13 偽証の笑顔
突然、研究室に大音量でブザーが鳴り響く。
研究員もバタバタと資料を集めたり、機器を移動させたりと歩き回っている
こんなこと初めてだ……一体何が起こったんだろう?
「君、すまないんだけど今日は緊急で実験することになったから、麻酔打っていい?」
研究員の一人が俺に声をかける。
もちろん、これで社会貢献できると言うならする他ない。
俺は3歳の頃、オーストラリアで行われたEAO全国一斉検査で引っかかり、米軍関係者に連行された。
一度米国に行ったが、その数ヶ月後からは極秘にオーストラリアの施設で暮らすようになり、現在も度々実験を通して社会に貢献している。
俺は特別な人間だ、と自負しているのだ。
しかし、最近になって本当にそうなのかと疑問視するようになっているのだ。
ここに数年はいるのに何も進捗があるように思えない……
でも、大丈夫、と信じよう。
「はい、当然です。よろしくお願いします」
俺は研究員に軽くお辞儀し、早々と手術室に移動した──
────瞼がゆっくりと開く。
目に広がった光景はいつも起きるベットの天井じゃない。
「…………え?」
俺は困惑して辺りを見渡す。
えーと、ここどこ? いつものところじゃない……
それに微かに振動がする……移動している車の中?
俺は真後ろにあった小窓から外を覗く。
景色は一面薄暗く明け方にような様相だが、確かに地面は高速に移動している。
やっぱり車内だ。どこに向かっているんだろう……? えっとあとは……
俺は疑問に思いつつ、体を前に向た。
反対側の席に、あたかも座ったままの状態で横に倒れた姿で、同い年ぐらいの女性がスヤスヤと寝ているのだ。
アジア……日本人?
しかも結構かわいいし……
だけど、よく見ると体に掛けているものに乾燥した血のようなものが付いている。
さっきまでの下心が吹きとぶほどの量だ。
この人が何か知ってんるか……怖いけど起こしてここがどこで何なのか聞いてみよう。
俺はこの女性に近づき、彼女の肩を優しく揺すった。
「お、おーい」
俺が声をかけると、彼女の瞳がゆっくりと開いた。
「う……ん……ん」
彼女は目を覚まし、俺と目が合う。
すると、突然顔を赤らめ体に掛けているもので顔を覆った。
「ど、どうした! 大丈夫か!」
「うる……さい」
彼女は顔を隠したまま小さくそう呟き、手で「あっちいけ」とジェスチャーをしたのだった。
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「────と、言うなんだ、分かった?」
私は彼にそう言う。
「……………………そうか」
彼が知りたかったのは、ここはどこか、私は誰なのか、なぜここにいるのか。
それらについて私が丁寧に説明した。もちろん、私がEAOであることも。
その間彼は終始、ほとんど黙っていた。
私はブレザーをタンクトップの上から着て車の後ろの方を向き、体育座りでぼーっと見ていた。
彼も反対側の椅子に座りの運転席の方をじっと向いている。
車内にはお互いが何も話さず、気まずい空気が充満していた。
ギスギスしちゃったな……何か話したほうがいいかな……あーでも勇気が……
「なあ」
「は、はい! 何?」
突然話しかけられ振り向く。情けない声が出てしまった……
なんだろう?
「名前……さ、なんて言うの?」
「名前? えーと、か、開原瞳……です。あ、開原が上の名前で、瞳が下の名前ね」
「へー、じゃあ瞳だな、よろしく。俺はみんなに『strongarm』って呼ばれてるけど、気軽にストロンって呼んでくれ」
ストロンはそう言いって立ち上がり、私の目の前に座った。
「俺だってアメリカのことは疑問に思っていた時期もあったし、施設で生活してたから世間の価値観はよく分からない。だから、俺は世界を……もっと知りたい。瞳についても知らないことだらけだ。だから、その……協力させてくれないか?」
私は悩んだ。これ以上この人が迷惑になることはない。
でもストロンがしたいって言ってるんだし、しょうがない……か?
「私と一緒にいても、いいことないよ。今回だって――」
「そんなことない。俺からしたら、ずっと箱の中に閉じこもっていた俺に手を差し出した救世主だ。俺はそんな瞳に惹かれた。だから、お願いだ」
「何いってんの…もう……分かったよ。」
私は顔を拭う。そして、ストロンに向かって偽証の笑顔で手を差し伸ばした。
「一緒に頑張ろう。 でも…危険な真似はやめてねよね!」
「ああ、当然だ。 それよりありがとう。あ、でも最後に一つ──」
ストロンがいい忘れていたかのようにそう言う。
「ん、何?」
私は首を傾げ、不思議そうにストロンを見た。
「俺の前では人を絶対に殺さないでほしい……これだけはお願いだ」
「人……分かった。ぜ、絶対約束する」
私は人殺しなんて本当は…本当はしたくない。
だけど、今の私にはこの方法しか思いつかなかった。
今回の大量殺人も……
「ありがとう、でも無理はするなよ」
ストロンは不適な笑みで安心した声でそう言い、私の目を見つめる。
「あ、当たり前じゃん!」
「ハハッ、まあそれもそうか」
彼もそう言って、少し苦笑いをしたのだった。
私はその後、しばらく一緒に談笑をした。どれもかれもしょうもない話だが、さっきまでの空気は吹き飛ぶくらいに──
「そう言えば、シドニー近郊に着いたらどこに行くの?」
ストロンが唐突に私に疑問を投げかける。あ、確かに言ってなかった。
「えーと、メキシコ」
私は何の表情に変化なく淡々とそう言った。
「え? メキ……メキシコ!?」
しかし一方、彼は非常に驚いた顔をした。不安で顔が引き攣っているようにも見える。
なんでだ、まるでメキシコが危ないところみたいじゃ……
その時、ちょうど車が停車した。
私は外を見ると家が一軒、二軒、三軒と立ち並んでいた。
ようやく、シドニー近郊の小さな街に着いたみたいだ。
次の行き先はメキシコ。
そこは7年間私が育った場所でもあり、私の人生の半分でもある故郷だ。
そして、度々登場した某組織の本拠地だ。
私は故郷を懐かしみ、運転席のニックのところに行くため車を飛び出したのであった。
ストロンと研究員は建前上であっても良好な関係。




