23.新敵は嵐のように
国満と夏樹。
それぞれ激しい想いを胸に戦闘が再開する。
『止まれぇ!!』
国満の【言霊の加護】が発動する。
夏樹の体の筋肉が全て硬直し、一瞬完全に動きが止まる。
「お前はいっつも!一人で抱えてばっかでぇ!!」
「チッ………………だから、そうやって和解しようと歩み寄るようなところが嫌いなんだ!!」
筋肉の硬直を力技で振り切り、拳を握り、国満と夏樹の拳が正面からぶつかった。
もちろん、国満の拳が勝つ。
だが、それに負けずに右足を軸にして回り、回し蹴りを入れる。
そこで国光が脚を受け止め、さらに夏樹を投げ飛ばす。
力量差は歴然。
スペックの差は圧倒的に国満が優勢だ。
「諦めろ。もういいだろう、これ以上は」
「その余裕そうな態度もムカつくんだよぉ!」
殴りかかるが、国満はその腕を掴み引き寄せる。
『気絶し───』
「うらああぁぁ!!!」
声で【原初の言霊】をかき消し、そのまま殴りかかる。
流石に声を出した後では動き方に違いが出るのか、この拳に対応するのはちょっと遅れていた。
それでも、天才との格差は埋まらない。
たった一発くらっただけで、彼が完全に計算した、いわゆる『勝利の方程式』と呼ばれるものは揺らぐ兆しも見せない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「なんだよ、普通に動けてるじゃないか。なにをそんなに、自分を卑下してるんだ?」
「お前の!その何事も平然とやり過ごす!その姿勢が!気に食わないんだよ!!!」
感情論。
相手と噛み合うことのない、不毛な主張の押し付け合い。
「もう我慢ならない。使ってやる………」
そんな中、均衡を崩したのは、痺れをきらした夏樹だった。
「……!?ちょ、おい。それは待て!早まるな!!」
「知るか!対策とか取ってくれんなよ!?【洗脳の加護】!!」
国満の視線が、夏樹に吸い込まれていく。
国満は……………抵抗しなかった。
この後起きる展開がある程度わかっていたからだ。
そして5秒経ち、完全に洗脳対象が国満に移った瞬間、辺り一帯に空を切り裂いたような轟音が鳴り響く。
そして、それは国満たちの近くにあった。
「だから………言ったろうが……………っ!!」
まだ洗脳が弱いのか、勘付いていた国満が言う。
振り返るとそこには、悪魔のような笑みを浮かべながら、それは彼らを待っていた。
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憎い。
憎い憎い憎い。
あのガキが憎い。
それを静観する男も憎い。
この世に生きている物たち全ても憎い。
憎悪である。
憤怒である。
この憎悪に絶え間があるはずもない。
この感情にハンドルはつかない。
ハンドルなんて面倒なものは、生まれたその時に取っ払っていた。
「チッ……ここ最近は頭ん中に自分以外の意識が入ってくんのが多すぎんなぁ…。でも、おかげで出てこれたんだ。感謝しなきゃなぁ」
伸びをする。
が、彼には気になる点があった。
「ん!?右腕………はぁ?この右腕、小細工ばっかりじゃねぇか。あーもうヤダヤダ。こんな腕使わずともなぁ……」
そういうと、右腕を掴み、強引に引き剥がした。
そうすれば必然的に使える腕が一本のみとなる。
「よっしゃ。じゃあ、この状態にしてくれたアイツらにお礼しに行かなきゃなぁ?」
そういうと、屈伸を始め、その瞬間、吹き飛んだように消えた。
その者の姿は神咲 帝である
だが、彼の【三重人格】。
その異常性が、今発覚する…………。
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「帝………なのか?」
片腕がなくなり、何か棍棒のようなものを持っている。
少し変わった雰囲気を纏った『神咲 帝』が、そこにはいた。
だが、国満はそれの本性を的確に見抜いていた。
「夏樹!洗脳を解いて帝にかけろ!!このままだと……」
言いかけた瞬間、弾丸のように飛んできた帝により、国満は数メートル弾き飛ばされた。
「っと、腕で殴る前に勢いだけでぶっ飛んじまったなぁ」
「………お前はなんだ?」
「よぉく聞いてくれた青年よ。俺はお前たちのような青春をとうに通り過ぎた男。神咲 帝を名乗る何か。そうだな……………」
少し考えた後、思いついたように名乗った。
「加闘 井狩だ。お前たちを殺す、ただの殺戮兵器だという認識だけで十分だ」
国満はもちろん、夏樹も、彼がどれほどの強敵なのか勘付いていた。
なんでも人並み以上にできる国満が、格闘技だけ習っていないわけがない。
柔道も黒帯程度なら余裕だし、他の格闘技も上位に食い込む。
だが、それ以上に彼のフィジカルが強すぎた。
国満が吹き飛ばされるほどの強さ。
それだけで、十分警戒するに値するのだ。
「なんだ?そんなにぶっ飛んだのが衝撃的だったか?知りたいか?教えてやらんけどなぁ」
「どうせ、文字通り筋肉の量が違うんだろ。体力テストもそうだった。まさか、そのチカラだけで春太を圧倒したってのか……………!!」
チラリと棍棒の方が視界に入ってしまい、驚愕した。
それが、腕だったからだ。
「お前、その腕は!!」
「あぁ、この金属の塊か?俺の義手だよ。あれ?コイツ、この腕が義手だって言ってなかったのか?」
『あれ?』と困惑する井狩。
その隙に、夏樹が距離を詰める。
「おっ、いいねぇ。威勢があるやつは嫌いじゃない。が………」
そしてそのまま、その二人は消えた。
いや、厳密には、井狩が高速で距離を詰め、棍棒と化した義手で、間に合えないスピードで殴り飛ばされたのだ。
「うん。威勢があるやつは嫌いじゃないんだが、好きでもないんだ。なんてったってしつこいからな」
殴り飛ばされた夏樹はさっきまで帝と戦っていたはずの体育館付近に落下した。
その隙に、国満が戻ってくる。
「さすがに………一人じゃキツイぜ…………?」
「だから?そこの男を呼ぶか?」
斜め後ろを指差す。
その指の先には、夏樹を足止めしていた純也であった。
「え……俺?いや、いやいやいやいやいや。やるわけないじゃん、あんな怖い奴の相手。馬鹿なの?」
「一匹狼を打ち倒した男とつるんでる、登校初日に告白まがいなことしてる人に言われたくないな」
「どれも事実を言ってて何も言い返せないんだよなぁ。でもとりあえず、そいつの相手はお断りだよ」
純也は静観を続けることを選んだ。
じゃあ、しょうがない、
信用はできるわけないが、彼に頼むとしよう、
「まぁ、元気いっぱいな彼に頼むとするよ。気づいてるんでしょ?もう一つの敵」
「…………?どういう……………っ!!」
その瞬間、後頭部に蹴りが飛んできた。
足に10キロの重りをつけた、武術の達人程度の蹴り。
その視界の端にとらえたのは、オレンジの散りばめられた、黄緑のオーラ。
「俺が連れてきたろ。見えてなかったのか?」
「あの、一匹狼の男か………!」
蹴りを受けた井狩が首をさする。
【スーパーエネルギー】。
この【特技】を十全に使いこなせない状態のあの時、彼は神咲 帝に敗北した。
「でも、今ならいける気がする……!!」
【特技】のある生活に慣れ、今回の相手は加闘 井狩。
あの義手もない。
今回だけであれば…………。
「汚名返上ってやつさあぁぁぁ!!!」
腰に据えられた、強く握られた拳。
それは黄緑色のオーラを纏い、そして肘からもオーラが漏れ出ていた。
そこから、コンマ数秒。
そこら一帯の地面がひび割れるほどの衝撃が広がった。
そして…………………。
そこに立っているのは、加闘 井狩ただ一人であった。
うらめもっ!
「あの公園、かなり広い石造りの広場みたいな場所さ。なんか封鎖っぽいことになってたけど、何があったの?」
「喧嘩?らしいよ。なんでも、《塞翁中の拳狼》とそれを倒した、あの帝ってやつ。あとどっかの御曹司とその執事も巻き込まれてるらしい」




