2.わたしだけが知らない過去
※シナリオ形式
※モノローグ=M表記
貸別荘のロビーに6人が入って来る。
美佳:一応わたし受験生なんですからね
翼:俺もだよ!
和也:みんなでしょ?
佳純:わたしはもう受験とかいいかなー
美佳:え、うっそ!
皆、口々に言いながら、各部屋へと向かった。
ピアノに気付き、李璃は足をとめた。
李璃:ねぇ、ピアノ弾いてよ
優:え?
李璃:ほら、昔みたいにさ
優:俺はもう弾かないよ
李璃:へ? 何で?
優:俺はもう、昔の俺じゃないから
優は、李璃をその場に残し、部屋へと向かった。
美佳、佳純は、一足早く貸別荘の女子部屋におり、李璃がそこへやって来た。
李璃:わたし……なんかまずいことしたかな……
美佳:えっ? まずいこと?
李璃:うん。さっき優にピアノ弾いてって言ったの
佳純:あらら。それは地雷踏んじゃいましたなぁ
李璃:えっ……
佳純:優はもう弾かんと思うよ
李璃:何かあったの?
佳純は、ため息をついた。
佳純:まぁ、無理もないよ。李璃は何も知らんのだで
李璃:えっ……
美佳:ちょっと、佳純、そんな言い方……
佳純:別にいいんじゃない? 知っとった方が
美佳:それは……
佳純:優の親、離婚したの。で、父親が買ってくれたピアノは置いて、母親と家を出て……。それからかな、優がピアノを弾かんくなったの
李璃:そう……だったんだ
美佳:別に李璃のせいじゃないし、気にしんくていいと思うよ
李璃:うん……
佳純:まっ、今時離婚なんてよくあることよ。優がわたしと同じ境遇になっただけって話ね
李璃は思わず言葉を失った。
佳純:久々に再会したけど、優、前よりクールになっとったね? わたしと付き合ってた頃はもっと明るかったと思うけど?
李璃M:わたしと付き合ってた頃!? え、優と佳純って……!
佳純:そうだ! ここのお風呂見てこよっ!
佳純は部屋を飛び出していく。
沈黙が流れた。
李璃:わたしだけ、いろいろ知らないんだね……
美佳:李璃……
李璃:なんか、馬鹿みたい。一人はしゃいでここ来ちゃったの。みんな変わっちゃった……
美佳:そんなことないよ! ほら、翼なんて変わらず馬鹿丸出しじゃん? 優はさ、李璃が引っ越した後、いろいろあったんだよ。それは、わたし達にもどうにもできないっていうかさ……
李璃:そう……
男子部屋には、優、翼、和也がいた。
翼:え? じゃあ彼女おらんの?
和也:いないよ!
翼:おぉ、仲間じゃん。じゃあさ、そっちの学校誰か可愛い子おらん?
和也:えー?
翼:優、お前は?
優:えっ?
翼:彼女だよ! 彼女!
優:別に。付き合っとるか分かんねぇー奴は何人かいるけど
翼:え! 何それ! マジかよ、モテモテだなぁイケメン!
和也:優は佳純とはどうなっとるの?
優:佳純? あぁ、なんか高校入って自然消滅って感じ?
和也:そうなんだ。……李璃とは?
優:はっ? 何で? もともとなんもねーよ
李璃の話に、優はむきになった。
ロビーには、ピアノを見つめている佳純の姿があった。
手には優とのツーショット写真がある。
夕方、貸別荘のテラスで、6人はバーベキューの用意を始めた。
和也:飲み物ここで冷やしとくでね
翼:はいよ
佳純:うわ、このカボチャ固すぎ! 切れないし!
美佳:もーわたしがやるよ
翼:すっげー! 優、火おこしうめぇーじゃん!
優:そうか?
李璃は無言で野菜を切っていた。
夕が暮れて行く海を見ながら、皆バーベキューを楽しんでいる。
李璃:綺麗だね、夕日。夕日って毎日見ても飽きない。変わらず綺麗だなって思う
優は、李璃をチラッと見た。
佳純:懐かしい。こうやって6人で集まるの
美佳:そうだね
翼:俺らが仲良くなったの、社会見学の班だよな
美佳:翼が迷子になった班ね
翼:はっ? 迷子になったのは李璃だろ?
李璃:そうだったね
李璃は笑った。
和也:科学館で突然李璃がいなくなって。みんなで探して
佳純:優が見つけたんだよ
美佳:そしたら、いつの間にか翼がいなくなってて
李璃:やっと翼と合流したら、泣いてたんだよね
翼:はっ? 泣いてねぇし! でも、広い科学館で、優よく見つけたよな? どうして分かったの?
優:へっ?
翼:すぐ見つけたんだろ? 俺が迷子になってる間に。親友の俺を見つけるのには時間かかっとるくせに!
優:あぁ。翼は、どうせ俺らが探してる間もちょろちょろ動いたろ? だから余計に見つけられなかったんじゃねーの?
翼:くわっ……!!
優は5人の前から、一人席を外した。
李璃:そうだよね……
美佳:ん?
李璃:わたしは、迷子になったことにも気付かずにずっと同じとこに居た
和也:あの天体のフロア?
李璃:うん。『李璃はいつも空見てるから、きっとここにおると思った』って言ってた。『李璃は夢中になると周り見えなくなるもんね』って……
美佳:へぇー、あの優がそんなことを
佳純:なんか焼いちゃう
佳純は頬を膨らます。
翼:ん? 肉焼いちゃう? 野菜焼いちゃう? 俺に焼いちゃう?
翼の発言に、皆唖然とした。
李璃M:優は、あの日のことをまだ覚えていてくれた。変わってない? いや、時と共にみんな変わるもの。優は、もうあの頃の優じゃないんだ。わたしだけが知らない8年間は、あまりにも大きかった……。






