24.敗因は幸運と共に
勝負というのは、いつ、どんな時でも一瞬で決着がつくものだと相場が決まっている。
今回もその例外に無く、決着は一瞬のうちにしてついた。
春太の拳。
握力から筋力まで【スーパーエネルギー】でバカみたいに強化しまくった、重拳である。
それに、あの日敗北を喫した原因でもある、肘からエネルギーを噴出することで推進力を得る『ジェット機構』も加え、最大限に、最も衝撃が効く腹部に狙いを定めていた。
だが、彼の元の身体は神咲 帝である。
たったそれだけの拳を、ただ食らうだけの身体ではない。
それに、加闘 伊狩という人格を理解していないのも一つの敗因であった。
なぜなら、彼には。
今まで戦ってきた戦闘経験を全て保管してある人格なのだから。
もちろん、春太と戦った時のことも彼の頭に残っているし、他の戦闘経験による圧倒的なほどのセンスがあった。
結果的に言えば…………山岸 春太。
彼は、伊狩の一撃の下に、あえなく撃沈したのであった。
その間、約0.6秒。
国満でさえ目で追うことができないスピードであった。
「うそ………だろ……………?」
これには、今まで静観を決め込んでいた純也も戦わざるを得ないと感じ始めている。
「全員一撃じゃねぇかよ………もうちょっと耐える奴いねぇのかよ!!」
伊狩は憤りながら、かろうじて立っている国満の元へと歩く。
国満と伊狩で睨み合いを続ける一方で、国満は作戦を考えていた。
(なんでもいい。あいつを止める方法……………。俺が呼び出したんだ俺で片付けなきゃいけない)
彼も未来と同様に、帝の正体へと近づきかけていた。
人格は複数、筋力は少なくとも常人の5倍は下らない、さまざまなものを見通し、右腕があることを忘れているような生活をしている場面もあった。
観察による見立ては的中。
三重人格に加え《ラプラスの悪魔》。
これでも強いのに加えて超高性能の義手を自在に扱う。
【特技】無しでもこの高校でやっていける、まさに『怪物』。
「……………しょうがない、かぁ……」
そう言うと、今まで中立を保ってきた純也が、明確に井狩に敵意を示した。
「お前か。ウチの子がお世話になってます」
「そんな近所のおばさんとの会話みたいなボケができるんだったら、話し合うとか平和的な解決方法をしようとか思わないのか?」
「無理だね。この胸の中を埋め尽くす怒り、頭を支配する憎しみ。そう簡単に拭う気はない」
沸々と湧く怒りに左手に持った『元』右手である義手を強く握る。
「そうかそれじゃあ………」
「だが、君は別だ。特別な【特技】。【称号無し】の君には、ウチの子と仲良くしてやって欲しい」
「………… 【称号無し】とか、意味わかんねぇよ。俺の【特技】なんだからもうちょっとわかりやすい言葉を使って欲しいもんだなぁ…」
そう言いながら、純也は井狩に歩み寄る。
井狩が握手をするように手を差し伸べる。
「これからも、よろし─────、っ!」
急な悪寒を感じ、咄嗟に後ろに跳ぶと、カラスの糞が上から落ちてきた。
「………あれがかかっちゃ格好つかないからねぇ。じゃあ、改めましてだ」
「いいや、お断りしておくよ」
再び差し伸べようとした手を止めて、井狩は思わず目を見開いた。
「お前の軍門に降る気はないって言ったんだ」
「君は、この握手を勘違いしていないか?停戦でも不平等条約でもなく、ただの親交の証だ」
「いぃや、俺はお前と戦うことにしたって話だ」
おもむろに右手を井狩に掲げる。
その手の甲には、何かの紋様が刻まれていた。
「【必勝の運否天賦】、発動」
彼がそう言うと、紋様が光り輝き、辺りに波紋のような光を伝播させていく。
その瞬間、情報量が多すぎる展開が広がった。
「なっ…………!!」
砂埃が的確に井狩の目をつぶす。
目眩しの後、次に来る攻撃のための防御、そして急所を的確に判断した上での攻撃手段が自然に用意されていた。
例えば、低空飛行のカラスが背中側から突っ込んできたり。
例えば、目に直接入る突風が吹いたり。
例えば、そこらにある窪みにつまずいて骨にヒビが入ったり。
「これが………【必勝の運否天賦】!?」
「俺はまだなんもしてないんだぜ?何全て終わったかのような顔してやがるんだよ!!」
純也が、歩み寄る。
ポツポツと、上空から雨滴がしたたりはじめる。
「雨………っ!!!」
井狩は彼の一歩一歩に、背筋が凍るほどの危機感を感じていた。
純也がそこらの石を拾って投げる。
たったその行動だけで、自然の全てが井狩に牙を向く。
蜂の群れの中に石が突っ込み、蜂の群れが井狩に襲いかかる。
それに気を取られるが、その石は電灯の柱に的中。
なぜかグラグラとしていた電灯は、その僅かな衝撃により井狩に向かって倒れる。
井狩は電灯を片手であしらい、蜂を振り払おうとしている。
だが、電灯が地面に着くのが良くなかった。
電灯が地面に落ちることで、その衝撃により、周囲の電灯の下方がベコリと凹んだ。
今は急激な雨が降り始めている。
きっと、急激な温度変化による空気の収縮によるものだろう。
たまたま、そこの公園の周囲の電灯のみが欠陥品だったのだ。
周囲の電灯3〜4本が一斉に井狩に向かって倒れてくる。
「こなくそがっ………!!」
井狩は蜂に視界を奪われながらも電灯を全て避ける。
だがその時、電灯の灯り部分にあるガラスが弾けた。
それら全てが偶然、鋭利なガラス片となり、全て井狩に襲いかかる。
この細かすぎる痛みに井狩は顔を顰めるが、ただそれだけだ。
「なんだよ………この程度、警戒する必要も……………!!」
井狩が警戒を緩めた一瞬、大本命であるソレがきたのだ。
それは………。
ゴロゴロと鳴る、雷であった。
彼はソレの速さにギリギリ反応して見せたが、やはり十分に防御する時間がなかった所為か、行動を阻害することはできた。
それでも、彼は止まることはない。
「おらあぁ!!!この程度かあぁ!?政府の【特殊戦闘技能】とやらはよぉ!!!」
雷が来そうだと少し逃げていた純也と、その距離をジャンプで縮めた井狩が、真正面から対峙する。
「やはりお前は素晴らしい。ここで殺さなきゃいけないのは残念だよ」
「残念ながら、お前に俺は殺せない。タイムオーバーだからな」
「??どうしてだ?俺は勝った。なぜ時間切れだと?」
「お前は確かに俺の猛攻に耐え切った。だが、それは耐えただけであって俺に一発も攻撃は入っていない。それに…………」
「残念ながら、この試合は団体戦なんだ」
声が、した。
気配を感じることはできなかった。
つい先ほど聞いた声が、背後から耳元で囁かれた。
『入れ替われ』
耳元でそう囁かれると、井狩の意識はどんどんと深いところへと落ちていった。
「……ぁ……………ま………………て…………………………」
こうして、最悪の敵である、神崎 帝こと、加闘 井狩との戦闘は終了した。
うらめもっ!
「あそこの電灯、かなり新しいはずだよな?」
「まぁ、中の気体が密閉されてたらそりゃあ凹むよ。でも、そんな石で倒れるほど弱かったっけな………?」




