1.入学は平凡と共に
目が覚める。
今日は初の登校日か。
俺の名前は上代 光榴。
不肖の身ながら、この《創名高校》の入学者に選ばれた一般市民だ。
この《創名高校》は、高校と言っても海にポツンと浮かぶ離島のような場所に建てられている。
【特技】なんて怪しいものを扱ってる高校を野放しにしてはおけず、生徒達を外に出すと問題が起きる可能性があると見込んだ政府が、もう学校の敷地をバンバン増やして何もかも詰め込んだらしく。
そのおかげか学校の敷地の外には出れない代わりに、学校の中で全てが済む、という超自由な軟禁状態になった。
と、いうか
僕がこんな学校に《特待生》?のように入れるのがおかしいんだ。
指名なんてしやがったあのおっさんを僕は数年ぐらい許さないぞ。
僕の生き様は、少しのイレギュラーがあったが、それ以外はごく普通の日常の連続のようなものだった。
簡単に言ってしまえば、一般市民。
庶民もいいとこって感じの生活だ。
まぁ、ほんとに少しのイレギュラーを除いたらの話だけどね……。
その少しのイレギュラーのせいで、僕はこの高校に入ることになったんだろうし、この高校生活では絶対に関わってくると思う。
だって、僕はーーー
あの日から、怪物になったんだから。
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高校生活初日。
今日の日程は、入学式→クラス別の自己紹介→今後の活動について→解散
という流れだ。
【特技】がどうだこうだと言ってる割には、スタンダードな入学をする高校だ。
だが、今日は気を引き締めていかねばならない。
人は第一印象で決まる。
ここで大スベリをやらかせば、今後の高校生活はひどいことになる。
みんなにはもう【特技】が発現している。
前の《ランク決定用テスト》の実技でも使ったから、自分の【特技】を把握していないやつはいないだろう。
僕は、なるべく【特技】は言いたくない。
僕は、なるべく楽な生活をすることを心がけてきた。
努力を避けた結果、《ランク決定用テスト》ではテスト中に寝た。
得意分野はある程度できたけど、他の教科はてんでダメ。
【特技】も、人から見れば『ザコ【特技】』と言われるような【特技】だ。そこまで喜び勇んで言いたくはない。
だが、多分このような高校には【特技】自慢したい奴が複数人はいるだろう。
そいつらに関われば、僕の高校生活は終わるし、比較対象として扱われる。
別に、普通の喧嘩なら絶対負けないだろうが、相手は【特技】持ち。
勝てるわけがないのだ。
こういうのは、あまり騒がなければややこしい事態にはならないのだ。
静かに教室に入る。
まぁそれなりに人がいる感じだな。
40人中16〜7人ってぐらいだ。
ま、【特技】がなければ全部普通の高校だ。
いいスクールライフを送るには別に困ることもない。
『か』んざき、だから出席番号は12番。
右から2番目、最後尾の席に座る。
周りの人が頭よく見えるって本当なんだな。
もう萎縮しかできねぇよ。
面倒なのは嫌だが、ぼっちがいいと言うわけでもない。
まぁ、緊張するが、今席にいる左隣の人に話してみるか。
左隣の人を見る。
うわ、何この人。
モデル並みに美人じゃん!
髪はちょっと茶色っぽいショートで、身長は高め。
胸が爆発的に大きいが、多分僻みなどのせいか、見られることを恐怖しているような眼差しだ。
っ……。
こういう人には話しかけにくいよな……。
いや、ここで迷っていてもしょうがない!!
ええい、ままよ!!
「あのー…」
キッ!
と、案の定こちらを睨みつけてきた。
うん、この人、多分機嫌悪い人だ!!
ちなみに、この学校は応募した人の中から抽選により入学者が決まる。
まぁ、抽選とは名ばかりで、実際には選抜され決まっているらしいが、僕はそんなこと知らない。
知らないったら知らないのだ。
応募で来たっていうなら、この学校には望んで来たもんだろうに、なにかあったのだろうか……
「なんですか。今、読書中なんですけど」
あ。
あぁあぁ読書中でしたか。
それはまぁまぁまぁまぁまぁ………申し訳ございません…………。
………まぁ読書中に話しかけられたらイラつくよね。わかる。
「いや、その本、僕も読んでるから、興味があってさ」
「…………本を、読むのね」
おぉ、少しは興味を持ってくれたようだ。
この調子でいけば高校初の友達ができるわけだ。
「あぁ、推理小説やヒューマンドラマ、サスペンスとかを読んでるよ」
「へぇ、本を読むより、テレビでアニメ見たり、読むとしても漫画みたいなものしか読まないような人にしか見えないけど」
なんか、そんな酷評されるような見た目してるの?僕
「ひどいなぁ、人を見掛けで判断するもんじゃないよ?」
とは言うけど、彼女の指摘はほとんど的を射ていたな……。
「あら、違うんだったらごめんなさい?私のような暗い人とは関わらないような人だと思ってたわ」
「高校入学初日でそんな基準で友達選んでられるかって話だよ。ボッチはなるべく避けたいし」
これは事実である。
だが悲しいことに、コミュ障にそんな誰彼構わず友達になるなんてことはできない。
「いいわ、気に入った。あなた名前は?」
「人に名前を聞く時は自分から名乗るもんだと思うよ?」
「ふん、生意気に面白いことを言うわね。いいわ」
そう言い、彼女は立ち上がる。
「私の名前は逆原 菜々よ。はい、あなたの名前を教えなさい」
「はいはい。俺は上代。上代 光榴だよ」
これで、早くも1人目の友達ができたのだった。
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陽キャみたいな人に話しかけられ、小説の話題で仲良くなってしまった。
「ふふ。よろしく、光榴さん?あの《ランク決定用テスト》、どうだった?」
「あー、あれね?かなりいい感じでできたと思うよ?手応えはあったかな?」
「!?そう。私も、かなりいけたと思うわ。あなた頭良かったのね」
「まぁ、たまたま得意教科だったからね」
「あ、この高校といったら【特技】よね。どんな【特技】だったの?教えて?」
私は責任感が強いほうだ。
だから、私は他人の失敗に責任を感じてしまうことがたまにある。
だから、他人の責任を無理に感じてしまうなら、自分がやって責任を感じないほどの仕事で終わらせて終えば、責任に縛られずに済む。
そんな考え方から、昔から生徒会や学級委員長をやってきていた。
今までなら、それができていた。
でも、今回の、この高校はそう上手くはいかない。
【特技】なんてものを持ち出したら暴れ出す奴がでてくる。
止められる気はしない。
だから、誰か、この高校で一緒に学級をまとめて、責任を一緒に背負ってくれる人と協力しあいたい。
そう思っていたが……
「僕の【特技】はね……【触れている気体を弾く】。つまり、僕の体の周りから、空気が消えるってことだ。菜々ちゃんのは?」
「私は【焦土】っていう【特技】。炎系の【特技】ってだけ覚えてればいいわ」
話を聞く限り、彼はかなり使える。
ここで仲を深めておいて損はないかもしれない。
でも、なんだ……?
なんだか、空を掴むような違和感が残る。
なんだか、全て本物ではないような。
全てが偽物という、謎めいた予感がする。
彼からは、そんな雰囲気が感じ取れて………
ガラガラガラッ!
「やっほー!みーんなー!?おっはー!!」
思考を深めた瞬間、扉が勢いよく開き、可愛い系であろう、メッシュに染めた髪をショートにした活発な女子がやってきた。
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なんか、めっちゃ元気そうな人が入ってきた。
その人はどんどんとこっちに向かってきて………
と思ったら普通に僕の右隣に座り始めた。
なんであんな挨拶した後に誰からも反応ないのに、平然と席に座れるのかすごい気になる。
僕だったら反応なかったら数週間は落ち込むな。
でも、気になるからといって話かけてしまうと、そういった輪の中の人間と認識され、【特技】で笑い物にされるだろう。
ここはちょっと影を薄くすればあちらからも話しかけられないだろうし………
「ねぇねぇ!私、右いないから左のあなた!私、宇賀田 未来っていうの!気軽に『未来』って呼んでね!あなたは?」
………早速見つかってやがる。
なんと言えばいいのかね。これ。
とりあえず、ここで心象悪くすればイジメの対象になりかねない。
愛想よく相手しておかえりいただこう。
「上代 光榴です。よろしくお願いしますね、宇賀田さん」
さぁ!この営業スマイルに勝てるか!?
「『未来って呼んで』って言ったのになぁ〜、よく聞こえなかったなぁ〜?」
「…よろしくお願いしますね、宇賀田さん」
「あ、これゲームでよくある、特定の選択肢選ばないと抜けられないやつだ」
なんか、もうこれ以上話しかけてくんなって意思表示をここまでポジティブにとらえてくる人初めてみたよ………。
「で、光榴くん?」
「?、はい?」
「あなたの本当の名前を聞かせてほしいな?」
その瞬間、左隣でこちらを見ていた菜々は目を見開き、僕は真顔に戻った。
本当に、面倒くさい奴がいるな。
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この人の笑顔、言動、全てが嘘くさい。
「あなたの本当の名前を聞かせて欲しいな?」
もちろん、これが本名じゃないという確信があったわけじゃない。
なんか、嘘が混じってそうだなぁと思い、今ここで混ぜる嘘と言ったらそこしかないからだ。
「で、本名なんなのさ〜、言ってみよ〜う!」
こういう時は囃し立てるのが一番。
そうすれば相手は逆上して名乗ってきてくれそ………
「だからぁ僕は別に嘘を言ってないし僕が上代 光瑠でも、逆原 菜々でも宇賀田 未来でもなんでもいいでしょって言ったの名前なんてただの人を区別して読みやすくしただけの整理番号と一緒なんだからこだわらなくていいだろそれに僕が嘘をつくメリットなんてあるわけないんだからメリットないことはやんない方が得だろだから嘘つくなんてそんなくだらないことするよりもちゃんと正直に話した方が面倒もないしなんも気負うことはないだってのにお前は僕が嘘をついた前提でうざいくらいにすり寄ってきてあーだこーだ言ってんだからいい加減黙れって言う僕の気持ちも理解してほしいんだていうか嘘を疑ってくる君の方が怪しいんじゃないのお前の方が嘘つき感ハンパないだろ嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つきできることなら早くお前とのこの話し合いを終わらせて今すぐにでも寝たいんだけど早く結論言ってくれないかなぁバカなのかお前はバカなのか馬鹿なやつってほんとに話をまとめるのが苦手でウダウダウダウダと問題を先延ばしにするような奴がいるよなそう言うのって本当に無駄だと思うんだああ言う奴らのことを正真正銘バカって言うのかもねそれに対して僕はちゃんと言いたいことをまとめて人にわかりやすく説明できるから素晴らしいだろうこういうのが理想的なんだあぁ君のような馬鹿で無能な能無しには理解できないよな難しい話をして本当に申し訳ないと思っているよそれでも僕はこう思うんだ人って言うのは無駄を省いていくと…………」
「ねぇ、そういうのいいから。早く答えて」
私は【特技】で出るスパークを使って威嚇する。
彼は壊れたように始めたのらりくらりとした説明をやめた。
「あなたは、誰?」
うらめもっ!
「【特技】には序列ってのがあるんだ。無称号→スーパー→加護→原初、と言ってね。でも過信することなかれ、だよ。たまにその枠組みから外れた化け物や、単純に扱い方次第では無称号が原初に勝つ例があるからね」
逆原の【特技】は『枠組みから外れた化け物』の部類に入る