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この未来なき世界 ~自由を求めた少女の物語~  作者: いから
It's more blessed to give than to receive
23/27

コーヒーのように熱く

月1で投稿できたらいいですね。


今、私は画面をスクロールしている。

その画面の検索エンジンには「日本 高校 一覧」と、その下にはいくつもの学校のレビューサイトやホームページ、まとめサイトが無造作に並んでいた。 


車を降りてからというもの、ニックとカラとは用事で一度別れた。

ここにはあまり長く滞在しないつもりだし、別れ惜しい気持ちを抑えて今することをしとかないと。


船に乗っていたとき、来年の4月の始業式に合わせて日本語をある程度は話せるようになると、ストロンから聞いたときは驚いた。


私はてっきり再来年に入校をする予定だったけど、それだとストロンは17歳になる。

ストロンは遅生まれだから、高校3年生だ。


高3となると入校するとしても遅いし、大学からでいいと思ってたけど、高2なら大丈夫かな。

予想外だったけど、内心安心だ。


にしても、来年の4月に入校ならあと9ヶ月弱でしょ?

日本語って外国人からしたら習得が難しい言語のはずなんだけどな……

もしかしてストロンって言語覚える天才?


まあ今は高校を探さないと。


私は再び画面を見た。

当然のことながら、画面には学校が映っている。


私はなぜ学校に行きたいと思ったのだろうか。

誰かのため? 


じゃあストロンのためかな……


「ストロンは、どんな学校に行きたい?」

私は隣りに座っているストロンにそう言った。


「学校に行くって言っても大体な……なんで俺が瞳と兄妹ってことになってるんだ」


「それは仕方ないでしょ。あくまで母(仮)が連れてきた養子は私で、(ニック)の養子がストロンで、母と父が結婚して母が死んだって設定でもうメキシコの国籍作っちゃたんだから」


「何だその複雑な家庭は……そんな家族あるのか?」


「ここにあるでしょ。それに世界は広いんだから多分あるって」


私も少し強引な家族構成だとは思うけど大日本憲法下の日本の国籍法上はこれが最低限だ。

あくまで日本に住むための国籍だからね。


「まあまあ、それよりね。どんな学校行きたいの?」

私は画面を指差して呼びかけた。


「うーん、そうだな……なら俺は楽しめる、エンジョイな学校がいいな」


「なるほど、いいね! じゃあ検索してと――」


バタン


検索しようとしたその時、部屋の入口の扉が開く音がした。

ニックかな、いや、これは……


「あ、副会長! なにか用事?」


シムナ副会長はこの施設のほぼすべての業務をこなしている。

忙しいはずなのにわざわざなんだろう?


「ああ、学校に行きたいと言っておったからな。わしも一応調べたからな。単刀直入に言うと良さげな学校が見つかったので紹介しようということだ」


「ええ、わざわざそこまでしてくれなくても私達だけで大丈夫だって~」


「まあ遠慮するな。それでそれは日本にある公立の高校らしい。詳しくはこのファイルに挟んでおいたから見るといい」


そう言ってシムナ副会長は机の上にクリアファイルをパサッと置いた。

中の紙には、透明なファイル越しに英語版の学校名が見える。


日本にあるのは当然だとツッコみたいところだがそれは良しとして、これは急な展開だ。

学校行くことに副会長が絡むほど重要なことか?


まあEAOだししょうがないのか……


え~と……


OSAKA RYOSEI GAKUEN HGIH SCHOOL


おおさかふりつりょうせいがくえんこうこう


大阪府立両生学園高校。これは、あの有名な両生学園か!


でも大阪かぁ……


「どうした瞳? 俺は見た感じ外国人受け入れ充実で偏差値もそこそこ、パンフレットから見た学校は美麗だしいいと思うぞ?」


「大阪ねぇー。うーん……近いんだよね……」


「瞳? 大丈夫か? 気分悪い?」


「うんん、心配しなくて大丈夫! 数時間ぐらい探しても決まらなかったしそこで良いと思うよ!

副会長も、ありがとうございます~」


私は顔を上げ、ニックの声をかき消すように声を張ってそういった。

そのまま流れに乗せて副会長の腕を上下に振る。


「そうか、ならファイルをしっかりと見とくのだぞ。ではこのあと用事があるから私は行かせてもらうとするよ。」


副会長はそう言って、私を背に振り返ろうとしたとき、ふと思い出したようにポツリと「あっ」と声を出した。

そしてこちらに振り返る。


「そうそう、会長から瞳に伝聞があってな、『よくやったな瞳、無理はするな』とのことだ。では失礼するぞ」


そう言うとまた振り返り、今度こそ部屋から出ていった。


「へえ、会長がそんなこと言ったんだな、会長ってどんな人だ? 俺はまだそれらしい人は見たことないけど……」


「会長は、声だけなら聞いたことあるよ。それももはやあやふやだけど、その声を聞いたときは親近感、安心感そういった感情いっぱいだったんじゃないかな、え、いやいや殆ど覚えてないけどね!」


「そうか、でも良かったんじゃないか? でも無理するなってことらしいし、今日はもう休めよ。俺はちょっと外の空気を吸ってくる」


ストロンはそう言い残して部屋を出た。

この部屋にベランダはない。





『よくやったな瞳、無理はするな』? 会長が私に?


私のした()()を肯定したのか、私に気をかけているのか、どちらにしろ……



言えない。



今も脳裏に残る、マスク越しにも伝わる血泥染みた肉塊の異臭。

死体処理。


四肢の切断、頭部に骨・皮・肉・内臓。

血抜き、ノコギリで数センチ四方に更に切断し、強アルカリ性薬剤、ミキサー、煮炊き。


私は何も思わなかった。一人の死人の解体を。


でも、私は終わった後に、大勢の人の殺害を後悔している。

足を一歩進めたら、床に広がる血溜が波紋状に広がっていた。




そうか、大切な人への贖罪のつもりだったのか、私は。それで学校に……


私のしたことはその人の思いと違ったのかもしれない。

それでも、それで償えると言えるなら、行く価値も案外あるのかな。それでも無理なら私は――いや……


私はパソコンの電源ボタンを長押しした。

パソコンの画面はブチリと消え、そこには漆黒のみが広がっている。



------------



二週間後


「良かったのか、別れの挨拶をしなくて」

副会長は窓から眺めるカラにそう言う。


「うん、副会長もそうでしょ。それに、瞳とはまた会える」

カラは胸をギュッと掴んだ。


空港から離陸した旅客機は飛行機雲を空の無法図に描いている。


「そうか」

副会長はそう言うと、ゆくっりとした足取りで空港を離れた。






ガコンッ ガコン


格子で全体が囲まれた錆びついた昇降機が音を立てて降下する。


「本当にこれで良かったんだな」

副会長はそう尋ねる。


「ああ、当然、ノープロブレムだ! (うつわ)は五体満足順風満帆に()()()くれたよ! 来日も全て計画の内さ。日本政府とは建前でも親善外交してるからなぁ。」


「しかし、ミディアムワンの報告によると第二のHE計画が始まったようだ。人類側もようやく動き出いたぞ」


「なるほど、しかし何百年も陰気臭く裏にいた奴らはすぐに表で出るような陽気な奴らではないのは分かり切っている。だから我々はあと一つに残る手札を補充するんだよぉ」


床まで伸びた顔を覆い隠す会長の長い髪の隙間。

薄暗闇にギョロリと浮かぶ目玉は副会長を見た。


「となると、利用するのは第一のHE計画だな」


「ああ! その計画を以てして、我々の計画、人類の選別と怒りの神罰、大審判計画が下されるぅ!……まあ、終わりはいつもひとつとは限らないが、私は進み続けるだけだ」



ガコンッ ガコン


昇降機が降りきった先は暗い大広間。

153個の培養槽の中の150個には、人の形をした何かが入っていた。


しかしそれは、人と似つかず────



------------



2009年8月8日 オーストラリア シンプソン砂漠


同、旧米軍基地。


「ちょっと、勝手に入ったらだめですよ……」


「えーい、うっるっさい!」


簡易テントの中でコーヒーをすすり飲む私の前に白衣を来た何かが横切った。

一旦飲むのをやめよう。


「おい、ここは準EAO波長汚染区域及び軍直下の立入禁止の土地だぞ、着ずに誰だおまえたちは」


「おっ! おやおや少尉殿、身の程に合う左遷先でしたかー? おっとこっちは汚染分布図だ」


「ちっ、勝手に見るでない! 返したまえ! そして一刻も早く帰りたまえ!バンドン教授!」


「辛辣ですね。折角会いに来てやったというのに……」


「バンドン! お前の顔など大学院を卒業してからも図々しくて見たくもないわ!」


「二人とも落ちついて……」


「少尉殿、残念ながら上はシンプソン砂漠一体のエリアをIME(米EAO管理機関)と軍の合同の管轄においたのですよ。もしかしてだけど~知 ら な い!? あらあら! あらぁ~!」


「知っとるわ! はぁ……本当、こんなんでどうやって教授になれたんだが……」


「まあ頭の差じゃね。それはさておき、さっきの汚染分布図興味深いな、分布的にEAO波長に指向性を持たせれる、またはその抑制、つまり何らかのEAO粒子による作用を起こせるということかね。まあ粒子系統を調べてそこはまた考えるとしよう、しかし……」

バントン教授は分布図を放り投げ、少尉に抵抗しながら机をガサガサと漁った。


「EAO粒子はEAOの体から360°ランダムに放出されますが、この図は濃いところと薄いところがはっきりしています。つまり指向性、粒子を一つの方向だけに飛ばせるということです。なので、こんな芸当は何らかの、例えば物体を操るなどの作用を起こせるEAOしか出来ない訳ですね」


私が頭の差とバントンにディスられた気がするが気にも止めずに説明するな。


「その通りだ助手。しかし、この分布は妙だ。EAO波長を浴びたアダム粒子を含む物質は疑似原子崩壊現象でいわゆる人体を地曝させる汚染地帯! これができるはずだが、事件当時の電磁波測定で汚染地帯になるはずの場所でなぜか地曝していない場所がある。広域に渡って!」


「つまり例えるなら放射線浴びたデータはあるのに浴びてない結果が出てるってことですね」

助手が補足する。


補足されてもバントンの野郎の言ってることは私には分からん。


「ここも粒子系統を調べたらなんとかなるだろう!まあいい、すぐ撤収だ! 研究者とは前線には早々いかんのよ! さらば友よ~!」


「帰れ帰れ! 余所者! …………ふぅ」


あいつはブツブツ何か言ったあと捨てぜりふを吐いて電光石火で何処かに行った。

本当に、こんなところにいるなんて左遷には程がある。


少尉はコーヒーをカップも持ち口に近づける。

しかし、突如としてカップの持ち手は割れた。


机にコーヒーが飛び散る。


私は膝にかかった熱々のコーヒーを浴びて思った。


次あいつが来たらライフルで銃殺刑にすると――

日本には着いてないけど行きました。言葉遊びではない。

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