表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワールシュタットの剣聖  作者: 舟揺縁
第一章【剣聖と問題】
61/133

第一章30、『タイムオーバー』


 時刻は七時四十分。

 ノエルが普段アズマ宅に来る時間は、七時丁度である。

 ぼんやりと曖昧を見つめながら、アズマはぼそりと呟いた。


「……ノエル、来ないな」


 その一言は、独り言に近かった。

 けれど、声が帰ってくる。


「そうでございますね。何か、あったのでございましょうか?」

「電話する?」

「その方が良いかと」

「いや、でも……」

「どうかなさいましたか?」

「昨日の件で、まだ怒ってるとか?」

「いえ、でも、ノエル様は許しているようでございましたよ?」

「だよなぁ」

「どうなさいますか、アズマ様?」

「まずは、電話でもするよ」


 アズマはそう言って、右ポケットをパッと漁って、そのままガラケーを引っ張り出す。そして、慣れた手つきで電話帳まで飛んで、ノエルと表示された欄で決定ボタンを押した。

 数コール。


「……」


 ここでアズマは違和感を覚えた。

 聞き覚えにない女性の声が聞こえて、アズマは静かにガラケーを閉じる。


「イドラ、ノエルの家に行くぞ」

「了解いたしました」


 二人が、リビングの椅子から立ち上がった。

 その時だった。

 ピンポーン、と。

 来客の音が鳴る。


「……ノエルだと思うか?」

「出てみない限りは、分からないかと」


 背伸びをしながら、アズマは玄関へと向かった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 結局、ノエルは来ることはなかった。

 では、誰がノエルの寮室に押しかけてきたのかと言うと。


「……ん、久しぶりだな、【剣聖】」


 トム・ジェイソンである。


「【剣聖】言うな。アズマと呼べよ、【魔弾の射手】」


 別名、【魔弾の射手】である。


「ノエルさんは?」

「今は知らねぇよ」

「今は、ってことは、今までは知ってたわけだな」

「ああ、そうだが……」


 そうアズマが答えると、トムの視線が一瞬で鋭くなる。

 殺意――否、嫌悪感に近いようにアズマには思われた。

 それでも、淡々とトムは尋ねた。


「何があった?」

「俺が倒れて、ノエルが面倒見た」

「……貴様も、人間なんだな」

「人間じゃなくても、倒れる時は倒れるだろ。そもそも、普通に俺、天月に倒されて気絶してた気がすんだけど」

「ああ、そう言えばそうだな。負けたな、『【剣聖】が』『天月先輩に』負けたな。あれは、衝撃的で痛快な事件だった」

「おい、喧嘩を売ってるな。ただで買ってやろうか?」

「悪いな、僕は貴様ごときに時間を売る気はない」


 単純な拒絶。

 ただの罵倒。

 身に覚えがありすぎた。

 それでも、それをしっかりと認知してくれることに。


「……っふ」


 アズマは、安堵した。

 仕方ないことだと。

 そうやって、許容されることは。

 彼はしないのだと。

 ただ、それを見たトムは嫌そうな顔をする。


「なんだ、気持ち悪い」

「鼻で笑っただけで嫌悪感を抱かれた!?」

「馴れ馴れしくしないでくれ」

「何でそう嫌われてんだろうな、俺は」

「……気にするな。理由はない」

「むしろ気にすんだけど、それ」

「そうか。なら、気持ち悪いんだから気持ち悪いんだろう」

「だからと言って、理由をつくべきってわけじゃないけどな!」

「はぁ、貴様と話していても時間だけが過ぎていくな」

「おい、逆もまたしかりだぞ」

「……脱線しすぎた。本題を話すぞ」

「はいはい、俺のせいでノエルの日常がまた少し減ったって話だな」

「それはまた後で、だ。貴様、今ノエルさんがどこにいるのか知っているか?」

「知らんけど……どうかしたのか?」

「いや、てっきり、今も貴様と一緒にいると思っていたのだが」

「……実を言うと、俺はそれを不審に思ってたんだ」

「貴様、ノエルさんに好かれているからと言って、あの人の人生を食いつぶして良いわけじゃないだぞ!」

「く、食いつぶすって」

「……【剣聖】。僕が誰の味方か、それを知っているか?」

「ノエルの味方だろ?」

「いかにも。……意外だな、てっきり吐き間違えていると思っていたのだが」

「馬鹿を言うなよ。オマエはさ、俺に共感も憐憫を覚えてない。それくらいは、オマエの態度で分かるさ。だから、俺はオマエを好ましく思うよ」

「……そういう趣味か?」

「かもな。俺は、俺に対する好意をもうまともに受け取れられない。信じられないんだよ、トム・ジェイソン。だからこそ、オマエの意見は、現実らしくて好ましい。ああ、ここで感じるべきなのは『憐憫』じゃなくて、『嫌悪』だから。オマエは、『異常おれ』を嫌っていてくれ」

「言われずとも、僕は貴様を嫌い続ける」

「モーマンタイ。それで良いさ」

「……それで、不審とは?」

「いつも、ノエルは七時にうちに来るんだけど、まだ来てないんだよね」

「通い妻か」

「……それ、止めてくんない?」

「ん、そうだな。失言だった。今度、ノエルさんに謝ろう」

「きっと、むしろ喜ぶんじゃないか?」

「複雑だな」

「……オマエさ、ノエルが好きなの?」

「友達として好きだ。それと共に、人間として尊敬している」

「ふぅん、そうなんだ」

「銃で撃って良いか?」

「刀で斬り返して良いなら」

「っち、また話がズレた」

「人間である以上、脱線は避けられぬ道なのかもな」

「それで、貴様はどうする気だ?」

「今からノエルの家に行くつもりだ。オマエも来るか?」

「いい、貴様に任せる」

「……そうか」

「じゃあ、俺は失礼す……ん」


 右ポケットから、振動をアズマは感じ取る。

 ゴソゴソとポケットを漁り、携帯電話を開くと、そこにはノエル・アナスタシアと表示されていた。


「……はぁ」


 ――心配させやがって。


 そう思いながら、平然とボタンを押す。


「もしもし」


 そして、声をかけた。

 すると、アナスタシアの声が聞こえてきた。



『――久しいな、我が【剣聖】』


 瞬時、アズマは全身が凍り付いたような感覚に襲われる。


「っ!」


 知っている。


『――気を付けろ』


 この声色を。


『――今のこの場所は、汝の知る『三枝学園』ではない』


 透明な悲鳴を、咄嗟にアズマは抑える。


『――まるで、ただの魔境だ』


 改めて相対した、純粋な恐怖を嫌悪する。


「……どういうことだ、【転生者アナスタシア】!?」


 その名前をアズマは叫んでいた。

 ノエルの人生を狂わせた、その名称を。

 六度の継承を繰り返した、転生からなる一種の【運命のろい】を。


「――なっ!?」


 トムは足を止め。


「――っ!?」


 イドラは殺していた息を吐く。

 それと共に、その周囲の二人にも、今の現状がいかほどに恐ろしいものなのかを悟ったのだろう。


『――吾輩が今いるのは、小娘がいつも汝の家に向かっている時の道だ。せっかくだから、迎えに来てもらおう。それはそうと、できるだけ【人形】には気づかれない方が良いぞ』

「はぁ!?」


 何一つ、情報が伝わっている様子は無かった。


「じゃあ、切るぞ。今の汝の声で傀儡に気づかれた」


 機械的な音が鳴る。

 ゆっくりと、形態を閉じる。


「……」


 一瞬の呆然。

 凍結していた思考が、加速する。

 だからこそ、アズマは咄嗟に叫んだ。


「イドラ!」

「こちらでございます!」


 その意図を一瞬で察したイドラが、アズマの前に出る。


「おい、【剣聖】!」

「オマエもついて来い! 緊急事態だ、コイツは!」

「いや、イドラって、何だ! いや、誰だ!?」

「イドラ、トムにも見えるようにしつつ、ステルスを俺とオマエとトムに貼ってくれ」

「何を言って……萌え袖シスター!?」

「シリアスだ、空気読め!」

「クソ、急展開過ぎる」

「ついて来てくださいまし!」

「実はメイドとかか!?」

「空気読めって!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ