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この未来なき世界 ~自由を求めた少女の物語~  作者: いから
It's more blessed to give than to receive
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円形帽

2009年7月8日


オーストラリア・クイーンランド州 シンプソン砂漠

在豪米軍特別基地


ここはオーストラリアのほぼ中央に位置し、基地では特別な生物(●●●●●)の管理、研究を行っている。


この基地で外の不審者を監視する官長は、今日も管制塔から様子を窺っていた。

しかし、米国の防衛設備が十分なここにとって、彼の心は一定の安心感に満ちていたのだ。


「誰だ、あいつ?」

突然、一人の兵士がそう言って監視塔の上から数百m先を指で差した。


「……女?」


なんとそこには一人の女性……らしき人が立っている。

管制塔の兵士達の視線に気がついたのか、動かずじっとしている。


「なんであんなところにいるんだ?」


「そうだ、ここ一帯は立入禁止区域、普通じゃない」


皆が口々に言い合う中、官長は冷静な表情で口を開いた。


「恐らく観光客だろう。基地は塀で囲まれているし、面倒ごとにならないうちに帰ってもらおう。おい! クリスチャン!」


「はい!」

クリスチャンは力強く返事する。


「ちょっと行ってこい、頼んだぞ」


「了解です!」

クリスチャンはそう言うと、足早く部屋を出て、下に続く階段を降りていった。


しかし、力強い彼の気迫とは裏腹に、監視兵の一人が不安げな表情を浮かべていた。


「クリスチャン、大丈夫ですかね……官長」


「どうした?」


「いや、外の人が人間じゃない……つまりEAOであるの可能性があるかもしれません」


「安心しろ。それはない」

官長はまたしても、冷静にそう言った。


「ほら、これを見ろ。」

官長は機器の基盤をゴンゴンと叩きながらそう言う。


EAO波長測定機器。

EAOは体内から物質を透過する小さな粒、EAO粒子を常時放射している。


放射線、で言うところの中性子。


EAO波長というのはEAO粒子の流れや強さという意味で使われている。


「この機械はEAO粒子に反応するからEAOならすぐにわかるはずなんだよ」


「確かに、反応してませんね」


「だろ? つまりあいつがEAOである可能性は限りなくゼロだ」


EAO粒子は種類によって特別な力があるものもあるが、まあその時はその時。

俺たちが死んでも後を継いでくれる人はいる。


問題ない……


「だといいですが……」


彼はまだ不安げな表情で窓をのぞいている。

私は前例がないことでビビっているのだが、彼の不安はここに来て1ヶ月目だからだと信じたいものだ。


不安、恐怖


しかし、空は晴れにも拘らず、管制塔では落ち着かない空気が立ち込めていた。



------------



「やっとついたぁ……」


少女は両手を膝につき、砂漠の真ん中でそう呟いた。

ここまでかなり歩いて疲れているため、一度休憩するため近くの岩に腰を掛ける。


しかし、砂漠の太陽に照らされた岩は焼き石のように熱く、彼女は慌てて飛び上がり、振り返ってお尻を見た。


「熱っ…あ、ちょっと焦げてる」


なんともやるせない顔となった少女、彼女の名はかいはらひとみ


黒髪の肩にギリギリつくかぐらいのショートヘアをなびかせ、着ている服はいわゆるメンヘラのような制服で、中高生らしい雰囲気の少女だ。


しかし、彼女としてはメンヘラのつもりはなく、絶望的なファッションセンスだからだろう。


決してメンヘラではない。


目線を前にやる。


その先にあるのは在豪米特別基地だ。

この基地はどこかまがまがしく、軍事基地とは似つかない研究所のようだった。


「よし……そろそろ行こうかな」


そう言って背伸びをしたとき、基地の方から二人がこちらに向かって来ているのに気づいた。

ヘルメットなどを着けて武装しているので、恐らく軍人だろう。

そして、彼らは瞳に何やら呼びかけているようだ。


「すみませ~ん。君、このあたりの観光客の人?」

彼はこちらを見ながら英語でそう言った。


私は彼らの方に小走りで近づく。

私ながら、英語とスペイン語は少し話せる。


「はい……そうなんですよー。道に迷ってしまて……ところでここどこですか?」


「あ、そうですか。すみませんがここ、一般人は立入禁止なんで外まで同行お願いします」


「ここの近くに色々危険な施設があるので、一旦、区域の外まで行きましょう」

もうひとりの兵士も手でジェスチャーをしながらそういう。


彼らはまだ自分達が立たされている状況を理解できていないようだ。


私はなるべく人を殺めたくない。

無駄な殺人は自身の危険だ。


それに、私にだって大切な人が殺されたくないように、彼らの友人も、家族もそうに違いない。


でも、目的のために殺人を黙認したのは、この私自身だ。


「すみません……聞こえてま、──す……っ」

兵士のひとりが声を出そうとした瞬間、彼の被っているヘルメットがバキッと強く押し縮まった。

頭は重低音と共にくしゃりと押し潰され、力が抜け人形のように膝から崩れ落ちる。



「クリスチ──」

もうひとりの頭も同様、抵抗することもなく潰れた。


「残念だったね、私はEAOなんだ。それも、並より強い力を持つね?」


EAOは素粒子を、EAO粒子を征服している。

体内から溢れ出るこの素粒子は光子を除く全ての物質に対する完全透過性を持つ。

だが透過力はいずれ薄れてしまう。


完全に薄れた時、その粒子は原子と衝突し、エネルギーに変換されて莫大なエネルギーを得る。


ここまではただエネルギーが生まれるだけ。

しかし、EAO粒子は人知を超えた。


EAO粒子は稀に、特別な力を持つ種類の粒子がある。

開原瞳の体内から放射されるのもその一種だろう。


いつその能力に自覚したのかも、なぜこんなことが起きるかも本人もわからない。


ただ分かることは、彼女は射程圏内のすべての無機物に自在に運動エネルギーを与えることができると言うことだ。


よって、無機物の金属製ヘルメットに全方位から力のベクトルを向ければ圧縮し、頭部は破裂したと言うわけだ。


「うし、正面から入ろ。殺されないか心配だなァ……」

彼女は二人の装備を奪い、彼らを横目で見た後に基地へ進み始めた。


この一歩が、自由のための一歩だと信じて──

無機物はこの場合、炭素を含まない物質。

操作できると言っても条件はあります。

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