8.未来の君に告ぐ
※シナリオ形式
※モノローグ=M表記
翼が、『4年2組』の教室の隅にあったボールを手に取る。
翼:なぁ、このロッカーにボールをシュートしてみようぜ。自分が昔使っていたロッカーにボールが入ったら、これから夢を叶えること!
佳純:何それ、ルールむちゃくちゃ
和也:いいじゃん! やろうよ!
優:俺、帰るわ
翼:えっ!
優:タイムカプセルも見つかったし、もういいだろ?
翼:いや、それは……
優:じゃあ、またいつか
美佳:ちょっと、優!
優は一足先に、教室を出て行った。
翼:ったく、優はノリわりぃなぁ
和也:よし、俺から投げる
翼からボールを受け取り、和也はロッカーに向かってボールを投げる。
ロッカーに入るが、力が強く跳ね返ってボールは外に転がった。
和也:あーくっそ!
佳純:じゃ、わたしも
和也からボールを受け取る佳純。
× × ×
みんながボールを投げている傍ら、ふと、李璃は優の昔の座席に目をやる。
机の上には、先程までなかった、ちぎれた消しゴムの欠片が置かれている。
李璃が手に取ると、そこには『璃』の文字が記されていた。
李璃:これ、わたしの……
× × ×
翼:うわ! これ、意外と難しいな!
美佳が、李璃の前にボールを差し出す。
李璃:へっ……
美佳:はい、次、李璃の番だよ
李璃は、ボールを受け取る。
李璃は、未来の自分に宛てた手紙を取り出すと、嘗ての自分のロッカーに入れる。
そして、ロッカーに向かってボールを投げた。
ボールは、ロッカーの中に入り、弾みながらロッカーの中で静かに止まった。
一同:入った!
李璃は自分に驚いた。
李璃は手紙を広げた。
そこには、『自分にすなおに生きること わたしは優が好きです』とあった。
美佳が、そっと李璃の肩に手を添える。
美佳:夢、叶えないと
李璃は、手紙と机に置かれた消しゴムの欠片を手に、教室を飛び出した。
息を切らし、走る李璃。
海岸に、優の後ろ姿を見つける。
李璃:待って! 待って優!
李璃の声に、優は立ち止まった。
優に追いつき、息を切らしながら李璃は消しゴムの欠片を取り出す。
李璃:これ……
『璃』と書かれた消しゴムを優に差し出した。
李璃:この消しゴム、持ってたんだ
優:それは……
李璃は消しゴムを優の手に握らせると、ポケットからもう一つの『李』と書かれた消しゴムの欠片を取り出す。
優:えっ……、それ……
李璃:優、過去は変えられないけど、未来は変えていけるよ
優:李璃……
李璃:わたし、自分に素直に生きることにした。それが、昔のわたしが未来のわたしに望んでいたことだから
優は、李璃を見つめる。
李璃:わたしは、優が好きです!
優は、李璃を抱きしめた。
優:俺も……。俺もずっと昔から李璃が好きだ
× × ×
少し遠くからその様子を見ている美佳、翼、佳純、和也。
佳純:悔しいけど、結局こうなるのね。やんなっちゃう
翼:えっ! 優って李璃が好きだったの!?
美佳:え? そっから?
和也:李璃が幸せならよかった。うん……
× × ×
夕日を見つめる李璃と優。
優:今度は、俺が仙台に会いに行くよ
李璃:うん。待っとる……
恋路ヶ浜の『誓いの鐘』のそばには、少し錆びた『願いのかなう鍵』があった。
札が、今日も風に揺れている。
そこには子供の字で、『いつかもう一度 李璃に会えますように 優』とあった。
× × ×
李璃M:そして、月日は流れ、わたし達は大人になった……。わたしは、わたし達が始まったその場所に向かう。
李璃:優、お待たせ!
優:おう!
李璃:久々に来たけど、この科学館、やっぱり広いよね。また迷子になっちゃいそう
優は李璃の手を握る。
優:これで、迷子にならないだろ?
李璃:優……
優:それでも迷子になったら、俺が何度でも見つけてやるよ
李璃:うん
李璃と優は、顔を見合わせ笑った。
END