第一章番外、『前日譚3』
【風元の魔術師】。
【真昼の魔術師】。
【魔導司書】。
彼らとは、いろいろな話をした。
閉じ込められていた好奇心が、私の体を突き動かす。
彼らはそれを、何の曇りもなく教えてくれる。
そんな数時間。
私が、アズマ・ノーデン・ラプラスと再会する以前。
その小さな出会い。
考えてみれば、これが『友達』と言うものなのだろうか。
そんな風に、考えることもあった。
これは、起点。
そろそろ、終わりの時だ。
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今日も、良い風が吹いていた。
珍しく、俺は――周りからは、【風元の魔術師】と呼ばれている俺は、そう思っていた。
いや、違う。
珍しいのは、風の方である。
これが普段通りならば、これは鈴の音のように心地よく、同時に不愉快なんぞ忘れてしまうような代物だった。
言ってしまえば、今日は最高の日と言える。
まず、今日の任務。
その内容は、普段のような殺し合いではなく、いつものような騙し合いではなく、ただの簡単で簡潔な護衛だったのだ。
だから、これだけでも良い日だった。
ただ、護衛任務の悪い点は、その相手が世間知らずの馬鹿やろうか、自分たちのことを狗かなんかと勘違いをしている貴族くらいだ。――もしくは、それ以上の『重要人物』か。
今回は、その後者。
『重要人物』に当たる任務だった。
そう、良い子だったのだ。
【魔術師】や【魔法使い】――自分たちのような【異端者】は、性根が狂っていることが多い。自分で言うのもなんだが、俺もだいぶ狂っているはずだ。少なくとも、自分自身はまともであるという認知は、【異端者】全員が持つ共通の【狂点】のはずだ。
だからこそ、自分たちと同じく【魔術師】でありながら、一切狂っていない彼女は、実に尊敬に値するものだった。
だから、今日は良い日になるはずだった。
俺は――【風元の魔術師】は顔を顰める。
匂いは最悪だった。
当然だろう。
「意外だな、お前が一番弱いと思っていたんだが」
血が。
肉が。
人が焦げた匂い。
一言で表現するなら、黒焦げだろうか。
「……奇遇だな。俺もそう思ってたよ」
仲間は死んだ。
沸々と、殺意が湧いて来る。
「あはは、だから、俺に喧嘩を売ったのか?」
「元々、俺はアンタを殺そうと思ってたよ」
「……」
憐み。
その瞳は、俺をその感情をもって写していた。
「殺す」
「殺してみろ」
次の瞬間。
灼熱が、巻き起こる。
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ウンザリするような靄の中。
一人の声が聞こえてくる。
「――復讐なら、いつもで受けた立つ」
小さな約束。
大きな呪い。
それは心に刻まれた。
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11月7日。
『シスター・イドラ』の護衛として同行させていた【風元の魔術師】、【昼間の魔術師】、【魔導司書】の三名のうち【昼間の魔術師】、【魔導司書】が『世界神秘対策機構』から離反した『不死鳥・フェネクス』と戦闘し、結果死亡。
【風元の魔術師】は全治3週間の重症を負う。