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ワールシュタットの剣聖  作者: 舟揺縁
第二章【剣聖と他人】
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第二章24、『各々の結末』


 レクシーは如何なる感情も察しさせない表情で、静かに告げる。


「私と貴女が対等に戦えていたわけじゃ無いわ。ただ、情報を得るために合わせていただけ。本来の戦場では、新鮮な情報がモノを言うらしいわね」


 生体電気。

 それもまた電気であることは明白であり、それを自由自在に操れるということは、記憶を探ることだって容易に出来るはずだ。

 情報は筒抜け。

 情緒も筒抜け。

 情景も筒抜け。

 ある意味、【最悪の呪術師】の最高傑作であるのだから、それくらいはできてくれないと困るなんて話かもしれない。


「ここで逃がさなければ、なんて。そんな簡単な話だと思ってるの?」

「っ!」


 ネットワーク。

 小さな小さなネットワーク。

 それを構築することによって、味方との連携をより有利なものとする。


「生体電気と直接繋げられたネットワークを用いることで、既に日本側の情報はすべて味方に回しているわ。と言っても、どんな技を使えるか、とか。そんな辺りの情報だけだから、安心してちょうだい」

「――馬鹿げてる。そんなのハッタリやっ!」

「ん、あぁ、望月錬賭さん。彼も【超能力者】らしいわね。そして、【超能力】と呼べるすべてのそれを使用することが出来る……何よ、こっちも相当のチートじゃない」

「……したことがない」

「えぇ、したことがないのか、私の【超能力】がそれ以上なのか、それが異常なのか、私は知らないわ。少なくとも、確かなのは、私がそれが出来ることだけよ」


 汎用性の化け物。

 それが静かに、牙を剥き返す。

 その結末は語るまでもない。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「はぁ、疲れた」


 あるはずのない刀が地面に刺さるという形で、人の絵をなぞっている。

 彼の術式が解除されたと共に、その姿が消えたので、何処にいるか分からないのはアズマにとって厄介だった。なので、大雑把にでも分かるようにと、試行錯誤した結果がこれである。

 多分、だいぶシュールな光景だろう。

 と言うか、実際にそうだとアズマは思っている。


「起きてる?」

「……」


 峰打ち、と言っても。

 アニメとかゲームとかで偏見が進んでいるため、殺さないように手加減をする攻撃法――と勘違いされていることが多いだろうが、それは間違いである。

 ベクトル的には、手刀でトンってやって気絶させるやつみたいにありえない話である。

 こうして見た感じだと――透明なので見るも何もないが――打撲程度はしていてもおかしくはないはずだ。


「気絶したかなぁ……よっと」


 だとしても気絶をしたとなると、流石に寝返りも打たない、打てないだろうと、安心したのか、アズマはせかせかとリズミカルに立ち上がった。

 彼からしてみれば、望月を撃破した以降足取りの掴めないノエルのことが心底心配で仕方ないのである。正直、野郎の相手をするほどアズマはお人好しではなかったわけだ。


「てか、みんな大丈夫……」


 そう口にして、アズマは苦笑いを浮かべる。自分自身を呆れたように、我ながら馬鹿みたいだと嘲るように。

 ――誰かを心配する。

 そんな言葉を、思わず口に出してしまうほど、それほど彼はあの頃から随分と変わっていた……のかもしれない。


「っは」


 鼻で笑う。


「やれやれ、本当にうんざりするな」


 そう嬉しげに毒づいた、次の瞬間だった。



 ドオオオォォォォォォォぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉッ!!!



 と。

 大地が割れたかのような轟音が響く。

 その音と伝播するように、先程の鬼神や挑宮道家とも違ったような衝撃波が流れていた。


「……何だ、今の?」


 続けて。


「ん――」


 視界がブレる。

 こけたわけではない。

 あれこれもしかして無意識のうちに体の疲労がクライマックスを遂げちゃって俺の体ってば倒れちゃった? ヲイヲイ、であればノエルに介抱してもらいたいな。――なんてふざけながら考えている暇なんてなかったというのに、やはりこの男はふざけ過ぎだ。

 実際、現実逃避である。


「――は、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 身に覚えのある感覚だった。

 気分が悪くなる様な、足元がおぼつかなくなる様な、それはまさしく、空中を浮かぶときの代物であり、実際に彼は何かに引き寄せられながら高速で移動していたのである。いや、しているのだ。

 気分はさながらフルトン回収機だろうか。


「アズマぁぁぁぁぁっ!」


 天月の只事ではなさそうな呼び声。

 そして、滅茶苦茶な景色の一片としてそれが映っている。それ――今にも殺されかっている朱志葵の姿の認知ともに、その浮遊感は失われた。その一瞬に過ぎないひと時は、アズマにとっては永遠のように長い時間かと想えたかもしれない。まるで余裕があるかのように、そっと受け身をしつつも、音もなく彼は地面に着地した。それとともに、空いた片足で地面を蹴って、今にも人を殺そうとしている赤い髪の少女の首を捉える。

 瞬歩。

 縮地。

 一動作をもって。

 アズマは死の匂いを香らせている少女を斬るために必要な状況を整えた。


「っ!?」


 火花が散る。

 互いに、ニヤリと笑った。

 その感覚は。その状況――鍔迫り合いなんて随分と久しいものだったからだろう。


「……」


 同等の相手。

 完全なる敵。

 それらから来る緊張感。

 その恐るべき環境に、狂気的とも言える喜びの感情がアズマの心で湧いていた。

 そして、双方が刃を弾く。

 同じく、後方へと飛んだ。

 互いに、距離を取る。

 それゆえに、アズマは叫んだ。


「どうなってんだよ、これっ!?」


 その問いに答える余裕もないのか、天月は朱志葵を――おそらくは彼女の【魔法】で――引き寄せる。そして、薄々とアズマ自体が気が付いていた天月の癖をここで開示しよう。

 彼女は追い詰められれば追い詰められるほど、無口になる。

 そういう人種なのだ。


「対神格・一級怪異殺しが一人――」


 劇場の女優の様に、歌う様な声色だった。

 その瞳は正しく『血塗られた紅きブラッドムーン』のそれであり、静かになびいている髪は黄昏時の紅い空としか表現することができない。――つまるところ、それは赤だった。真昼の青空を塗り替えんばかりの赤色だった。

 そんな彼女の笑みはとても印象的だ。

 これをこの場にいる人間は、妖艶とも言え、生命の持つ生々しさとも言えることだろう。はっきりと、人が積み上げてきた歴史の中で、その頂点に君臨している者にか見ることが許されない代物のように思えてきてしまう。


「――朽葉唯人が式神、紅」


 例えばの話だ。

 ノエル・アナスタシアは日本における怪異殺しとしての階級を暫定七級とされていた。

 つまるところ、それが意味するのは最下位である。

 けれど、その予想とは相反する形で、その遥か上の一級である【超能力者】、『望月練賭』を彼女は撃破されてしまっていた。鼠が象に勝てるなんて話、じゃんけんだけにしてほしいのは話だ。

 さて、どうして勝てたのか。

 その理由は明確で、やはり確実で、彼女には別人格に等しい【転生者アナスタシア】が宿っていたからだ。――逆説的に、【転生者アナスタシア】には、暫定だが、一級以上の実力があるわけである。

 ちなみにだが、似た様に、契約者に戦闘ができなかったとしても、その式神に驚異的な力があった場合、どの様な結果が下されるのか。


「良い剣筋だったわよ、アルビノ君」


 その答えが今、目の前にあった。


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