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この未来なき世界 ~自由を求めた少女の物語~  作者: いから
It's more blessed to give than to receive
21/27

白色の友情が──

瞳たちがフェリーに乗ってから一ヶ月後

メキシコの中央部のサカテカス州


ここは乾燥した高原は都市部を除いてほぼ無人であり、14年前の戦争の傷跡は今もいたるところに残る。


しかし、この高原の奥地へと繋がる舗装された道の先には、90mあまりの2つの巨大な塔を中心として異様な雰囲気で佇む巨大施設がある。


全体で300ヘクタールもの広さのあるここは、EAO安全保護委員会(ESP)の唯一の保護施設にして総本山、「セード・デ・ビリャ」だ。


2001年に作られたこの施設は、本部付近への一切の立ち入りを禁止することなどで庶民には完全に秘匿されておりメキシコ国内や国外で保護したEAOを教育、訓練、自立と実戦を推進している。


また、数万をも超える職員と数千の戦闘員を備え、核攻撃に耐えるほどの地下数百メートルのシェルターや、レーダーやミサイルによる防空設備、数十台の軍事トラックや戦車、戦闘機にヘリの格納など、攻防にバランスが取れた軍事要塞とも言えのだ。


「カラ、準備できたか?」

部屋の外から声が聞こえる。


カラはその声を聞いて椅子から立ち上がり、机の前まで進んだ。

部屋の棚は本でいっぱいで、床にも散乱しているほどだ。


カラは机に丁寧に置かれたECCのようなものを首につけた。

ECCと違い薄く、首に違和感がない。


首につけたあと、カラは鏡の前に立った。


鏡に映る彼女は眠たそうに無表情で、ハイライトのない朧げな青い目が半開きになっている。

銀の髪は手入れされておらず寝癖も立っており、髪も胸にかかるほど長くミステリアスな雰囲気だ。


カラは鏡で首輪の位置を調整した後、ガチャと扉を開けて部屋の外に出た。


「副会長、もう行くの?」


「ああ、瞳が港で待っておるからな。早く車で迎えに行くぞ」

副会長とカラは地下の車庫に移動しながら会話をする。


副会長はオールバックの白髭で、黒いスーツを着る年老いている。

ハゲではない。


「いやー瞳もここ半年、いやそれ以上オーストラリアに行ってたから会うのが久しいの」


「そうだね、あと私は飛ばなくて大丈夫?」


「大丈夫だ。人目に付くしエネルギー消費も多いのだろう?早く会いたい気持ちは分かるが我慢せい」


「わかった」

カラは残念そうにそう言い、軽く背中を擦った。


地下の車庫につくと、7シリーズの防弾車などが何十台も並んでいた。


「「お疲れさまです副会長殿!カラ様!」」

すでに待機していた施設職員の全員が一斉にそう言う。


その内の一人が専用車の後部座席のドアを開け、カラと副会長はそこに入った。


「大方1時間半で到着する予定です。しばし退屈でしょうがご理解いただければ幸いです。では」


「ああ、ご苦労」


こうして数十台の護衛車を連れた副会長とカラは外へと走りだした。

間も無くして車は地上に出る。


「あとどれぐらいで着く?」

カラは窓から外を見つめ、地上の光に目を細めながらそう言う。


「先ほど申し上げた通り1時間半ほどで着くと……」


「そう」


「……………………」


副会長は頭を抱え、静かで薄く、長い溜息をついた。

カラのことを思いながら。


------------



同国、東海岸のコリマ州のマンザニーロ港


周囲には客船、コンテナ船などの様々な船が毎日行き交うこの港。

そこに今日一隻のフェリーがたどり着いた。


「やっと着いた~。メキシコ!」

瞳はそう喜びながら船から降りる。


「じゃあニックさん。俺たちはあとから行くんでお先にお願いっす」

ベニートが窓越しにそう言うと、その仲間たちも手をふった。


「おう分かった、じゃあなー」

ニックはそう言って船から降りた。


ストロンは日本語の勉強かなにかしてるのか、メモ帳を見てブツブツつぶやきながら降りてきた。

傍から見るとやばいやつだ。


「久しぶりに帰ってきたんだから一緒に喜ぼうよー」

私は結んだ髪を少し揺らしながら、むすっと頬を膨らませてストロンの方に振り返る。


「えーでも俺からしたら懐かしくないし…」


「……………………」


私は振り返ったまま静止していると、後ろからタタタッと足音が聞こえてきた。


私の後ろに何かが抱きつく。

私はその瞬間、その何かが何かすぐに分かった。


「おかえり、瞳。怪我は大丈夫?」


「あ、カラ! ただいま…だけどここで抱きつかれると恥ずかしい……」

私はニックの方をチラ見した後、周りを見てそう言う。


カラは「何が?」と言わんばかりに不思議そうな顔をしているが……


「初めまして。君がカラさん?」

ストロンがようやくメモ帳をポケットにしまってそう言った。


「うん、そうだよ」


「へー、じゃあ短い間だろうけどよろしくな。……白髪は地毛なのか?」


「髪色としては希少だけどこれは生まれつきだよ、白髪じゃない」


「ふーん、それで言ったらニックも金か」


「なんだと〜? これは染めてるだけだしオーソドックスだろ。このブロンズマッシュめ」


「喧嘩は嫌なんだが、ちょっとあっち行く?」

ストロンが喧嘩を買い、指でこっちにこいと親指を刺した。


ニックも腕まくりをしてやる気だ。


「まあまあ、お二人方、喧嘩は良くないぞ? それと瞳、久しぶりだな」

今にも取っ組み合いが起こりそうになったとき、二人の間に白髪の老人が割って入った。


別に老耄というわけではなく、40歳ぐらいの体に60歳ぐらいの顔が乗っている感じだ。

しかし優しい笑みからはどこか強者のような空気がひしめいている。


「副会長! 久しぶり〜」


「さあ男共も車待ってるから早う来い」

副会長はそう言うと、今にも戦い出しそうなストロンとニックの襟袖を掴み、ずるずると引きずっていった……


「行っちゃったね」

私はカラを見てそう言う。


「あ、そういえばカラ──」


「私たちも行こう」

カラは私の言葉を遮ってスタスタ歩き出した。


「え!? ちょっと待って〜!」


私は黙々と進むカラの横に小走りで並び、久しぶりの再会にしたり過去を思い返すと笑みが溢れた。


カラは私の初めて──いや、もしかしたら二人目かもしれないけど、大切な親友だから。

もう少し書きたかったけど次回に回します。

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