第二章21、『やましいからこそ裏話』
時系列は少し巻き戻る。
具体的には、アズマが日比谷に呼び出されている頃だ。
「注目」
「あぁぁぁぁぁぁ! あんだけ貯めた石が全部なくなったぁぁぁぁぁぁあ! 何で、何だ、このガチャクソかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「……」
「五月蝿いで、天宮はん」
「おい、破門先輩。何の話だ?」
「やめたり、鬼神はん。この男だって、好きで破門にされたわけじゃないんやて」
「注目」
「あ、今日のトピック何かなぁっと」
「……」
「――鬼神、アズマさんからの提案を受け取っている」
「早く話せ」
「残念だけど、心底残念だけど、他の連中が聞かないと話が進められないんだ」
「話を聞け、殺すぞ」
「暴力反対……はい、話を聞けばいいんですね」
「バイオレンスバイオレンス、おぉ怖いなぁ」
暴力による政治は反感を呼ぶ。
少なくとも、それは歴史が証明していた。
「実は――」
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さて。
イギリス勢は皆、予めに決められていた客室に戻ることになっていた。
が、それを無視して、その全員が男性陣の寝室にいるわけなのだが、これはアズマから話があると伝えられての行動である。しかしながら、その問題のアズマが日比谷に呼ばれてこの場にいないので、静かに待っているところなのだ。
「すまん、待たせたな」
申し訳なさそうに、扉の開く音と共に部屋に響く。
視線が集まる。
そこには、少し顔つきが変わっていた少年が立っていた。
歩きながら、彼は告げる。
「ゲーム開始とともに各参加者に与えられるポイントは一。降参することによる脱落や戦闘不能になったことによる脱落、ルール違反による脱落などによって、唯一ポイントの減点は執行される――」「――あのゲームには引き分けの際の言及がない――」「――どっちも負けか、どっちも勝ちか。あの日比谷博文なら、どっちを選ぶか、そんなの決まってんだろ――」「――どっちも勝ち。そもそも、三枝財閥が一枚噛んでんだ。どっちも負けなんていう、貧乏くせぇことは言うはずがない。何せ、そこら辺は名誉に関わるからな――」「――じゃあ、このゲームにおける引き分けの条件はと言うと。お互いに得点を得られないようにすればいいだけ。つまり、出来る限りの戦闘を避け、その現状を維持すればいいわけだ――」「――で、だからこその同盟――」「――話を聞く限りでは、こう言う交流会は初めてなんだってわけだ――」「――なら、この交流会における評価は、前例のない以上、これからの評価として加点されることはない――」「――真面目にやろうがやるまいが、それは関係ないってわけだ」「――さて、どちらも引き分けになって、どちらも海外旅行のチケットを手に入れるのか。それとも、片方だけが手に入れるのか。互いに、その実力は未知数。警戒すべきだってことは変わりない。じゃあ、ここは手を出さずに、最善を手に入れられる方が良いんじゃないだろうか――」「――ま、血の気が多い奴もいるだろうけどさ、そう言うやつは、今度俺が殺し合ってやる。日本外で限りなく頂点に近いこの俺が、勝負してやろうじゃねぇか」
勝手な行動。
それに対する批判は無い。
一部の人間から睨まれてはいるが、それでも最善択であったことが功を成している。
ニヤリと、少年は笑う。
「――さて、そんな提案をしたわけだが、あちらはどうなったことやら」
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ルール変更は無し。
だとしても、だ。
出世。
出世と来たか。
こうなってみると、手を出さないのはどうかと言う話になってしまう。
それゆえに、日本とイギリスは、互いに一人へとその判断を委ねた。
一方は、最も冷静な者へ。
もう一方は、言い出しっぺに。
「「密約は保持、打ち合わせ通りにいく」」
異口同音。
その判断が、波乱を呼ぶ。