肆 〜自称【特待生】〜
神社はかなり長い階段の奥にあり、階段からの眺めは幻想的な森、という印象が強かった。
「……菜々って、そんなに猫が好きそうな見た目してないのにな………」
「怖い人や綺麗な人で、好みや言っていい言葉が変わるとでも言いたいのか?」
「いんや、人並みに女子っぽいものが好きそうで安心したんだよ」
「…………ほう?私が女子っぽくないと?」
「…………。そんなこと言ってないよ。うん、勘違いだ」
うわぁ………。
確かに失礼だったとは思うけど、想像以上に菜々からの殺気がすごい………。
「第一、人の心を考えるとか、そういった配慮がまだできない時点で帝は『ガキ』だ」
「だって僕まだ大人じゃないしね」
「大人じゃない、イコール『ガキ』ってわけでもないのよ?」
「イコールだよ。そこは譲れない」
「そんなところで意地張らずにもっと役立つところで意地を張って欲しいのだけれど?」
「僕からすれば、僕の自由が最優先事項だからね」
「…………どこまでも協調性のない男……」
なんか、散々な言われようじゃない?
まぁ、世間一般から見れば僕はクズ男なんだろうね。
自己中心的で、相手の気持ちを理解しようとせず雰囲気をぶち壊す。
まさに嫌われ者って感じの説明文だ。
それでも、この高校で孤立していないのは、なんやかんや支えてくれるみんなのおかげなのだろう。
あー感謝感激雨霰、神様仏様同級生様ってとこだな。
帝はテキトーな感謝の言葉を並べながら黙々と階段を登っていく。
しばらくすると、階段が終わり、周囲の木もなくなって視界が開けた。
「なんか………すげぇ典型的な神社だな」
「学校島に移植する形で作られた神社なんだから、しょうがないでしょ」
菜々は迷わず神社の裏側に駆け込む。
「お〜い?そんなとこ入ってっていいもんなの?」
「別にいいのよ。この神社、見張りみたいな人いないし」
「(教師長に全部監視されてるけどな……)」
そう思ったとき、教師長専用(?)の監視カメラが見えた。
それに向かい、手をふるりと揺らすと、監視カメラから『ザッ』と音が聞こえた。
きっと第3番席さんが監視の妨害をしてくれたのだろう。
「(ありがとう3番さん………)」
苦労をかけるが、これからもそういう機転を期待しておきたい。
少し遅れて菜々の後ろについていくと、そこには黒の身体を持ち、金色の目を光らせた猫がいた。
しかもあの佇まい……絶対野良じゃないだろ…………。
「この子何で学校島の、しかも神社にいるのかわからないけれど、首輪もついてないし、ずっとここにいるから、野良っぽくて可哀想だったのよ」
「……へぇ〜」
菜々は『ギュンッ』と亜音速ぐらいのスピードで中に近づいて戯れていた。
その運動能力どっから出てきた。
てかこれ、あれだな。
学校側が普通の日本と同じ環境にしようとしたからだろうな……。
猫だけじゃなく犬、狐、もしかしたら熊なんかも連れて来て、そこら辺に放し飼いしたんだろう。
つくづく、命を何とも思ってなさそうな教師長達がやりそうなことだ。
「ふ、ふふふっ。みぃちゃん……ふふふふふっ………………」
「……もしかしてお前、ストレス溜まってる?話だけでも聞こうか?」
「っ………。うっさいわ。黙れカス」
「いつもに増して当たり強すぎない!?」
流石に黙れカスまで言われたのは今回が初めてだった。
なんだよ、猫可愛がってるところぐらい見られて恥ずかしいもんでもないだろうに。
最近の途中で撫でるのを中断された猫の方が可哀想になってくるぞ。
菜々が神社の階段の方へと戻る。
「ま、まぁとりあえず、今日は餌をあげに来ただけだ。それじゃあ帰るぞ」
「ねぇ、僕に猫可愛がってるところ見られたからって帰るの早くない?もうちょっと猫撫でたかったんじゃない?ねぇねぇ。真偽のほどは?ねぇね───」
「うっさい。舌燃やすわよ」
「やっぱり僕への当たりが過去最強だ!!」
菜々の後ろについてゆきながら、僕はもう彼女の猫を撫でてる姿を見ないと決心した。
僕は空を仰ぎながら1日を振り返る。
何というか、すげぇ激動って感じの1日だったな。
そういえば、忘れそうになっていた疑問を問いかける。
『そういえば、光榴』
『なんだよ』
『今日、なんで【特待生】のことは話すなって朝の段階で言ったんだ?』
『そりゃまぁ、バレちゃ今後に問題があるからな……。言えるようになった初めに言っときたかったんだよ』
『あーそうですか。またなんか企んでるわけね』
まぁ、積極的にバラすものでも無し。
春太が認めるズル賢さの光榴が言うなら、バラさずに黙っておくとしようか。
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菜々と帝が神社を離れた後、神社に一人の参拝者が来た。
この島にいるのは教師、学生、そしてこの学園島(仮称)の施設で働く従業員のみだ。
彼を罰するには一つ、問題点があった。
警察、という組織がないところだ。
学校は学校側の規律で、そこに反したものを罰していく。
それに、施設で働く人々も、こんな孤島で何かやらかせば、どのような処罰を受けるかわかったものじゃない。
だから、彼は罰されない。
彼らは、日本の法律で罰されることは決してない。
なぜならここは、【特技】主義の高校、《創名高校》だからだ。
「いやはや、今日も平和で何より何より。何と言っても、みーんなみんな、ハリボテの笑顔で張り切っちゃってるのがウケちゃうよな」
神社に参拝しに来た彼は、懐から一枚の紙を取り出す。
『この紙は選ばれた人にのみ配布される。この学校に紛れる、1人のみの【特待生】が見つかれば、望みが何でも一つ叶う。ただし、この紙の内容は誰にも口外しては行けない』
「こーんな紙を、【特技錠剤】と一緒に全員に渡すとか。この学校狂ってるとしか思えんわ。何のゲームしたいねんって話」
彼の今言ったことは事実。
帝も、菜々も、未来も、純也も、春太も、国満も、夏樹も知っている。
【特技】が出現する錠剤と共に全員に渡された紙。
そこには、全員に同じ内容が書いてあった。
つまりこれは…………。
「【特待生】以外の生徒にとって、他の生徒を蹴落とすゲームになってしまうってことだからなぁ………ククッ」
男は不気味に笑う。
黒金 練治、15歳。
特技、【錬鉄の加護】
なに、ただのしがない殺人犯だよ。
うらめもっ!
「なに?【特技】専門校志願者に犯罪者が紛れ込んでるだ?早く出せっつってもよぉ……。この島に入ったからにはウチの生徒だぜ?引き渡せるもんでもねぇだろうが」
日常はこれで終わり、次から体育祭準備期間の話になるので一応体育祭編にします。




