28.犯罪者は嘘と共に
穂村の家から逃げ帰った後、僕は自分の寮に帰らず神社に来ていた。
「消防隊……僕いなくて怒ってるかもな」
なんて言ったが、しっかりと怒られた。
消防隊が事態を把握するのに戸惑っていたらしい。
まぁ、申し訳ねぇ!!
消防隊に連絡した後に菜々を見つけ、その後すぐに寮へと直行したからな。
案の定、もう神社の火は消えていた。
消防隊が到着して消すことに成功したようだ。
「ちなみに、野良猫の焼死体なんて見ましたか?」
「猫の死体ですか……。見てませんね」
「そうですかぁ。わかりました、今回はありがとうございます!」
「次こそは事態の把握にご協力くださいね」
なんてやりとりをして、僕はようやく帰路についた。
空を見上げればもう夕焼けが綺麗って感じの時間帯だったよ。
まぁ、なぜこんな回想のように、過去形で話しているのかと言うと………。
「なんの用でしょうか?僕に奇襲が通じるとでも?」
「………いやはや、さすが【特待生】って感じだ」
僕が振り返ると、そこには長い影を落とすものがあった。
僕の背後には、黒パーカーの青年がいたのだった。
歳は僕と同い年。
フードでほとんど顔は見えないが、目だけはギラギラとこちらを見据えていた。
そう、あの目は人殺しを体験したような目だ。
僕はあの目を見たことがある。
あの目は、僕の腕を義手に変えた、あのイカれた科学者達の目と同じだ。
「【特待生】だって?理解し難いな。僕が【特待生】だという証拠はあるのかな?」
「本当に【特待生】じゃなければ、【特待生】だと証明する証拠を要求するより、【特待生】じゃない証拠を出すだろ?」
しめたな。
相手は証拠がないまま突貫してきた。
証拠がない限り、僕は『NO』と言い続けるだけだ。
「そうとも限らんだろ。そもそも、【特待生】なんて探して何すんだよ」
「知ってるだろ?望むことが叶うってやつ。今この高校の中で、【特待生】だと考えられるやつはお前しかいない」
「なぜ?」
「その腕、そして巻き込まれたようには見えない目立ち方。わざとらしいんだわ、お前」
「いや待て、それはマジで巻き込まれただけだ。勘違いされちゃ困る」
あ、やべ。
「へぇ。そっちは間違いだったみたいだけど、そんな慌てた否定のしかたをするなんて変だな?さっきまでの態度と、何が違うんだろうなぁ?」
「………わかったよ。負け負け、僕の負けでーす」
ボロを出してしまった………。
というか、なんで腕のことを知ってる?
今、腕の事情を知っているのはいつもの5人に夏樹だけだ。
いや、今はそんな場合じゃない。
こうなってしまえば、洗いざらいしゃべってやる。
そっちの知らない、教師長の思惑をな。
出番だ。
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「でも、残念なことにアンタの思ってることにはならない」
「ん?それはどういうことだ?」
「やはり知らないみたいだな。【特待生】を見つけただけで願いが叶うとか、いったい何人の願いを叶えなきゃならなくなるんだって話だ」
「へぇ。あの紙の内容は、【特待生】の方にも知られているんだね。ならなぜ、目立つようなことをしたんだ?」
「わかるだろ?」
「…………お前は別に、何かの課題を受けている……とかか?」
「僕に聞こうとするな。答える義理はない。だが………僕だけじゃないって話だよ。体育祭が近いから、各々動き始めるはずだ」
「誰だ。そいつらは」
興味津々、といった様子で僕の話を聞くな。
面白いなぁ、僕の話を全て鵜呑みにする。
さらに揶揄いたくなるじゃないか。
「真実に勘付いた者たちさ。この学校に、【特待生】なんて居ないという真実を知った者が、『我こそは』と動き出す」
「待て、【特待生】が居ない!?どういうことだ!!」
「わかれよ。教師長は何故、敢えて個人に[選ばれた人間]という言葉を使い『自分は特別だ』という自惚れを持たせた?何故、[望みが何でも一つ叶う]と、生徒達に利のある提案をした?何故、[一人のみの【特待生】]と嘘を吐いた!?」
「…………このまま生徒達が【特待生】捜しを続ければ、その内その行動が過激になり、この紙が生徒全員に配られていることに勘づく奴が増える。そうすれば、全員が【特待生】が誰かを探るようになり、段々と疑心暗鬼に……」
「そう、そもそもこの高校は、【特技】の実験施設。【特技】は【特殊異能戦闘技術】の略だ」
「だから、【特技】による生徒同士の戦闘を過激化させる策略だってのか……?そんなの………………」
ブッブー。
間違いだよ、マヌケが。
そもそも─────
「なんだよ、それ。最高じゃないかぁ………」
「は?」
「いや、すまない。このまま我慢し続ければ、いくら殺してもバレない、素晴らしい環境に勝手に変わってくれるって言うから、嬉しくて嬉しくて………」
何を言ってるんだ、コイツは。
そんな人殺しを体験したような目、初めて見たぞ!!
「申し遅れたな」
黒パーカーが、頭にかけていたフードを外す。
「頭がキレる男だな、神咲 帝。覚えたよ。俺は黒金 練治。《創名高校》に入学した青年殺人鬼だよ。よろしく頼むよ、この高校最大の爆弾。いや、ジョーカーか?」
「ハハッ、最低な自己紹介だな。クソッタレが。僕のことを追い回したあの流体の鉄、アンタの【特技】だろ」
「バレてたかぁ!イカ墨かけられてびっくりしたよ。墨汁とかじゃなくてイカ墨なんだなって。」
会話こそ談笑しているが、その裏では違う。
目線と僅かな手の動きで、何をするのかがわかった。
今、僕と黒金 練治は視線と、僅かな手の動きで牽制し合っている。
口だけは笑いながら世間話をしている風ではあるが、気を抜けば一瞬にして首を掻っ切られ、心臓を滅多刺しにされる。
「まったく、悪趣味だな。僕はもう帰りたいんだが?」
「あなたほど良い頭してる人を放っておくと思います?即刻ザクリですよ、ザクリ」
「そうかいそうかい。そういえば、僕は教師長との関わりがあってね。この義手もそのツテで作ってもらってるんだが……」
「だが?」
「教師長言ってたよ?この島、全部監視されてるってさ」
「……………なるほど。何度かやり合いに失敗して殺されるかと思いましたが、手を出さないのはそう言うことですか」
「じゃ、僕は帰るからねぇ。今後とも仲良く頼むよ、落ちこぼれナイトさん?」
「フフフフフ。体育祭では背中に気をつけてくださいね」
それだけ言うと、二人は同じ方向へと足を向けた。
寮がクラスで分かれていないのは、こう言うところが欠点だな。
寮は学年を男女で分けているから、僕と黒金は同じ方向に帰らなければいけない。
目的地が一緒っていうのは………、地味に気まずいな。
僕はなるべく足早に帰った。
背後から出る殺気から逃げるように。
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寮の自室にもどり、ベッドに身を投げ出す。
「おい帝、お前はどうしてこんなに面倒ごとに巻き込まれるようなことをするんだ!?」
『知るか。巻き込まれちゃうんだからしょうがないだろ。これでも、噂が立たない様に、静かにやってるつもりなんだ』
「まぁそうなんだろうが……。はぁ、もういいよ。もう変わってくれ。さっきの黒パーカーとの対談で疲れた」
『しょうがない……。もうちょっと自分の体が動いている様を見ていたかったが、いいだろう』
意識を変更していた帝と光榴が入れ替わる。
『…………ふぅ。上手いこといけたか?』
「成功したみたいだ。この調子で僕が不利な時は変わってくれ」
『まぁ適材適所とは言うがなぁ……。にしてもあの男、結局どういう扱いにするんだ?』
もちろん、アイツは要注意だ。
なんと言ったって犯罪者。
そんなやつを平然と野放しにするはずがない。
「どっちにしろ、体育祭で相手をしなきゃならないうちの一人だ。対策は考えておこう」
にしても、ここ数日は奇妙なことが多い。
腕の事情の漏洩、神社の謎の火事、消えた野良猫、殺人鬼黒金、体育祭に、それが終わったらすぐに文化祭があるらしい。
体育祭は2〜3日間、1日目は立候補制の競技全部、そして残りの2日で絶対出場の個人競技だ。
やはり【特技】の使用を多く見たいからなのか、個人の競技は2日間と長い。
警戒すべきは黒金もそうだが、他の6人の【特待生】、そして【特待生】を本格的に求める生徒数人。
それが何人かわからないが、国満や春太に協力してもらって、
え?【特待生】は存在しないんじゃないのかって?
あの場面で、あの光榴がマトモなこと話すわけないだろ。
あれば全部ウソウソ。
一部事実が紛れているあたり、かなり本気で嘘をついている。
体育祭が終わる頃にはバレているだろうが、その時までに僕がアレを終わらせればオーケーだ。
はてさて………、そろそろ未来も何かアクションをおこすだろうか。
菜々はどうだろう。
今日の火事でなにか変化があるかもしれないが………。
……純也は聞いている通り、楽な道を選ぶんだろう。
春太は頑張りそうだな。
夏樹が参加するのかはわからないが、国満は多才だから多分クラスで重宝されるだろう。
はぁ………体育祭って、こんなに頭を使わなきゃいけないものだっけ?
当然なのだろうが、今年は波乱の年になりそうだ。
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それから数週間が経っただろうか。
ベランダから夜空を眺める。
かなり端折って悪いが、今日は体育祭前日である7月9日だ。
競技を決めたのは5〜6月くらいだったな。
体育祭である、7月10〜12日。
水木金と平日3日をフル活用した豪華な仕様になっている。
これまで、立候補制の競技の練習を必死にしていたため、僕らは体育祭があるという実感がない。
だが、個人競技。
これがどのようなものかわからないが、きっと【特技】の観察がしたい教師長が主催………。
なら、ちゃんとしたものを期待しないほうがよさそうだ。
今回の体育祭、【特技】を前提とした戦いがある。
「………そろそろ、か」
『なんだよ。俺の筋力が欲しかったな、ってか?』
「いや、お前の筋力があれば確実性は増すが、無くてもギリギリいける」
『そうかよ。まぁでも、必要になれば呼べよ?俺らは今すぐに出て来れるようになってるからな』
「妙に優しいな、親かよ。安心しろ、何があってもアンタにバトンが渡ることはない」
『ハハハッ。じゃあそのつもりで楽しませてもらうとしようか』
チラリと井狩の隣を見ると、光榴が呆れたように立っていた。
『何企んでるのかわからないが、頑張れよ』
「うるせぇ虚言癖が」
『さて、どこまでが本音だと思う?』
ちなみに、二人とも顔も背格好も全て僕と同じだから、僕視点だと僕が3人で笑い合ってるようにしか見えない。
カオスだ。
だが、安心感はある。
記憶がなくなってから、常に頭の中にいた存在だ。
僕にとっては、家族に等しい。
「そんじゃ、もう寝るわ」
『うん、緊張がほぐれたみたいでよかった』
『虚言癖とか言われた後によくそんな綺麗事言えるよな。面白そうだから見に来ただけだろ、お前』
そう一人で賑わいながら、僕は床についた。
何があっても、僕は大丈夫だ。
最終的に僕が望むとこに着地すれば、僕は過程なんてどうでもいいのだから。
うらもめっ!
「消防隊は5人構成だ。だが、今日に限ってリーダーの中田とベテランの佐々木が集団昏倒に巻き込まれたんだよ……。他の奴らは他の仕事に忙殺されてるから俺がめっちゃ頑張ってるんだ。だから、協力頼むよ、帝くん」




