第一章56、『その他の結末』
あと一歩だった。
拳銃を使うだけのありふれた少年。
雷鳴を司る正義を謳う少女。
時代遅れの【神秘】の継承者。
この三名によって、キョンシーは打倒されるはずだった。
「【人類神格・美徳】」
それは、人類にしか使えないはずの奇跡。
人類の軌跡を起点に、その概念を拡大解釈する。
例えばの話をしよう。
キョンシーには、口から冷たい息を吐くと言う伝承が存在している。
それを拡大解釈したとすれば、その現象は一体どうなのか。
地獄のようだった。
まさに、北欧の氷世界。
その一面の景色が、氷河のように変出する。
「――其処までにしておけ、ネクロ」
氷が溶ける。
灼熱だ。
その変化で、やっとネクロはハッとする。
「母さん、勝ったの?」
「負けた」
「……見逃されたのか」
「いや、旧友に助けてもらっただけだ」
「旧友?」
「ああ、お前も良く知る、あの人だ」
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日比谷博文はニタリと笑みを作る。
それを見て、【最悪の呪術師】は察したように口を開く。
「日比谷、僕はこれで撤退します」
「お、そうかい。それじゃあ、また今度」
「ええ、また今度。次は、出来れば、『敵』として相対しましょう」
手のひらのダンスは、こうして静かに終わりを迎えた。