革命的説教
ニックの部下の一人、ヴィギニスは小さくうずくまっていた。
なぜかというと、ニックに怒られているからのだ。
ニックの怒声が部屋中に響いている。
「ニックもう許してあげなよ……私は全然気にしてないよ?むしろ私の方こそごめ……」
「いや、瞳は謝る必要はない。こいつは一回懲らしめないといけないんだ、ヴィギニスもそう思うだろう?」
「いや違うんだよ! まえに会った時はひとみの髪が伸びてたから気づかなかったんだよ!」
まあ確かに前会った時はロングヘアだったね。
「嘘つけ! 顔ぐらい覚えてるやろ!」
「まあまあニックさん、こいつが人の顔を覚えられないことは周知の事実っすよ」
べニートが横から口を挟む。
「だからと言って肩にぶつかりに行く必要ないだろ! なんか嫌なことでもされたんか!?」
「……それはひとみと似てる奴がカップルしててイラついたんだ!」
「やっぱりこいつは一度ボコボコにしないと……」
ニックは拳をさすりながら一歩、ヴィギニスに歩み寄った。
「はいはいニックさんは別の部屋に行こうねー」
「おい、べニート待て──」
ところが二人との間にべニートが入り込み、ニックに立ちはだかる。
そしてそのままニックは別の部屋に連れて行かれた。
バタン
「ふぅ……ひとみさんを迷惑かけて申し訳ないっすね……」
「え!? そんな……私は気にしてないから大丈夫だよ」
「そうすっか、了解っす」
べニートはそう言って頭を掻いた。
「じゃあストロンさん、国籍作るのに書かないといけないやつあるんで別室来てください」
「お、おお……分かった」
「この部屋って使っていいっすか?」
べニートが私の寝ていた部屋を指す。
まあ見られて困るものなんてないし別にいいかな……
「うん、私が寝てたところだけどそれでもいいならいいよ」
「いえいえ、ありがたく使わせてもらうっす。さあアソゾンも行きますよ」
「分かりましたありがとうございますではさようなら」
アソゾンはそう言って早々と部屋に入った。
「ばいばーい……」
私は過ぎ去っていくストロンとべニートの背に向けてそう放った。
「あれ、いつのまにかヴィギニスもいないじゃん」
どうやら先に一人で職務室に帰ったようだ。
もう怒られるのはこりごりなのだろう。
これでここの部屋にいるのは私、瞳だけとなってしまった。
静かな時間が過ぎる。
テレビつけるか……
『──は今年三度目となる人工衛星の打ち上げに成功しました。2012年までの達成を掲げる月面大規模プロジェクト、通称クロムウェル計画に向けた準備だと思われます。この計画には──」
携帯のバイブがポケットで震える。電話かな?
私はテレビを消してポケットから取り出した携帯を見た。
「えっと……カラじゃん?」
アイコンの下に名前には「カラ」と書いている。
カラはメキシコで初めての女友達で、オーストラリアに来て以来連絡をとってなかったのだ。
私はすぐに通話状態にして耳に携帯を当てる。
「もしもしカラ! 久しぶりだね〜。元気だった?」
『うん、元気だったよ、君は?』
「元気だったよ〜。まあ基地に行った時にちょっとだけ怪我したけどね」
『そう、あとどれくらいで帰って来れる?』
「うーん、1ヶ月ぐらい?」
『1ヶ月……分かった。怪我の方は大丈夫?』
「EAOだから大丈夫だって〜」
『そうだね、じゃあ帰って来れる日を聞けたからもう聞くことはないかな、じゃあね」
「えーもっと話したいこと……切れちゃった」
本当にマイペースな人だな。
何考えてんのかよくわかんないし……
そういばニックが夕食を3人で食べよって言ってたな。
ストロンはどうだか知らないけど。
確か最後にニックと食べた時はメキシコ料理とか食べたっけ。
ますますメキシコが懐かしくなってきたな……
しかし、そう思っていた矢先に突如、瞳の右胸に激痛が走った。
「痛、げほっ、げほっ!……」
咳とともにでた赤い血は、ポタポタと手で抑えた口の隙間から漏れ出している。
瞳は急いでトイレに駆け込み、血を便器に向かって吐き出す。
ひどい激痛はまだ続き、トイレの水はすぐに赤色に染まった。
「肺はまだ完全に…治ってなかった……」
瞳はショットガンで空けられた右胸の風穴を思い出す。
「でも、だめだよね、耐えないと。こんなの痛くなんてない」
瞳は口についた血を手で拭う。
そして、その思いを心に抑え込み、淡く光るトイレの水を流した。
休みます




