17.グループ学習は混沌に
【特待生】の話をしよう。
基本、この学校に入学費やその他もろもろはかからない。
なぜなら、この高校は希望者を募った後に抽選で決めるため、そんなランダムに金をぶんどることは憚られたらしい。
それに。この高校で生活することこそが社会への貢献なため、その上金をせびると言うのはさすがに………といった具合だ。
この高校は実際に【特技】が世界に広まった時に起こる問題点等を洗い出すための作業だ。
そのため受験や面接などは行わず無作為に選出された200名を入れる。
まぁ、そこまではいいとしよう。
ならば、【特待生】とは何か。
教師長の第0〜6番席までの7人から選ばれた特殊な生徒。
教師長の中でも2人【特待生】を出していないから、今年は5人の特待生がいた。
【特待生】の役割は、『さまざまな視点から高校を見て、立場別の客観的報告をする』ことだ。
ちょうどちょっと前、教師長達により【特待生】がどの立場にいるかを各自報告したらしい。
そこで、新たな視点の欲しさに、【特待生】達の立場決めが行われたらしい。
一人は、そのまま続けろ、と。
一人は、とにかく目立て、と。
一人は、さらに深めよ、と。
一人は、もっと集めろ、と。
一人は、──────、と。
5人の【特待生】に、指示が送られる。
もちろん、こんな見張り役をやらせるだけであればただのデメリットだけだ。
ちゃんとメリットとなるものを与えられている。
これからの人生にも影響するようなものだ。
それは………………………。
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「後2日、ねぇ…………」
月日は何事もなく進む。
昨日も食堂で会う以外は国満らとの関係も薄かったし、今日もほとんどトラブルは無しだ。
そんなことはどうでもよく思えてくる。
なぜなら、肉うどん定食の美味しさが忘れられないからだ。
昨日食って美味しかったから今日も食べようと思ったら売り切れていた。
やはりあれほど美味しいものは簡単に売り切れてしまうのか。
多くの人が混雑する中膝から崩れ落ちた僕を見かねて、食堂のおばちゃんが肉うどんのタレを薄めて作ってくれたおじやをくれた。
めっちゃ元気出たな、あれ。
とまぁ、平和過ぎるほど平和なのだった。
よくあるモノローグでは、『この後、あんなことになろうとは思いもよらないのであった……』的な奴が流れるだろう。
だが、現実とは無情で無常なものであり、そんなことになるはずはないのだ。
「期待した諸君、残念だったな!!」
唐突に後ろを振り返って指パッチンを鳴らす。
そこにいたのは…………………。
一度も見たことのない人が数人、ヤバい奴を見る目でコチラを見ていただけであった。
おかしなことをしているのはわかっていたが、人に見られているとは思ってなかった。
しかも数人の目撃者とは予想外も予想外が過ぎる。
一回死んできたいのだが、まだ許されるか?
と、こんな変なことをやっていると目立つだろう。
まだ1ヶ月しか経ってないし、明後日にはGWなんだから、その前に変なウワサが立たないようにしなければ。
とりあえず恥ずかし過ぎるから、突如しおらしくなって、いそいそと帰る感出しとくか。
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そして、翌日。
「グループ学習をするぞ」
「……………へ」
なんと、自由にグループを作って授業をすると、陽キャであれば天国、陰キャであれば地獄の授業が舞い降りた。
三人以上であれば人数は問わないとか。
普通の人であれば楽勝だろう。
そう、普通の人であれば。
残念ながら、ここにいるのは生粋のぼっちである。
こんな『友達何人いるのかな』検査みたいなものはそもそも『参加しない』が陰キャの絶対条件だ。
自分から友達(笑)の元に行けるほどのコミュ強でも無いから大人しく自席で待っているが………。
「春太、友達を作れ」
「入学直後にあんな派手なケンカ起こした張本人にそれ言うか?」
僕の元にただ一人集まった春太は、鬱陶しげに反論してくる。
元々友達はいなかったが、僕という喋り相手(恨み口限定)ができてから、僕としか交流がない。
あったとしても僕の周りの未来、純也、菜々の3人程度だろう。
「そういえば、お前の学校での評価はかなり下だったな」
実はちょっといい人なんだぞ!と心の中で反論しておくとしよう。
バスの中で座っている生徒の体力作りのために、座席を代わったり。
このままだと貯金を使い切りそうで怖っかっただから、お金を預かったり。
友達の食生活を心配して、肉やお菓子をもらってあげたり。
うん。
弁明の余地とか、ねぇわ。
なんと言うか………ハードル上げてすまんな。
「おい、今すげえ失礼なこと考えてないか?」
「ハハハッ」
「おい」
と言っても、僕もぼっちなんだから、友達の作り方とか知りたいもんだわ。
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「と、言うことで」
パン、と手を叩く。
「陽キャの中でも生粋の陽キャ、黒田 純也どぅぇ〜す」
「おい、山岸がいるなんて聞いてないんだが?」
戸惑うように聞いてくる。
だって『山岸もいるよ』なんて言ったら絶対来ないし。
「今日はよろしくお願いしまぁ〜す」
「お願いしまぁ〜す」
挨拶って素敵だ。
昔はあんなにグレていた山岸君もすっかりこんな丸い子に育ってしまって。
「おい、山岸もそのノリに乗るな。俺はグループ学習の班に入って欲しいって言うから来たんだぞ」
「ああ、班には入ってもらうぞ。この僕ら二人の間になっ!!」
「もっとまともなメンバーいなかったのか!」
「そんな奴と僕が交流があると思うか?」
そう言うと山岸はようやく押し黙った。
でもそこで反論しないのは悪意があると僕は思うんだ。
「まぁ話をまとめると、ぼっちの山岸と帝のために俺を入れて3人グループ作ろうぜ、と?」
「そんな感じよ。頼めるよな?」
「え?無理だけど」
「え?」
「え?」
「え?」
三者三様とはこのことか。
三人でニュアンスの違う『え?』が聞けるとは、今日はいい日かもしれないな。
いやはや、にしても聴き間違えてしまったな、もう一度聞いてみよう。
「なんて?」
「だから、無理」
「え?」
「え?」
「え?」
何回このくだりやるんだよ…………。
「俺もうグループ入ってんのよ、三人グループだからこれ以上誰かが抜けるわけにもいかなくてさ」
と、黒田 純也容疑者は供述した。
せめてもの慈悲で判決は死刑にしてやろう。
ったく、もうぼっち仲間でチームを作るしか無い感じじゃん……………。
待て。
このクラスで、もう一人のボッチってまさか……………。
「こんな巡り合わせがあるんだねぇ。よろしく、喧嘩相手くん?」
最悪だ。
金田と山岸と僕とか、このクラスのグループ学習、カオスだ…………。
うらめもっ!
「志動ってあいつ何者なんや?金田の執事?なのに生徒だよな。金田よりもコミュニティ広いし」
「まぁ、志動自体は普通にいいやつなんだよな。仕えてる奴がただのコミュ障ってだけだよ。アイツはアイツで高校生活楽しんでるらしいぜ」