叶わぬ望み
「あ……ああ……」
少佐はモニターを見ながら青ざめていた。
議論がまとまり前方展開と命令した時にはすでに手遅れだった。
こちらの命令が遅かったばかりに、現場指揮官が散開するよう命令してたせいで内容にズレが生じ部隊が混乱してしまっていたのだ。
「クソったれ! 対EAO部隊はまだか……中尉はどこにい……」
怒鳴り声を最後まで言わせないと言わんばかりに、轟音で爆発した厚い扉の破片が体に当たる。
少佐は破片や今ので崩落してきた瓦礫の下に埋まり動けなくなる。
やつだ、EAOだ。
「と、止まれ!」
司令員たちは銃を手に取り次々に発砲する。
しかし弾丸は逸れ、1発も当たらない。
「はぁ……疲れてるんだから抵抗しないでよ」
やつはそう呟くと、司令員の手を、足を、頭を、体をおもちゃのような扱いで潰し回った。
……悪魔だ。
瓦礫に埋まりただ愕然と上を見ることしかできない私は、昔の朧げな記憶が流れていた──
「お父さん……! 僕も行きたいよ……」
俺の息子が俺を見つめそう嘆く。
「ごめんな、オーストラリアには危険がいっぱいあるからダメなんだ」
「お父さん……」
記憶の中で息子が顔を暗くして悲しんでいる。
これはここにくる前の記憶か?これが走馬灯ってやつなのか?
一方その頃、管制室では悲鳴が響き渡る。
「そうだ、先になるけど帰ってきたら遊園地に連れて行ってやる!」
「本当! やったー! 絶対帰ってきてね!」
もう5年と半年は直接顔を見れてない。
あー、確か今年のクリスマスまでには帰る予定だったな。
私が玄関まで行くと、妻が来た。
「オーストラリア、ほんとに安全なの? 最近テロとか病気とか多いし……」
妻は心配な顔を浮かべる。
「ああ、大丈夫だよ。中東戦争も生きて帰ってきただろ?」
「・・・そうね。信じてるから」
私は妻を抱きしめ、玄関から出る。窓からは息子が笑顔で手を振っている──
「あれ……まだ死んでなかったんだ」
その声と共に一気に現実に引き戻された。
やつの声だ。
あたりを見渡すとそこは地獄のような血の海だった。
私は、微かにでる声を絞り出してこいつに尋ねた。
「一体、なぜこんなことをする?」
私はわからない。
なんでこんなにも残酷なことができるのか、聞いていたかった。
「はぁ・・・被害者ズラしてる?私だってあんたに聞きたいよ……」
動揺した声が聞こえる。
最期、私は彼女の振り上げた拳が見えなくなった時、意識が途絶えた。
中尉はトイレ行ってます