第一章48、『対話』
「たった、一か月なんだけどね」
「それが、僕が行動をしない理由になると?」
「まさか、君は根っからのヒーローだからね。こういう、自分の全力を出せない状況の方が、無理を聞かせてでも動くと思ってたよ」
「そういう日比谷は、何一つ変わっていませんね。つい先月、自分のお気に入りの手駒を失ったはずでは?」
「失礼な奴だな。手駒じゃないよ、生徒だ」
「変わりないでしょう」
「……やっぱり、君と私じゃ、気が合わないみたいだね。それはそうと、彼があんな目に合った原因は、君にあるだろう」
「いえ、貴方なら止められました。ただ、止めなかっただけで」
「いや、止められないよ。だって、約束だからね」
「約束は破るためにあることを、知らないんですか?」
「馬鹿真面目にそれを実戦する奴は、私はあまり見ないけどね」
「ええ、貴方とは違う!」
「……君は我儘だよ。力には犠牲と責任が伴うんだ。君はそれを鑑みずに、ただ無邪気にハチャメチャに足掻いている。その結果がこれだよ、愚かしい。まず、君は心から信用の出来る仲間を作ったらどうかな?」
「それ、ブーメランになっていますよ。貴方も変わりませんね、本当に。自分のことは棚に上げて、その遥か先の棚から見た景色で、自分の思うが儘に状況を変えようとする。貴方は、結局、他人を利用しているに過ぎないんですよ!」
「自己紹介かな?」
「同類紹介ですよ」
「……【最悪の呪術師】、君と私の付き合いはかれこれ数十年だ」
「ええ、そうですね」
「私は【世界】のために。そして、君は【個人】のために足掻き続けている。もう、止めにしないかい? 私と君が手を組めば、この【世界】を救うことは容易に出来るはずだよ。いい加減に、認めたらどうなんだい。誰も、君の『名前』を知らないのは、君がそうして孤独に戦ってきたからじゃないかい? 確かに、私には納得が出来る。だって、【日本式神秘】には、何かを演じる時、自身の名前を捨てることで、完全に何かへと存在を変貌させることは出来る。でも、君は名前をまだ捨ててないんだろう? 私と手を組もう。共に【世界】を救おう」
「……貴方は狂っている。貴方は実に機械的です。これは僕の見解に過ぎませんが、貴方は最初はまともだったんだと思いますよ。最初から狂ってたから、まともになったわけではなく、まともだったから今狂っている人に過ぎないと、僕は思っています」
「文句ならアイツらに言ってくれよ、【最悪の呪術師】」
「貴方は【人】を【人類】としてしか、見れていない。【世界】を【世界】としてしか見れていないように、【人】を【人類】としてしか見れていないんです。……と言っても、多少の区別くらいはあるでしょうね。例えば、【知り合い】とか、【友達】とか、【親友】とか、【愛人】とか、【生徒】とか……そんな風に。ただ、根本は狂ってしまっている。貴方の一番の欠陥は、【人類】を【一つの概念】としてしか見れていないことです。まるで、神様にとっての価値観のように」
「……それ、みんなには言わないでね」
「素直に聞くとでも?」
「私はそう思ってるけど」
「相も変わらず、僕を舐めていますね」
「まさか! そんな訳がないだろう、【最悪の呪術師】。だって、君は【犯罪者】だとしても、一応は私の【同類】だよ。なら、舐めてかかった方が面倒くさいことになってしまう。誤解を招いたようだから、訂正しておくけどさ。君は異常に甘い。だから、みんなには言わないと私は思ったんだよ」
「……僕は貴方とは組みません」
「理由を聞いても良いかな?」
「僕は完璧人間が嫌いだからですよ」
「駄目じゃないか、時代は機械化だよ。効率化だよ。だったら、これくらいのことはなれておかないとさ」
「貴方は機械じゃない。その根本は人間だ!」
「やるかい、【最悪の呪術師】?」
「いいえ、与えます。殺しは今、必要ない。僕が貴方の氷を解かす!」
「……この前、私じゃなくて、私の【生徒】に負けたってこと、まさか忘れてるのかい、【最悪の呪術師】?」
「いえ、今が仕留め時ですよ、【絶世の救世主】」
「……なるほど。確かに、今の私は【生徒会長】には攻撃できないね」
(どうせ、攻撃はしてくる。どっちみち、この子も彼にとって救わないといけない人なんだから)
「――なら、私も本気でいこう」
「――今の君には、【神代領域】を構築するほどの余裕はない」
「――所詮は有象無象の【呪い】のしっぺ返しを使っているに過ぎないんだよ」
「窮鼠猫を嚙むって言葉を知りませんか?」
「――君はいつも、それを失敗しているけどね」
「――チャンスは上げないよ。これは、自分で切り開くものだからね」
「「――ここに名乗りを上げよう!!」」
「――【絶世の救世主】、日比谷博文」
「――無銘、【最悪の呪術師】」
「返してもらうよ、うちの【生徒】を」
「治してみせます、貴方の【呪い】を!」




