31.初動は衝撃と共に
よくわからない女子を掻い潜り、漏れる前にトイレに間に合い、〔玉入れ〕観戦には充分間に合う時間にトイレを出ることができた。
………そういえば、ここも教師長達見てるんだっけか。
つまり………。
僕があの女子にしたパンツ見せ未遂、また言及されるんじゃ………。
と、憂鬱なことを思い出しながら観客席に戻る。
「お、戻ったか。あとちょっとで準備体操時間も終わって、試合に移るところだ」
今日の体育祭の流れはこんな感じだ。
①競技を紹介→②準備体操時間で準備→③試合準備して試合開始→④2〜3分試合→⑤結果発表→全競技、①〜⑤を繰り返す
計6競技だっけ?
多分、配点は全競技一緒だろう。
〔玉入れ〕が100点だから、最大で合計600点だ。
………常識的に考えれば、の話だが。
〔玉入れ〕とかいう競技になったのも、そこら辺を曖昧にするためだろう。
観客席に座り、E組のチームを見る。
基本的には、頭が良くて運動神経のいい、イケメン国満が司令塔として指示を出すらしい。
夏樹のイメージ戦略で株が下がっていた国満だが、ここ最近の夏樹の謹慎と国満の急な対応の変化により、国満はかなり人気を掻っ攫って行った。
特に、顔も運動も頭もいいとなれば、女子からの人気も高く、男子は『アイツならもう仕方ない』と諦めがついていた。
まぁ、僕を決闘に誘う時のセリフも、普段と怒る時の雰囲気も、かなり不自然だったからな。
今考えれば、あんなにカタコトで、理由も言わず不自然に決闘を申し込んでくるのは【洗脳の加護】のせいだったのかと合点がいく。
国満の【特技】も夏樹と同じ系統で生徒からの不安もありそうだ。
だが、あまり周囲に知られていないし、国満はもう、知られても悪用しないという信頼を得ていた。
やはり、友好関係を築くのがうますぎる。
まさに天才の所業だ。
E組の国満らチームから目を外すと、傍らには春太がいた。
「…………アイツ、一人でやるつもりか……?」
軽く身体をほぐしながら、多分【特技】を練っている。
だが、そう深く考えるほどの時間もなかった。
呟いた瞬間、司会から開始のカウントダウンが始まる。
「さて、いきますよぉ〜〜!ファイブカウントで行きましょう!!それでは早速、5!」
ファイブカウントが始まり、各々は構えをとる。
「4!!」
狙うは相手のバスケット付近にある玉、それらを相手のバスケットに入れて相手の得点を減らし、自身のバスケットは味方に守ってもらう。
それが、普通だ。
「3!!!」
ただ、そんなありきたりな考えでは勝つことができないのが、この高校の厄介なところだ。
狙うべきは、相手の玉かもしれないが、目標はそうでは無い。
「2!!!!」
この競技では、自チームの得点を底上げするか、どこかのチームをどん底まで堕とすか。
『ルールの穴』を見つけた人間には、その二つの選択肢が出てくる。
最高得点が一万点?玉をバスケットに入れるだけのシンプルな競技です、だって?
どこがシンプルだって?ややこしいにも程がある。
「1!!!!!」
『ルールの穴』を見つけた人間は、一般的なプレイヤーとは違う観点に立てる。
その観点は、絶対的な有利をもたらす最高の手札。
【特技】だけではどうにもならない部分が、ここで露見する。
『体育祭』と言いば運動能力が求められるような聞こえ方だが、ここに運動能力しかない単細胞はいらない。
最低でも、この仕掛けを解き明かす頭脳がなければいけない。
「0!!!!!スタアァァーートオォォォッッッ!!!!!」
金田家の御曹司、国満の実力。
拝見といこうじゃないか。
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「さて、いきますよぉ〜〜!ファイブカウントで行きましょう!!それでは早速、5!」
ファイブカウントが始まった頃、山岸 春太の心は怒りに染まっていた。
「4!!」
帝のやろう、何か勘付いてやがる。
さっきから『国満』とか言う奴の方をじっと観察してやがる。
気に入らねぇ。
全くもって気に入らねぇ。
「3!!!」
俺は帝と一人で勝負をしたと言うのに、アイツは俺とアイツの執事の三人がかりで帝とやりあった。
そんな他力本願な奴の方ばっか見やがって。
「2!!!!」
アイツもそうだが、基本帝以外の奴らは全員嫌いだ。
教室で集まった時も、帝がいなけりゃ帰ってるとこだった。
学校も、学ぶほどの授業をしてない。
あの程度の問題をやるくらいなら、もっと【特技】の理解を深めた方がいい。
帝が隙を見せないか、伺っているだけだ。
「1!!!!!」
見てろや………帝。
今回の〔玉入れ〕、俺が好条件な要素が幾つかある。
まず最初の一歩から………踏み込む!!
「0!!!!!スタアァァーートオォォォッッッ!!!!!」
春太は、思いっきり第一歩で地を踏み、【スーパーエネルギー】を地下に送り流した。
「先手、必勝!!」
その瞬間、地下に流した【スーパーエネルギー】は各方向へと広がり、A〜D組の玉を一つ一つ、正確にバスケットへと入るように爆発した。
E組以外の全ての組の玉が飛び、かなりの数がバスケットに入る。
だが、外れている玉も多い。
『量、パワー、コントロール。大体正確だ。どうだよ帝。これが日々の努力の賜物────……』
春太がチラリと見た時の帝の顔は、何の変化もなかった。
まるで、この結果が当然だと言わんばかりの、澄ました顔で。
いやむしろ、この状況を踏まえて、今後の『国満』の動きにとても興味を持ちながら、この戦況を見ていた。
“自分が初めて負けた相手が、自分が見下していた奴に興味を持っている”状況。
吐きそうになる程の怒りが胸中を襲い、黄緑のオーラは、うっすらと黒く濁った。
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……あんなことができるなんて予想外だ。
春太は【スーパーエネルギー】の遠隔操作により、玉をかなりバスケットに入れることに成功した。
E組には入れないように調節をしながらね。
こっちが勝てるように動いてるってことは、僕らのことを微塵も考えずにやっている、という可能性は無さそうだ。
少なくとも、E組としての勝利を目指している様子は見えている。
だが、チラチラと観客席の方を見ては、ギリギリと歯軋りし出すのが気になる。
「さぁ!みんなも肩也に続いてバスケットに向かって!ディフェンスは僕がやる!」
「応!!アタックは任せとけ!!」
「おっけー!じゃあ女子もばらけるよっ!!」
「「りょーかーい」」
女子三人と肩也に別れて他4クラスのバスケットに玉を入れ、国満が残ってバスケットを守る手順になっている。
春太は無視だ。
アレは爆弾だと思って対処しなければ取り返しのつかない事態に陥る。
春太のせいでE組以外に敵がいなくなったからか、他クラスの攻撃陣はすぐにバスケット付近に来ていた。
この体育祭は【特技】の使用が認められている。
だから…………
『動くな。何もするな』
【原初の言霊】によって周囲全員の動きを止める。
「言いなりになりやがれ、一般人ども。お前達は【特技】を使われる前に、潰す!!」
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今回の〔玉入れ〕。
この競技は、【特技】だけがものを言うこの高校において、どんな人間にも扱える抜け道が用意されている。
選手達は、体育祭前に競技の説明を受けている。
その時に受けた説明で、1発でピンとくるやつは多いだろう。
要は、バスケットに入ってない玉が、クラスの得点になる範囲内にたくさんあればいいってことだ。
そう、たくさんね。
「A組、動くぞ!まずはバスケットから玉を出す役割を一人、一人2チームで合計4チームにちょっかい出しにいけ!」
「バスケットから出すのは私がやる!」
「俺と」「僕は」
「「二人で4チーム荒らしに行ってくるわ!!」」
「よし、じゃあ残りの女子二人は俺と一緒にここの護衛だ」
「「りょーかーいっ!!まっかせといて!!!」」
先ほどの開催式のとかのゾンビのようなA組とは打って変わって、活力にあふれた五人が一斉に動き出す。
残り一人の、ある男以外は。
その男こそが、A組の隠れ札。
この高校の中でも、このゲームの本質について理解している数少ない人間の内の一人。
名を、工藤 颯汰と言う。
うらめもっ!
「うおっ!?地中ですげぇ爆発しなかった!?今のが、噂の《塞翁中の拳狼》の【特技】、【スーパーエネルギー】?あんな喧嘩やろうな持たせていい【特技】じゃねぇって………」




