し強い【特技】であれば支配なんて簡単にできる。
校長は、そのような危険から高校を守らなければならない。
今の僕は危険認定されていないが、それにしても【特待生】4人と相手………。
校長の【特技】もかなり強いが、すこし厳しいところもありそうだ。
「私も少しリフレッシュしたい。落ちるからかなり強めに手を握っておけ」
「リフレッシュはいいですよねぇ〜。…………うん?落ちる?」
そう言った瞬間にはもう遅い。
校長は校長室の天井から飛び出し、僕もその手に連られて校長室の天井から離れる。
「え、ちょ、これ、どっ、う、うわあああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
鉛直方向に落ちていき、みるみる裏路地のコンクリートが近づいてくる。
あっ、これ、死……………。
死を覚悟した瞬間、青空の方向にぐんと引っ張られる感覚があった。
そういえば、触れている人間であれば重心を操れるんだったか。
そのまま、ゆっくりと重心の位置を元に戻していき、安全に着地する。
「…………死ぬかと思ったわ……」
「記憶をなくしていつもクールぶってる君とは思えないほど絶叫していたね。見ていてとても新鮮だった。また招待するとしよう」
「絶対にお断りだね!!このクソアマ!!!」
断言した拒絶をフッ、と鼻で笑いながら、また校長は校長室に向かって落ちていった。
自分は落下死の心配がないのか…………。
そう考えながら、もう結果発表の終わった体育祭の会場へ行こうとするが…………。
「………やっときた(ボソッ)」
裏路地の曲がり角から出てきたのは、運命の相手ではなく、ヤンデレストーカーであった。
しかし、なんだ?
先ほどとは違う、質が違う『やばい雰囲気』を纏っていた。
「あのアマと何を話していたの?密談?浮気?浮気だよね?あーあ、もう私に興味とか無いんでしょ?もういい。もうみんな殺すわ。みんながいるから悪いの。全員死ねばみんな解決なんだから…………」
この数十分でなにがあった?
心無しか、やつれているように見える。
あまりにも………可哀想だ。
「よし、わかった。なら勝負だ」
「……………今更なに?あ、わかった。私がみんな殺すって言うから止めるんでしょ?やっぱり私の気持ちを考えず、みんなのことを優先する………っ!!」
「ちげぇって!!……いや、ちょ、体勢が…………」
バタッ!!
音を立てて帝がバランスを崩す。
なんとか倒れないように手をついたが、それが悪影響を及ぼしている………。
詳しく言えば、二色の方向に倒れかかっていて、いわゆる壁ドン状態になっていたんだ。
「はっ、ふぁっ……ふぇ!?」
二色もパニックを起こしている。
…………ちょうどいいかもしれない。
恋に生きる乙女を堕とすチャンスだ。
「……そんなんじゃねぇって………。話聞けよ………」
イケメンが言えばかっこよくなるんだろうが、あいにく顔はフツメン、声は震え気味で微弱なビブラートがかかっている。
雰囲気に乗って顎クイでもしようかと思ったが、流石にキモすぎるのでやめておこう。
「ふぇ、ふぁ、ん〜〜〜…………」
少しやつれ気味だったが、顔に少し赤みがかかり生気が増してきている。
まぁ、調子がよくなりそうでよかった。
「僕が言いたいのは、もう一回勝負しようってことだ」
「………しょうぶぅ?」
あ、ダメだ。
もうこの状態の二色、なんかすごい蕩けた目をしてる。
ええい、この状態なら勢いで勝負承諾させてやる!!
「明日の、個人競技。そこで僕と戦おう。君が負けたら、僕と君は元の関係に戻る。君が勝ったら、僕は君の彼氏になってあげよう。どう?」
「……しゅ、しゅるぅ……しょうぶぅ…………」
「…………決まりだね、楽しみにしてるよ」
「うん……わかったぁ…………」
なんか、脳死状態だったな。
ちゃんと聞いてるのかな………、明日まで内容覚えててくれたらいいけど………。
こうして、勢いで勝負の約束を取り付けた僕は、蕩けてぼーっとしている二色を近くの公園のベンチに置いて、そのまま走って逃げた。
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二色のあの惨状を見るに、僕の作戦はかなり上手くいったみたいだ。
「俺ぁあんなことしないといけないなんて聞いてなかったがな。なんで俺は謹慎中に体育祭に引っ張り出されてるんだ」
「まぁ、君の対応の柔軟さが鍛えられていてほんとに良かったよ。その柔軟さを鍛えた国満に後でお礼を言っておこう」
僕は多重人格が酷くなった原因である志動 夏樹と感動の再会を果たしていた。
体育祭練習期間がカットされているが、実に一ヶ月ぶりである。
あの期間はすごく忙しかった。
生徒会として競技の審査審査審査…………。
思い出すだけで頭が痛くなってくるわ。
「国満の方はどうだ?上手くやれてそうか?」
「まぁきっと。目に見えてやらかしてるようには見えなかったから大丈夫だろ」
「ならいいんだが」
夏樹は特に心配した様子もなくあくびをする。
「……もっと心配してるもんだと思ってたわ」
「おいおい。何年執事やってきたと思ってんだ?それに、俺とは違いアイツは全てにおいて最速で適応する『天才』。俺じゃ予想できねぇぐらいには成長するさ」
これが、15年の絆ということか………。
僕の人生はまだ体感2〜3年程度だから、そんなものわからないけどね。
「まぁ、とりあえず報告ありがとう。とりあえず、《トライアスロン》は2位、だな」
「あぁ。これは大健闘だと思ってるぜ」
おおかた予想通りだが、事実確認が済んでよかった。
一位は、D組。
【特待生】疑惑のある、浦見 心汰が審査員のクラスだ。




