内通者
血がぼたぼたと垂れる中、ようやくセーフルームの入り口の前までついた。
この部屋の周り一体は反EAO物質で構成された合金素材で作られていて、戦車の砲弾でも傷がつかない。
入り口は厳重に閉ざされており、30分ごとにパスワードが変わる。
そしてそれは司令官とその副官のスマホにだけしか送られない。
だけど、某組織のおかげでこの問題は解決している。
私は扉の基盤にパスワードを入力した。
基盤に文字が表示される。どうやら開いたみたいだ。
厚いドアのレバーを開き中に入った。
中には、研究員らしき数名が私に向かって銃を構えていた。
「と、止まれ!」
1人が引き金を引こうとするが、私の力で引き金が固まって動かない。
「あれ、なんで引き金が……こっ、こっちに……」
「……の人は……『strongarm』はどこ?」
「ひ、ひぃ! ここ! ここです!」
彼は怯えきった表情で指を差した。
私は指の向きを頼りに振り向く。そこには壁に拘束具で拘束された人……EAOがいた。
「だ、大丈夫?」
私はすぐに駆け寄り声をかけるが反応しない。
麻酔で眠らせれているせいかな?
でもこうのんびりは出来ない。早くこの人と出ないと米軍の援軍が来るかもしれない。
それにここは反EAO物質でできた部屋。
対EAO粒子は体内のEAO粒子が乱す。
回復力が弱まるのだ。
もっとひどいと、怪我してない時でも目眩や嘔吐を引き起こす。
最悪死ぬ。これがEAOの最大の弱点と言えるだろう。
今も目眩を必死に耐えているのが現状だ。
だから早くしないと……
ひとまず、私は壁と拘束具の連結部分を外しだした。
すると研究員が何か懇願するような目でこう喋りだした。
「お願いします、私たちだけでも生かし──」
銃声が高鳴る。
私は彼らの命乞いを最後まで聞くことなく、躊躇なく全員を銃殺した。
米政府の人体実験を推し進めるこいつらも同罪に決まってる。
私はハンドガンをポケットにしまいながらそう思った。
銃の振動で折れた骨折が揺らされ激痛が走る。
「ふ、ふぅー、……早く、ここから出よう」
ようやく壁との留め具を外した私は『strongarm』を担いだ。
体内のEAO粒子が不足しているのか、いつもより重く感じる。
でも私は足を休ませることなく、ここに来た道をゆっくりと戻った。
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「やっとついた……」
正面入り口……とは逆の南入り口まで来た。
そこには発車準備されている輸送車と、軍服を着こなした1人の男性が待ってる。
「あ、ニック!……うぐっ」
私は声を張ろうとお腹に力を入れると、案の定痛みが走った。
「ちょっと、そんな怪我してるんだから大声控えて! あと、この人は俺が担ぐから」
ニックはすぐに近寄り自分の肩を貸し、私の担いでいる人を受け取る。
この頼れる?……男性こそ、潜伏していたニックだ。
オールバックのスタイリッシュなイケメン白人男性(自称)で、20代後半(自称)でもまだまだ若い(自称)。
かれこれ8年ぐらい米軍に潜入していたみたいだけど、潜入中はわざわざ予定を合わせて20回以上会ってくれた。
彼が優秀なのもあるけど、計画が円滑に進んだのはこれだけ会ったおかげだと思っている。
あと重要なことは、彼とはラブラ……そういう関係ではない。
「うん、ごめん……それで計画はどう? 私はちゃんと助けれたけど嫌なことなかった?」
私は歩きながら心配してそう言う。
「ああ、米本国にはEAOは死んだと言って人工衛星の偵察停止と増援を送らないようにさせといた」
「だから事件発覚には数時間は遅れるだろうよ。あと謝るまでのことじゃないから大丈夫」
ニックは私と輸送車の荷台に乗り込み、簡易ベッドに『strongarm』を下ろしながらそう言った。
「良かった……じゃあ大丈夫そうだね。」
私は安心して胸を撫で下ろす。
「はは……おいおいあんまり俺を舐めるなよー」
「ふふっ、そうだね……」
お互いは顔を見合わせて微笑した。さっきまでの緊迫した空気が嘘みたいに。
「じゃー俺は運転席行くから、ここで傷を癒やしといてくれ」
「うん、分かった! でもまずはこの人の拘束具も外さないといけないし……休んでられないからその後でね」
「おー、まあせめて包帯ぐらい巻いとけよ、お前が頑丈なのは分かってるけどさ、そんな大怪我初めてだろう?」
ニックはそう言い包帯を私に向けて放り投げ、荷台から降りた。
私は彼の包帯を手に取り、ニックを思い浮かべその包帯を見つめていた。
ニックは愛称で、本名はニコラス・T・ベドナレク




