いつか向かい合いたい人身
お詫び カラの人物説明で「前髪が胸に」になってましたが「髪が膝まで」が正しいです。
ただの白い化け物が生まれるところだった。
「おい、それズルだろ! 絶対当たってない!」
ニックはストロンに向かってヒソヒソ声で叫ぶ。
ニックとストロンは持参したゲームで対戦型格闘ゲームをしていた。
現在のところはストロンの連戦連勝。
ニックはストロンの華麗なアクションコンボに翻弄されて連敗を重ねていたのだ。
「なんでこんなに強いんだよ、くっそ、このキャラなら……」
ニックはそう言って赤い帽子を被ったキャラクターを選択する。
ストロンも選び終わるとゲームがスタートした。
二人がコマンドを打ち合う。
「このゲームはオーストラリアにいたときよくしてたから得意なんだよね、そういや、幼い頃一度だけ研究員のクリスさんが遊んでくれたことがあったな……」
ストロンがそう呟いた瞬間、一瞬の隙をつきニックのコマンド攻撃が炸裂した。
ストロンのキャラが倒れ、ニックにWINの文字が浮かぶ。
「よっしゃ! はっは~キャラコンが鈍いわ! なあ瞳、初めて勝ったぜ……って寝てる」
ニックは斜め左後ろの席を見ると、瞳は寝ていた。
「瞳って、よく寝るんだな、昼寝とか良くするの?」
「まあ比較的多いほうじゃねぇか? 実は寝不足なのかもしれないし、陰ながら頑張っているんだよ。じゃあ俺も勝ち逃げして寝まーす」
ニックはそう言って目を瞑った。
「つったく……」
ストロンは席の隙間から瞳の顔を見る。
すやすやと寝る姿はまるで、ニックと瞳が初めてあったときの姿をストロンの脳内に彷彿とさせた。
「俺にとって、お前はなんなんだ……」
ストロンはぼそっと呟く。
「なんか言った?」
「いや、何も。まあ俺も寝るか。おやすみ」
「おお、おやすみー」
二人はそう言って瞼を閉じる。
窓の外には見渡す限りの大海が広がり、地平線では太陽がいざ沈もうとしていたのだった。
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よく分からない……
私の前には神と名乗るものが笑みを浮かべ私の目を見ている。
「ぜ、全知全能の神さん、なんで私なんかのところに来たんですか?」
私は恐る恐るそう聞く。
「シッシッシ、それは嬉しいなァ。敬語とはもう崇拝してくれているのかい? 別に……友達ぐらいの関係で話てくれたら良いさ」
全知全能の神はそう言って立ち上がり、両手をこっちに伸ばして続けてこう言う。
「それでここに来た理由、というかこの場を設けた理由は何だだったな。えーと、まあ瞳と話に来ただけだよ。あといつまで尻餅ついて座っているんだ、ほら立て。手、持ってあげるから」
私は神に両手を引っ張られながら立ち上がり、机の椅子に座らされる。
やけに面倒見の良い神様だ。
神はその後、あぐらをかいて地べたに座った。
私の顔で、数年前の学生服を着て、私を見上げながら体を左右に揺らす神はとても神とは思えない立ち振舞だ。
「わ、分かりました。ありがとうございます。じゃあいくつくか聞きたいことがあるんですけど、まず、何で私の姿をしているんですか?」
そう、まずなんと言ってもこの神は私と瓜二つの顔。
それに私の中学生時代の制服を着ているのだ。
中学生にいた以前全ての記憶が薄いのだが、制服ぐらい覚えてる、多分。
記憶が薄い原因がこの神の仕業だったりだとか思ったのだが、あらぬ期待を持つのはやめようと思う。
「う、うーん、ごめん。ちゃんとは答えられない。何となくじゃダメかな? 嫌ならこの姿をどうにかするよ!」
神は胸に手を当て私に訴えった。
「べ、別に嫌じゃないからそのままで大丈夫だよ、そんな必死にならないで。それより話って?」
さっきから質問をはぐらかされているけど、神は気まぐれってやつなのかな。
それともこれはただの夢か?
とにかく私の質問は神の話を聞いた後にしよう。
「ああ、でもただ話をするだけだと手元が寂しい、何かゲームしよう。確かここに……」
神は中腰になって棚を開け、中を覗き込んだ。
そこをしばらく探した後、神は何かを見つけてこっちに持ってくる。
その時の神の顔は相変わらず私だけど、どこか大人と一緒に遊ぶ無邪気な子供に見えたのだった。
「トランプ……ですか。ババ抜きするの?」
「シッシッシ、良いねェ、ババ抜き。それをしよう」
神はそう言い、カードをシャッフルしてそれを配った。
カードを配っている間に私は椅子から立って地べたに座り、カードが配り終わると同時にカードのペアを確認してそのペア同士を捨てた。
どうやら私はジョーカーを持っていないようだ。もちろん、初めにジョーカーは一枚抜いてある。
「よし、準備は出来たな、じゃあ始めよう。先に引いていいぞ。私のカードをどれか引いてくれ」
私はカードを引く。
スペードの1だ。
一対一のババ抜きはジョーカーを引かない限り絶対に揃う。
私はハートの1を持っているので、その二枚を捨てた。
「ところで瞳、君はこの世を支配する神が存在すると思うかい?」
「……え?」
神は私のカードを引きながらそう言った。
いや、もう彼女に神という代名詞を使うべきでないだろう。
なぜこの少女は自分を全知全能の神と言ったにも拘らず、神の存在を私に聞くのか?
「正直、あなたと会った今も神がいるかは分かりません。あなたもどこか、人間臭いですし……」
「シッシッシ、私が人間? さぁ?」
少女は両手を上げてwhyのポーズをする。
「まず言えるのは、人類が拝むそれは彼らにとっての神だ。私にとってはこの世界とも言える」
「そう、ですか」
「ああ、瞳もこの世界が素晴らしいと思うだろう?」
気づけばトランプも終盤に入っている。
私が2枚、彼女が1枚。
私がダイヤのキングとジョーカーを持っていて、彼女もキングを持っているだろう。
次は彼女が引く番だ。
しかし、私の手はなぜか震えている。
私は少女が私のカードを引こうとした時、力が抜けたようにゆっくりと腕を下ろした。
「…………答えれない。私は人を殺したんだ。みんなのためにって。でも、なぜそれを後悔したのか分からずに、殺人を肯定するため、大切な人に償うため、自分のために、これから日常を送ろうとしている────ストロンのために学校に行くと言ったのも言い訳なんだ。人を殺したのもみんなのためじゃ無い。エゴだったんだ。こんなみんなを自分のお目当てに巻き込む私なんかが、この世界を語れ…語れ…か……もう、こんな奴………………生きる理由なんか───」
涙声でそう言う、でも涙は出ない。
そう言いかけた瞬間、私の胸に少女が飛びつくように抱きついた。
私は急のことにキョトンとして、また我に帰る。
「ちょ、ちょっと、また──」
「開原瞳、君は優しいよ。誰かのために生きることは、君が自分のために生きる言い訳かもしれないし、難しいことかもしれない。でも、それでも大切にする人達のために生きてるんだろ? それは本当に素晴らしいことだ、私にはできない」
「人のために生きても、私はみんなを一度傷つけたんだ。だけど、私の仲間には生きてほしい――でもこんなの都合が良すぎる。人を殺したんだ。だからもう、何もしたく、ない。戦いたくない」
「傷つけてばっかりじゃないだろう? でも、生きる理由なんて一つじゃないんだから、じっくりと考えてくれ、シッシッシ、私はいつでも見守っているぞ」
私は小さく頷く。
少女は私を抱き締める腕を離し、私の両手を持って立ち上がらせた。
「あと、すまないが一旦お別れだ。最後に言っておくが、お話してくれてありがと……な」
彼女は私に背を向け、頬を少し赤らめた。
今思えば、EAOを救おうとした時も生きる理由を見つけた末だったっけ……
私は後ろを振り向いている少女の背中に抱きついた。
私の膝が床に崩れ落ちる。
彼女は少し驚いたかのような表情をしたが、すぐに受け入れたかのように笑い目を瞑った。
みんな、大切な人、ストロン、ごめんなさい。私が傷つけていたんだ。
だからもう傷つけることがないように、もし傷つけてもその度に何度だって自分を犠牲にして、戦って、また犠牲にして。
都合がいいよね、ごめん。でもこのまま何もしないままだとみんなを傷つけっきりだ。
私なんて終わらない暗闇で彷徨ってて良いから、みんなは明るいところで暮らしてください。
謝ることしかできない私はどうでもいいから、もう、いいんだから―――
「ごめんなさいっ……、もう、気づけなくて、傷つけて、ごめんね。私……」
いつの間にかあたりの風景は飛行機の機内へと変わっていた。
抱きついていたはずの少女は消え、私は前の席に泣きつくようにもたれ赤くなった瞳から滂沱の涙を落としていた。
周りの人たちはもう寝る時間なのか、静寂な機内で私を心配する人はいない。
前の席に座るストロンも寝ているのか反応は示さない。
決してこんなものを流して良い訳ないのに、私は一人で涙を流していたんだ。
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瞳がいなくなったこの部屋には、瞳の姿をした自身を神と名乗る少女だけが立っている。
少女は手に三枚のトランプを持ち、一枚を床に捨てた。
ジョーカーだ。
「ふふ、ふはは、シッシッシッシッ」
少女は顔をあげて不敵な笑い声を上げる。
そして少し間を空けてこう続けた。
「別に、生きたくなければ死ねば良いじゃん? 人も動物も違わない、ましてや宇宙にとって心底どうでも良いし────シッシッシ、私が人間だったときはこうは思わないか」
少女は床に座り、トランプを集め始めた。
ババ抜きで使ったカードは丁寧にケースに入れられ、元のタンスに戻された。
「ああ、私が世界にとってどうでも良くても、私の命が消えれば悲しく、そして寂しいのは私ただ一人だった。────君もそうだろう?……違うか」
少女はまるで誰か友人と会話するかのように空に向って話だした。
「────死んだ私が生命の生きる本質はこうだと言ってるだけだしね。君にもいつか生物の生きる理由を聞きたいよ。同じ死にきれなかった者同士ね」
「────開原瞳ねぇ、私は彼女に不思議な気持ちなんだ。うまく誘惑出来なかったよ────」
「シッシッシ、彼女は気づいていると思うかい?彼女の体には二種類のEAO粒子が入ってる。一つは非炭素物質を操作するための粒子、二つは……」
「────って、彼女に対する私の感情を追求しようとするな。別にあんたに嫌われてやっても、それは敵対者にとって運命の黙示なんだよ」
少女は誰かに向かってそう言い、最後に「シッシッシ」と笑った。
プロローグがポエム調はこの作品にあってない気がするから度々めっちゃ変えるかも




