3.入学は教師と共に
「大丈夫なの?あんな勝負受けちゃって」
「まぁ、その場しのぎってやつだよね……」
「ダメじゃん」
山岸が帰った後、それを追うように僕たちも家路を辿った。
男子寮5個、女子寮5個で分かれていて、1クラス寮が2個とされている。
当然のことながら、【特技】の問題を懸念して自宅に帰してくれるようなことはない。
その帰り道の途中、後ろから衝撃が走る。
「おっ、ふ……」
「神咲くん、女子を守ろうって気概はあったんだね」
後ろからどついてきた女子……
宇賀田 未来は嫌味を言ってくる。
「高校初の友達の嫌がってることさせるかって話だよ」
「でも、神咲くんあいつに勝てるくらい強いの?神咲くんの【特技】はわからないけど、彼、喧嘩強いって私の中学でも話題だったし」
「あ、そこまで強かったんだ。噂話とか聞かない主義だったからなぁ……」
「そうよ、あなた、体格も普通の人………より、ちょっとチカラ無いぐらいなんだから。やめといた方がいいわ」
菜々にまで言われた……。
はい、ごもっともなんですけど………。
「特技も弱いし、力も無いけど、大丈夫」
「そんなの…………根拠が………」
「根拠がなくても、不安があっても、大丈夫。嘘ついたばっかかもしれないけど、信じてもらっていいよ」
「ええ、わかったわ。そう、する」
正直に言えば、勝てる根拠なんて全く無い。
普通に手首を掴まれて投げられた男だよ?
まず人を投げ飛ばすとかそういうのは人間のやるようなことじゃないのだ。
まぁ、【特技】を使えば一般人にも可能かもしれないが。
そうなると、どれほど【特技】の存在がこの高校生活を左右するかがよくわかる。
つまり、【特技】が雑魚なら死だ。
そして、僕もその部類に入る。
僕のような『化け物』と、この高校の【特技】。
どちらが優位に立てるのか。
検証させてもらおう。
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あの野郎……クソッ!!
せっかくいい女を見つけたってのに、ふざけるな、あの男……!!
騎士様気取りやがって。自分がどれだけ無謀なことをしようとしているのかわかっちゃいねぇ。
名前はなんだったかな……。
そう、神咲 帝だ。
特技について自信なく答えていたあの根暗男。
なんであいつは俺に逆らってる……?
俺は《塞翁中の拳狼》と名を馳せた山岸 春田だぞ!?
「塞翁中に山岸あり」とまで言わせた俺が、なんであんなたまたま選ばれただけの雑魚にあそこまで馬鹿にされなきゃいけないんだ!!
あの女もあの女だ!!
なんだ?逆原 菜々とか言ってたか?
あいつ、なぜあの決闘を断らなかった!?
あの女が断れば、俺の女になれたんだぞ!?
俺の女になりたくねぇってことかよ……。
まぁいいさ。
あの自己中正義感野郎が明日負ければ大人しく俺の女になる。
明日、どうやってなぶってやるかが楽しみで仕方ない。
にしても、今日の朝に起きた揉め事ってのはなんだったんだ?
あの女と自己中野郎が関わってるらしいが………。
どうも、何かありそうだが、今はやめておくとしよう。
あいつをボコボコにした後で、どうとでも知ることができるからな。
だが万が一。
いや、億が一ですらないが、もしあいつが勝てれば、まぁ引き下がってやらんでもないか………。
ま、勝てれば、の話だがな。
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俺は今、職員室に来ている。
先生に許可を取るためだ。
「福島先生いますか?」
「あっ、ああ、あ、はい!」
福島先生がトテトテとやってくる。
「あ、っと。そう、神咲さん!どうしたんですか?」
「僕の名前、もう覚えてたんですね。僕はクラスの人達の名前なんて卒業までに覚えられるかどうか……」
「ふふ、頑張ればできますよ!頑張ってください!!」
「いやぁ、ありがとうございます。それで、用件なんですけど……」
「ふえぇ!?そ、そんなこと!?!?」
「いや、僕まだ何も言ってないですけど」
「こういうのシーンはアニメではカットされるんですよぉ?覚えていてくださいねぇ?」
「で、早く用件聞いてくれますか?」
「あ、はい………」
「明日の【特技】慣れ自由時間のとき、【特技】を使った戦闘を山岸君としたいんですけどいいですか?」
「や、山岸君と、ですかぁ!?そ、それはえっとぉ………と、取り返しがつく範囲ならOKと学校からも出ていま〜す………」
「学校は戦闘を許可しているんですか?」
「まぁ、重大なことがない範囲で、です。この学校や寮などの学園内は全て監視されてますから、その中で戦闘するのであればサンプルデータとして扱えるからほどほどであればいいそうです。ただ、教師としては推進すべきなんでしょうが、私個人としてはやって欲しくないのが本音ですね……」
「そうなんですか。バンバンやりましょう」
「私個人の本音を聞いての発言なの!?それ!」
「というか、『山岸君』と言ったら先生はちょっと微妙な顔をしてましたね」
「まぁ、彼とは一度会ったことがあるというか……彼、過去にちょっと一方的な暴力があったから問題視されてるというか…………」
「あぁ、先生も肩身が狭いんですね」
「まぁ、他の先生方からのプレッシャーがすごいですが、それを解消するためには頑張らないといけないので………」
「まぁ、僕からはそれだけ………じゃなかった!!!」
「ふぇ!?どうしたんですか!神咲さん!」
「先生……」
「はい」
「教師長第3番席の方に『仕事の依頼が来た』って言ってください」
「ふぇ…?はい、わかりました…………」
ちょっと急ぎめでテコテコと歩いて行く福島先生。
やっぱり僕らより年下には見えないんだよなぁ……。
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そして数分後
「神咲くん!い、入れろって言われた!!!私は帰っていいって言われたけど。何やったの!?神咲くん!!」
「いや、ただの知り合いですから。安心してください」
「さっきの合言葉とかからして健全な関係じゃない気がするんですけど、そこのところどうなの!神咲君どうなの!?」
あぁ、なんかすごい勘違いしてる。
これ以上行くともっと拗らせそうだな…。
それが噂話にもなりかねない。
「先生、それ以上はいけない……」
「??」
「あの人に……消されてしまう!」
「は、はわぁっ!」
ものすごい剣幕で言ってしまったが、これは間違いじゃないか?
拗らせるのは止められたが、僕はこれでは裏で何かやらかす人のようになってしまうではないか。
まぁ、これからすこーし裏事情的なことを話すことになるから間違ってないけど。
入学早々そんな噂話たつのはごめんだ!
「わ、私そろそろ帰りましゅぅ!」
「先生……」
おどろおどろしく先生を呼びかける。
「ひゃ、ひゃあぁ……」
「この話を他の誰かにしてしまうとどうなるか……わかりますか?」
「しゅ、しゅいましぇんでしたぁ………」
よし、先生には申し訳ないが、これで一安心だろう。
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「ほーいよ。来たよ。教師長第3番席殿」
薄暗い部屋に、ワインのような赤のカーペット。
紫色の床と、その周りを巡る白の大理石。
真ん中には机が、その後ろはカーテンで閉ざされていて、他の壁は全て本棚。
うん、場所が変わっても、部屋の構成は変わらないんだな。
「……昔みたいに、もっと柔らかく呼んでくれてもいいんだよ?ほら、昔は『先生』って呼んでくれたじゃないか」
「昔馴染みの設定で話さないでくれるか。僕と貴方はそこまで親密な仲になった覚えはない」
しかも、そこまで頻繁に会っているわけじゃなければ、仕事上の関係のはずだ。
「全く、高校に入っても相変わらず堅いね、君は。新しい友達できないんじゃない?」
「残念ながら、もう一人できてる。しかも女子」
「ワーオ。物好きがいたもんだ「殴るぞ」。…………まぁ、本題に入ろうじゃないか。これ以上愛する我が子に等しい君に心が削られると、仕事のやる気も減る」
彼の目の色が変わった。
やっと仕事モードに入るのだろう。
「ちなみに、さっき先生が『学園は全て監視されてる』って言ってたが、ここは大丈夫なのか?」
「教師長の部屋まで覗き見するやつはいないよ。あと、さっきの先生へのセクハラ行為も見れなくしておいたんだから、感謝してよ?」
「あれセクハラじゃないでしょ!」
「まぁ、その監視の情報は、教師長が管理できるから安心しなよ。これから行う密談も、誰にも聞かれない」
「そうか、じゃあ、早速始めようか」
「そうだね。まず、最近は成長したかな?」
「まぁ、まずまず、って感じだ。一応、余裕を待って取り替えたい」
「まぁ、そういうだろうと思っていたさ。いいよ。新しく君のサイズに合わせて作っておくよ」
「ありがとさん」
「彼は大丈夫かね?ちゃんとすぐに使えるようにしておくんだぞ?」
「大丈夫大丈夫。心配ないよ。もう一つの方も、正常に機能してる」
「よし、これで十分だ。明日、君のイメージをつくる戦いだろう?頑張ってきなさいよ」
「うるさいなぁ、なんだ?親気取りかっての」
「…………そうしてあげたいのは、やまやまさ」
「お前、同情するような奴じゃないだろ。何企んでやがる」
「もはや二人称が『お前』になっているよ。まぁ、企んでないし、企んでいたとしても言う気はないさ」
「そうかよ。じゃあ、できたら教えてくれ。あぁ後、明日の勝負のことなんだけど……………頼める?」
「あぁ、やってやるとも。君は思う存分ってやつだ」
「わかった。じゃあ、僕は帰るよ」
バタン。
「全く、彼はつくづくいい才を持っているよ………フフッ」
うらめもっ!
「なぁ、どっかから風の噂で『塞翁中の拳狼』ってあだ名、名乗ってたのは本人って噂があったんだ。流石に、自称はない、よな?そこまで中二病な奴いないだろ?」
彼も立派な男の子なのです