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ワールシュタットの剣聖  作者: 舟揺縁
序章【剣聖と女王】
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序章17、『魔弾の射手と魔法使い』


 トム・ジェイソンは【剣聖】に敗れた後、一人静かに屋上の地面に横たわっていた。

 後悔、懺悔、悔しさ、虚しさ。

 様々な感情が彼を襲っていた。

 そんな中、学ランの右ポケットに入っていたスーマートフォンが鳴りだす。


 ――天月未来。


「うげぇ」


 めんどくさい上司からの連絡を知った部下のような声だった。

 それを確認すると、がくりと顔を下に向けつつ、慣れた手つきで応答ボタンの画面の位置をタップする。

 すると、テンションダダ下がりのトム・ジェイソン側を一切配慮していないのか、真逆にテンションフルマックスの勢いの声が聞こえ始める。


「それじゃあ、ノエル・アナスタシア君の護衛役のアズマ・ノーデン・ラプラスを『倒すため』の作戦会議を始めたいと思いまーす」


 それも、トムが負けた前提の台詞を言いながら。


「……はぁ」


 気遣いとしてはちょうどいいが、普通にうるさくて複雑な気分にトムは溜息を吐く。


「不満そうだね、【魔弾の射手】」

「そう呼ぶのはやめてください。外でしたら、中二病なのだと勘違いされますよ、【浮遊の魔法使い】」

「そういう君だって、わっちを『仕事』中は【浮遊の魔法使い】って呼んでるじゃん! わっち、それはどうかと思いますぅ」

「先輩が二人っきりの時はそう呼べって言いましたよね?」

「やれやれ、わっちは先輩だぞ」

「だからどうかしましたかね!?」


 疲労に疲労を重ねられても困るだけなのだが、とトムは溜息を吐く。

 次に、天月の声色が変わった。


「いやぁ、にしても……流石は【剣聖】ですね。ただの魔術師くらいは難なく突破されてしまいましたか」


 ボソボソしたような小声だったが、最近のスマートフォンの性能は優秀なようで一言一句聞き漏らさずにトムへと伝えきっていた。何故だか、そんな当たり前の仕事をやり切ったスマートフォンに怒りが湧いてくる。


「……すみません」


 同時に、謝罪の弁を送る。

 唇を噛んでいた。

 この人には、顔が二つある。

 おちゃらけている天月未来としての顔と、真面目な【浮遊の魔法使い】としての顔が。前者の時はまだ普通に話せるが、後者は一切の容赦がない。

 まるで、情と合理の二極だ。

 正直、怖い。

 この冷静さが、怖くてしょうがない。


「いやいや、君は悪くないぜい。そもそも、『世界神秘対策機構』の方の要求が洒落になれないんだしぃ。君は責められる立場にはないのだぁ」

「いえ、僕がもっと努力していれば!」


 そんなことを口にする。

 が、それと共にこうとも思う。


 ――しても、この結果は変わらない。


 自虐気味のように、そう思っていた。


「――ストップ」


 すると、こちらの考えていることを見透かしているように、天月はそう言葉にする。


「一つ聞かせてください」

「は、はい」

「怪我はないですか?」

「……一つもありません」


 むしろ、手加減されて、殺されないようにされて、本来ならトムよりも強いはずの【剣聖】の方が多くの傷を負っている。


「じゃあ、わっちから次に一つ」


 褒められたら、次に叱られる。

 それが、トムの経験則だった。


「よく頑張ったね」


 その経験則が、今となって崩壊する。


「……」


 彼女の声は優しいものだった。

 理想の上司とは彼女のことを言うのだろう。


「なぁに、あとはわっちに任せろ」


 と、いつものように胸を張る姿がトムには見なくても分かった。

 この人は強い。

 同時に、そう確信した。


「えっと、【剣聖】についての情報を」

「いいよ、いらない。それ、多分【剣聖】から開示してきた情報でしょ? だったら、その情報、罠かもしれない。『世界神秘対策機構』の方には開示しとかないほうが良いかなぁ。そうそう、その情報、ついでにいつもんとこに送っといてよ」


 いつも通りだった。

 戦闘におけるアクシデントを計画しないことで無くす。

 それが天月未来のやり方だった。


「りょ、了解しました」

「じゃ、さっさと家に帰って寝るんだぞぉ」

「は、はい、おやすみなさい」

「おやすみぃ、トム」











 ――通話が切れる。


「そうか、傷一つなし、ですか」


 天月はトムと同機種のスマートフォンをしまうと、更にポツリと呟いた。


「――なら、半殺しですかね」


 とことんこだわった『殺意』を、丁寧に込めて。


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