42.未来は彼によって
E組の競技は、100m走の次はハードルだ。
ハードルは未来が出場する。
他の競技とは違い100m走はすぐに終わる競技だ。
タイム的にはぶっちぎりで、第二走者へとバトンが渡される。
「頼んだ!」
「頼まれた!」
ちょっとおちゃらけた雰囲気を出しながら、未来は走り出す。
もちろん、だからと言って本気を出していないわけではない。
しっかりとトップスピードを出して、走り込み、勢いよくハードルを飛び越えていく。
中学の頃に陸上をやっていたのかと思うほどの美しい走りに加え、他の走者が【特技】を使っているのに対し、全く【特技】を使っている様子が見られないところがあり、一際違いが浮き彫りになっていく。
不正さえなければ、かなりの得点は貰えていただろう。
他のクラスの第二走者も続々と走り始めた。
二色はB組の第二走者だ。
種目は借り物競走らしい。
ちなみに補足するが、観客席は会場の上だ。
野球場やコロシアムなどと同じように、選手がジャンプしても届かない場所に観客が入っている。
だが、彼女の場合は未来を予見済み。
引く前から何を借りればいいのかを理解しているし、体育祭が始まる前から用意もしている。
そのため、同じクラスのクラスメイトに、用意してもらったものを投げてもらえれば、借り物競走は高得点で終われる。
まぁ審判は正当な点数を付けないからあまり関係は無い。
そのため、ちょっとした興味で二色は未来と並んで走っていた。
「……ねぇ、なんであなたは逆原やみっくんと一緒にいるの?」
「そのみっくんって奴とは好き『あ゛ぁ゛ぁ?』で一緒にいるわけじゃないよ」
未来の『好き』というセリフに過剰に反応してしまった二色だが、深呼吸して話を元に戻す。
「でも、菜々ちゃんは違う。あの子は一緒にいると何かある気がする。良い方にも、悪い方にもね」
「へぇ……、つまり、面白そうだから一緒にいるってこも?」
「そうとも言う……ねっ!!」
未来は元々早かったギアを更に上げて二色を振り切り、段々と第三走者へと近づいていく。
E組の第三走者は穂村、競技は水泳。
だが、水着は着ていなかった。
「ちょ、穂村!?なんで水着着てないの!?」
「だってぇ、彼氏以外が見てくるのってぇ、恥ずかしいからぁ………」
「そんなこと言ってらんないでしょぉ!」
そう言いつつも走るのを止めることはできず、バトンは未来から穂村に渡される。
「失格とかは勘弁してよ!!」
「ルールに、元々の競技のルールに沿わなければ失格とは書いてなかったわぁ。なら、本当は反則でも、この〔トライアスロン〕なら【特技】でめちゃくちゃやっても文句は言われないはずよ………!」
かなりの暴論だが、その通り。
明確な失格の定義が説明されていないのは、学校の落ち度。
ならば、別に反則級のズルをしようとも、明確なルールが決まっていないのが悪い。
それに、この競技は審査員が絶対だ。
審査員一人が『有り』だと言えば、その行為は『有り』だ。
何が言いたいのかというと、好き勝手やっちゃおうって話だ!!
水泳の水槽に飛び込む直前の一歩。
腹にチカラを込めて、両腕からチカラを発散する。
彼女の【特技】は、炎を発生させる。
その炎は原初級。
火力、周囲の炎さえも全て自身の手中。
その炎が、水槽の水に向かって、一直線に放たれる。
「蒸発しなさぁい、【原初の】────……」
水槽に向かっていった炎が、水と触れ合い、一瞬にして炎のみが残った。
「────【炎】!!!」
パリイイイィィィィ!!!
その宣言の瞬間、水槽の水は一気に全て蒸発し、一気に膨れ上がった水蒸気によって水槽は破壊された。
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B組の第三走者にバトンを渡し、二色はレーンのそばに倒れ伏した。
そして、よろよろと立ち上がり、未来へ近づいて言った。
「あなたに言ったらややこしくなるだろうけど、未来は私達の方を味方してる。あなた達E組は私たちに負けて、みっくんは私のクラスに来る」
「あちゃー、なら負けといた方が良かったかな。でも残念、ウチらは勝つよ」
「そんな未来はない!志動 夏樹が審判に入った時点で、あなたたちの負けはほとんど確定………」
「それは、そういう未来が見えたから、ってだけでしょ?」
「!?!?、それ、どこで知ったの………?」
「いやぁ、わかっちゃうんだよね、色々とさ」
そう言いながら手を目にあてる。
「未来のことを話す時、普通の人なら、予測的だから嘘か本当か曖昧になって伝わってくるのに、アンタが未来について話す時は、見てきたかのように話をするからね」
「そこまでわかってるなら、なぜ負けを認めないの?」
「認めてないんじゃないでしょ。まだ負けてないから、負けないように頑張ってんの」
きっぱりと、未来はそう言い放った。
意味がわからない、と思っている。
数ヶ月間この【特技】と付き合ってきたが、そう何度も外すことはなかった。
それこそ、みっくんが手を出した時以外の未来は変わったことが無い……………!?
「まさか、みっくん………」
「ホントに癪だけど、あなたの【特技】、推定……【未来視】、【未来視の加護】、【原初の未来】?なんでもいいけど、未来を視るその【特技】に対抗できるのは、特別な目を持った彼だけなのよ」
「嘘……みっくんが、私と敵対するような行動を取るような未来なんて…………見たくない!!」
二色は頭を抱えながらわなわなと震えている。
「うそ、うそぉっ!わた、わたひの、み、みっ……くん………」
現実を見たくない。
自身の理想を抱いたまま変化から目を背けている。
今まで、自分は苦しい思いをしてきたはずだ。
少しは報われてもいいはずだ。
最近、ようやく人生が上手くいっていたと思っていたのに!!!
なぜ、上手くいったものを全て掻っ攫っていくかのように!!!
理想を壊されなければ行けないの!?!?
もう終わりなの!?
ようやく回ってきたツキを、こんなに早く手放さなきゃいけないの!?
いやだ!いやだいやだ!!!
「よくも、私の、私だけの、未来、を………っ!!!」
目を背けていたところから、最初の完走者が出たことを告げるファンファーレが鳴り響いた。
うらめもっ!
「【特技】錠剤とよばれる【特技】を発現させる錠剤は、『今までの経験や自身の強い想い』が基となっている細胞の活性化により体が変異し、それに適応することで【特技】が発生するつくりとなっている」




