第一章53、『墓場』
【最悪の呪術師】は憧れていた。
弱者を救う救世主に。
理由は簡単。
誰かに救って欲しかった。
もはや、己の起源は何なのかさえも、彼女は覚えていなかった。
何が始まりで、何が起点だったのか。
分からずに生きていた。
ある時。
彼女は一人の【怪異】と出会った。
その【怪異】と出会って、彼女はその境遇に強い憐憫を覚えていた。
だから、彼女は全てを敵に回した。
全て、と言っても、それは本当の意味でのすべてではない。具体的に言うのなら、日本で【怪異】を敵と定めている【怪異殺し】全員という話だ。
生憎、彼女は強者だった。
それゆえに、彼女が得た受け売りの思想は、その強大な力ゆえに、広く広く伝わっていく。そして、気が付けば、本当に勝てるかもしれないところまで辿り着いた。
それがつい先月。
日本で発生した大異変である。
彼女は【怪異】を救うために戦った。
彼らは【怪異】を滅ぼすために戦った。
主に対極をなす戦い。
その果てに、敵の信じられないほどの短期間の成長によって、【最悪の呪術師】は完全に敗北した。
これが、先代の【最悪の呪術師】の物語だ。
「うん、そうなんですけどね」
森羅万象をもって、目の前の敵を襲う。
……が、その敵は、何をしても引くような様子を見せてこなかった。
「足りないよ、【最悪の呪術師】。確かに、君はものすごく強いけど、それはその強さの副産物に過ぎないだろう?」
今回のテーマは、『超能力』。
【呪い】という名の才能。
「全盛期は、もう終わったのかい?」
「ええ、そのようです」
手加減をされている。
その自覚が、彼女にはあった。
しかし、納得は出来ない。
何故、手加減をされる?
そもそもだ。
「貴方がいれば、貴方さえいれば、この世界は救われるはずです」
何故、手を抜いている。
「なのに、何でまだ、この世界は救われていないんでしょうか?」
一体。
何を恐れている。
「……密約だよ」
「密約?」
「ああ、『僕』ではなく、『僕』が『私』として結んだ、人類の発展のための密約だよ」
彼は、一体何者だ。
いや、日比谷博文の背後には、一体、何が存在しているのか。
分からない。
……。
だが、これだけは分かった。
「僕は、貴方より弱いんですね」
「諦めないでよ、【最悪の呪術師】。君は私よりも数十倍強いさ」