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この未来なき世界 ~自由を求めた少女の物語~  作者: いから
It's more blessed to give than to receive
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無用な死

廊下への入り口のドアが吹き飛ぶのがスコープ越しに見える。


「来たぞ、行動開始」

俺たち7人はその掛け声とともに交互に絶え間なく廊下に銃撃を始める。


同時に相手も撃ち返してきたがこの弾幕の中を一人で撃ち返すのは困難だ。

相手もそう思ったのか、EAOは廊下に飛び込み射線が切れた。


ここへの道はこの廊下一つしかない。

狭い上に150mある長い回廊では制圧射撃による自由行動の妨害が効果的だ。


弾丸の対EAO加工弾は特殊な素材だけあって製造の費用が高く、この辺境の地にはあまり高性能なものはない。

だが、最低でも1時間半は持ちこたえれる弾数はある。それまでに救援は来るだろう。

管制室で援軍を要請していたはずだ。


ちなみに、ここまで来る途中いくつか鉄条網などのバリケードも設置してあるがこれにはあまり期待していない。


EAOの生命力、自己修復能力は凄まじく、人間では致命傷に達する攻撃も耐え、数時間で再生する。


肺が潰れても足の骨が折れても動けるからな、あいつらは。


しかし、元が人間である以上銃を食らい続ければ死ぬ。

まあ身体を硬化して衝撃を抑える個体などいるが、硬化には数十分を有すから今は問題はない。


「この制圧射撃は突破されまい」

俺は慢心していた。だが、同時にこいつの特性を甘んじていた。


「うっ」

右側にいるワトソンが銃で撃たれ、その衝撃で倒れた。


「くっ、どこからだ?」

確かに射撃音はする。しかし廊下の先のどこを見ても敵影は見えず未だ隠れたまま。それにこの違和感……

もしや弾丸をUターンさせてこちらが射角が取れない位置から攻撃している?


「がっ」

また一人倒れた。まずいな。


「射撃中断!一度を倒れた2人を遮蔽物の裏に──」


そう呼びかけている途中、隣にいる撤退の援護射撃をしているマイクが倒れた。


「くっ……」

俺はマイクの体を掴み、銃が当たらない位置に引きずり込んだ。


相手はこの一瞬のスキを逃さず、一気に距離を詰める。

このままじゃここに来る。

倒れてない他の三人は初めての経験に反応が遅れている。まあ無理もない。


だが、ここは隊長として俺が止める。

俺は壁の横に銃口だけを出し撃つ。

相手は咄嗟に近くの遮蔽物の裏に隠れた。当たったか?


「今だ! 体勢を整えて制圧射撃を続けろ!」


「……はい!」

皆が応える。


そして俺は言い終わり前を向いた時だった。黒い塊がこちらに迫っているのが見えたのは・・・

まさかあれは対戦車地雷──!?


「隊長!」

反対側にいたダンが俺を押し飛ばした。


次の瞬間、大爆発が起こった。


俺は爆風で飛ばされる。


吹き飛ばされ、仰向けになった俺は鼓膜が破れたのか音が聞こえない。


横を見ると、仲間のものらしき体の部位がある。

体中が切り裂けるように痛い。俺たちは……俺は負けたのか……





幼少期、俺はニューヨークに住んでいた。

日々平凡として、何気ない日常を楽しんでいた。

だが、事件は起きた。忘れもしない、1982年12月10日。

学校帰りだったか。


俺は友達と楽しく話しながら帰っていた。その時、街の中心から爆音が聞こえたのだ。

その後の記憶は覚えていない。恐らく必死に逃げ惑ったのだろう。


気づいた時にはあたり一面の瓦礫と泣き叫ぶ悲鳴しかなかった。


世界二大EAO事件として語りつがれているニューヨーク事件。


俺は友を、妹を、親を、故郷を、全てを失った。

そしてその日誓ったのだ。この世からEAOを根絶やしにすると――


毎日欠かさず努力に励んだ。俺は非力な自分が悔しくて仕方なかった。

そして俺は念願の対EAO特殊部隊に入隊した。数年前だ。


この努力が無駄だったのか?いや違う。努力なんていい。

まだだ、まだ終わってない。仲間の犠牲は無駄にできない!もう無駄な死は嫌なんだ。




「く、っぐ、くそぉぉ!」


俺は最後の力を振り絞り立ち上がる。

ありえない量の血が落ちる。骨が見えるほどの怪我もしている。

俺は痛みに耐え、横に落ちていたショットガンを拾い壁にもたれ構える。


EAOが来た。


「人類……舐めんなよ……!」

俺は相手に跳びつきショットガンの引き金を引いた──




及ばなかった。


あいつは寸前で体を捻り、銃口から心臓に続く弾道を肺に変えた。

悔しい、だけど流石にこれは致命傷だ。誰かが意志を継いでくれる。

援軍も来るだろう、この攻撃は絶対に人類の一歩に繋がった!


「はは、すまんな、友よ」


俺は上を向いて倒れたまま、息を引き取った。



------------



「はい……はい……大丈夫です。援軍の必要はありません……はい……はい、分かりました、では失礼します」

血まみれの管制室にいる中尉は本国との通信を切り、輸送車を取りに行った。

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