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ワールシュタットの剣聖  作者: 舟揺縁
第一章【剣聖と問題】
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第一章22、『地下図書館』


 時刻は七時半。

 本来ならば、夕食を食べ始めるような時間帯に、普段通りならば閉館しているはずの『三枝学園高等部・地下図書館』に、アズマたちは揃って居座っていた。

 何故か、誰よりも楽しそうに、もといノリノリで、ノエルは片腕を上に元気よく上げつつ、大きな声で言った。


「さて、司書さんにも許可を取りましたし、この馬鹿でかい地下図書館の探索を始めますかね」


 経緯はこうである。


 1、何となく全員で道なりに進んでいると偶然に『地下図書館』の周辺に辿り着いた。


 2、イドラが『七不思議』の調査を終わらせることを提案する。


 3、馬鹿正直にレクシーが司書に許可を貰おうとする。


 4、調査が不可能かと思われたが、日比谷博文から『偶然』電話が掛かってきて、『地下図書館』の探索を許可される。


 5、現在に至る。


 ……とまぁ、こんな感じである。


「『神隠し』ね、馬鹿馬鹿しい話だわ」


 レクシーは、そんな楽しげな態度を取っているノエルを静かに眺めながら、そんなことを告げていた。


「「……」」


 アズマとイドラは絶句していた。

 している行動は同じだが、いずれも由来は異なる。

 アズマは単純に、自分の行動を――偶然かもしれないが、日比谷博文に把握されていたことに対する恐怖。

 イドラも単純に、ノエルから渡された『地下図書館』の地図によって、『地下図書館』があまりにも広すぎることに対しての畏怖。

 どちらも生々しい絶句だったが、本質は異なるものだったのだ。

 アズマは、これ以上、深く考えるのを止めて、二度三度首を振り、淡々と真面目な声色で提案する。


「ツーマンセルで行動しよう」

「はい、私はアズマ君が良いです!」

「待て、理性で行動するべきだ」


 そうとだけ言って、アズマは脳内で現状をまとめ始める。


(――現在、俺が相対した『七不思議』は全員、戦闘を回避できないような相手だった。つまり、絶対そうなるとは限らないが、戦闘になる可能性が高い。つまり、必ず戦闘が出来る人間と戦闘が出来ない人間の二人で分けないといけない。この四人の中で、戦闘が出来るのは……俺しかいないな。いや、一応、ノエルも――【転生者アナスタシア】も戦力に含めて良いのか? ……難しいな。【転生者アナスタシア】は、俺が【転生者アナスタシア】の味方ではあるわけだが、【転生者アナスタシア】は俺の味方だと言える根拠がない。むしろ、同行させたやつを見殺しにすることだって――いや、待てよ。【転生者アナスタシア】の目的は、自分以外の人間を弱者にすることで自分だけが強者となり、結果的に悪と相対するのが自分だけになることで、この世界で苦しむ人間を自分だけにすること、じゃないか? だったら、強者になることで正しくなろうとしているレクシーと一緒に行動させて、そうすることで、【転生者アナスタシア】にレクシーを諭させることは出来ないだろうか? そうなると、俺とイドラで現在できる最大火力は出せるし、【転生者アナスタシア】は【転生者アナスタシア】で【無敵】じゃないけど【最強】だし、これが最善択だな。いや、だけど――)


 アズマは考える。

 まぁ、とにかく考えた。

 すごく考えた。

 過去一番……ではないが、必死に考えた。

 そして、五分の思考の末。

 アズマは一つの決断を下した。


「イドラと俺、委員長とノエル。これで探索開始だ!」


 この後。

 一時間ほどの間。

 ノエルによって。

 アズマに対する。

 クッソ長い説得が行われたが、割愛する。

 説得の結果は、お察しである。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「何も起きねぇな」

「そうでございますね」


 一瞬の沈黙。

 のちに、イドラが口を開いた。


「申し訳ございません」

「いきなりどうした?」

「私が、あのようなことを言わなければ、こんなことは起こませんでした。責めるなら、私を責めてくださいまし」

「いや、良いよ。この『地下図書館』、ただただ広くてめんどくさいだけだし。どうせ、こうも広いから、道に迷って、『地下図書館』から出られなくなる、みたいな感じで広がった『噂』だろうしさ」

「それではございません」

「じゃあ、どれだよ」

「ノエル様に『七不思議』について、話してしまったことについてでございます」

「……ああ、あれね。いや、良いよ。もう、過ぎた話だからさ」

「アズマ様、本当にそう思っていますか?」

「あ、やっぱ、バレた? いやぁ、流石に、話されるとは思いましなかったぜ。いや、そもそも、俺がイドラとノエルが知り合いであることを事前に考えていなかったのが悪いんだけどな」

「そうではございません」

「……?」

「本当に、過去の話だから私をお許し下さったのでございましょうか?」

「あ、ああ、そうだけど」

「……そうでございますか。このこと、ノエル様にお伝えしておきますね」

「は、はぁ」



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 沈黙が周囲を支配していた。

 重いわけではない。

 ただ単純に、話すことが無いだけだった。

 ノエルとレクシーは、互いにただのクラスメイトと言う認識なのだ。

 まさか、こんな風な形で、本格的に関わりだすとは、共に思いもしていなかったのだろう。


「ノエルさんも、【神秘オカルト】側の人間だったのね」

「レクシーさんも?」

「そうだとは断言しきれないけど、【神秘オカルト】に関わり始めたのは、つい二日前よ」

「私は一か月ぐらい前ですね」

「……ノエルさんも、【魔術師】なの?」

「ん、違いますよ。私は単純に、巻き込まれたというか、巻き込んでしまったというか、少なくとも、私は【神秘】から守られる側の人間です」

「で、でも、【神秘オカルト】を知った時の一般人の対処法が行われていないってことは、ノエルさんは何か大きな事情があるのよね?」

「あはは、お恥ずかしながら」

「聞かせてもらえないかしら。もしかしたら、私も力になれるかもしれないわ」

「……えっと、驚かないでくださいね。私って、寿命があと、八か月――もう、十一月だし、七か月しかないでした」

「どういうこと?」

「私は選ばれてしまったんです。そういう、【運命】に」

「……回避は、出来ないの?」

「可能性はありますよ」

「教えて」

「何を隠そう、それがアズマ君です」

「……あの問題児が?」

「あはは、問題児ですか。あれでも、私の知り合いの中では、だいぶまともな方だと思ってたんですけどね」

「運が悪いわね」

「アズマ君は、不器用なんです。好きなものを好きと思えず、嫌いなものを嫌いと思えない。それすらも許されないのだと、自分自身を呪っている人なんです。他人に感化されるくせに、自分への罰は他人への罰よりも厳しくて、身内に超甘くて、赤の他人に甘いのが、アズマ・ノーデン・ラプラス、その人なんです。そこだけは、記憶を失っていても、一切変わっていませんでした」

「記憶を、失った?」

「ええ、無いんです。一年と七か月前に起きた【大災害】、その被害者の一人にして、唯一生き残ったたった一人の人間が、アズマ君なんです」

「……」

「私は、あの人を愛しています。ですから、絶対に彼を見捨てない。それが、私が二度と後悔しないための償いです」

「……あの問題児は、ノエルさんを愛していると思う?」

「もちろんです」

「その根拠は?」

「必要ですか?」

「……そうね、無いかもしれないわ」

「とにかく、私は決めたんです。この命は、私のためにあるのだから、私は私のために、生きるのだと」

「ねぇ、ノエルさん」

「何ですか?」

「あなたは、特別な人? それとも、異常な人?」

「……それは、視点によりますね。私のことを邪魔だと思っている人からすれば、私と言う存在は異常と言えるかもしれない。逆に、私のことを大切だと思ってくれる人は、その人にとって、私は特別な存在だと呼べると思います」

「なら、あの問題児によって、ノエルさんは特別なの?」

「ええ、そうですよ」


 返事はない。

 不思議に思って、ノエルは自らの背後を見ると、そこには誰もいなかった。


「……あれ、レクシーさん?」


 その時。

 静かに異変は始まった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 アズマとイドラは足を止める。


「これで、俺たち担当のところは全部探索が終わったか」

「そうでございますね。……これからどういたしますか?」


 イドラのその問いを聞いて、アズマは顎に手を当てて、数秒間だけ沈黙する。


「……とりま、引き返すか」

「了解いたしました」


 その時だった。

 アズマの右ポケットで、ガラケーが自らを震わせる。

 提示されている名前は『ノエル・アナスタシア』だった。


「――もしもし、アズマですます。どうかしたか、ノエル?」

「レクシーさんがいなくなりました!」


 そんな事実が、単純に鼓膜を振動させる。


「っ! 今どこだ! すぐに向かう!」

「えっと、もうすぐ探索が終了しそうなところ」

「了解!」


 やけくそ気味にそう答えながら、状況が一切分かっていない中。

 それと同時にに、アズマは地面を蹴った。


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