『フラグ折ります』悪役令嬢はヒミツの商売はじめました。
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勢いで書いた短篇3作目ですが、いつもとちがったゆるめのテイストにしてみました。どうぞご覧ください♪
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『フラグ折ります』
重厚な扉に、手書きの看板がかかっている。
ここは、悪役令嬢の地下組織。そういう設定だけれど、実際のところはただの生徒会室だ。
「さぁ、放課後になったわ!今日も仕事に生きるわ!頑張るわよ?」
公爵令嬢ミリアは、その美しいブロンドの髪の毛を縦ロールにして今日も気合を入れている。
時々訪れる迷える学生たちの恋愛相談に乗ってフラグを折るのがミリアのお仕事だ。
「そろそろやめませんか?お嬢様…」
学園にまで付き添ってきている執事見習いのマールが情けない声でミリアに声をかけた。
「なに言ってるの?私はやるわよ!マール。あなたは愛しのヒロインのところにでも、行っちゃいなさい!」
「ヒロインってなんですか。知りませんよ。お嬢様が心配すぎて離れられないですよ」
「え?だって、ゲーム内ではあなた攻略対象じゃないの」
2人の間に静かな時間が過ぎていく。また、お嬢様がおかしなことを言い出した。と言いたげな目でマールがこちらをジト目で見ているが、ミリアはそんな事は気にしない。
前世大好きでやりこんだ乙女ゲームの世界に生まれ変わってから、ミリアはフラグを折り続けてきた。
―――断罪なんてまっぴらだわ。私に恋はいらない!仕事に生きる!
そう決めたミリアは、わき目もふらずに勉学に励んできた。
「でも、マールあなた勉強している姿は見ないのにいつも首位よね」
「お嬢様の執事として当然のことです」
おかしなことに、いつも首位なのはゲーム内では王子レイドのはずなのに、1位マール、2位をミリアと毎回独占しているのだ。
レイドも実技では1位。勉学は僅差の3位のため、総合首位はキープしているのだが。
―――まあ、数限りないフラグを折ってきたから変わってしまうのは仕方ないのかもね。
そんなことを考えながら、マールのいれてくれた絶品紅茶を優雅に飲むミリア。そこにドアがノックされた。
ガチャ。
「おい、またお前おかしなことはじめたのか」
「来たわ。うるさいのが」
「声に出てるぞ?!ここは生徒会室で俺が会長なの。それに王子に対して不敬だぞ?」
「ふふ。学園は平等ですわ。殿下」
生徒会長は代々王族が担っている。俺様王子枠のレイドは、もちろん会長を務めていた。
「殿下、お嬢様を止めようとするとろくなことがありません」
「ああ…そうだな」
2人は目を合わせた。婚約者を決めるパーティーには現れず、深窓の令嬢と噂されるミリアが気になって公爵家を訪れた王子は、破天荒なミリアと出会った。
そこからミリアと腐れ縁が続いてしまっている。王子の婚約者はまだ決まらない。
「そうそう。ヒロインとの仲は進展してます?」
「だから、毎回お前が言うヒロインって何なんだよ…」
「え?光魔法持ちの特待生フローラ様に決まっていますわ?」
レイドは眉をしかめてミリアを見つめた。
「あのな?そういうのまったくないから。…お前の方が面白いし」
「今、フラグの香りがしました」
「は?」
「俺様枠の『お前面白いな』は禁止ワードです。罰金を払ってください」
そんなこんなでフラグを折りまくった結果のバグなのか、元攻略対象者たちに実は慕われている。しかしミリアがそんなことに気づくことはなくフラグは次々と折られているのだった。
「くっ。今度王室の夜会がある。俺がエスコートしてやるから来いよ?」
「え?なに私にヒロインフラグを立ててるんです?相手違いますよ?」
「…お前が良いんだよ」
自分も紅茶をいれて、マールが静かに紅茶を楽しんでいる。
「…え?」
「お前が良いの!俺は」
「ひゅわっ?」
気づくと至近距離に、レイド王子の顔が近づいている。今までミリアに俺様な側面しか見せていなかったレイド王子。いったいどうしてしまったというのか。
「ドレス。公爵家に送っておいたから、絶対に来いよ?」
「え…困ります。断罪嫌です…」
「わけわかんないこと言うな。俺はお前を裏切らない」
公爵家に帰ると、すでにレイド王子の瞳の色をしたエメラルドのネックレスと、高級感あふれるピンク色のドレスが正式な国王陛下のサイン入りの招待状とともに届いていた。
「これ、ヒロインが贈られるはずのドレスじゃないの?」
「お嬢様」
「マール?」
「もしお嫌なら、私と逃げませんか?」
―――それ、ヒロインに告白するときの台詞!!
何かがおかしい。どこで何を間違ったのか。こんなルートどこにもなかったのに。
しかし、ここは乙女ゲームではない。相手は生身の人間だ。
王命とあらば、夜会を欠席することは仮病を使っても許されなかった。しぶしぶ、ミリアは夜会へと向かった。
王宮のダンスホールの入り口には、ミリアと幼なじみの騎士、アベルが立っていた。
「うわ、マジ可愛いな」
「ちゃんと働きなさいよアベル」
「いや…結婚しないか?一生大事にする」
「はわ???」
ここでもなぜか、愛の言葉をささやかれてしまうミリア。
「ミリア。待っていた。迎えに行けなかったけど、ここからは俺がエスコートするから」
俺様王子が、なぜか優しい。そんな対応をレイド王子にされたことがない。他の男性にもされたことはない。
レイド王子とアベルの視線が交差したが、先に視線を外したのはアベルだったことにミリアは気づかなかった。
「今日は、俺たちの婚約発表だ。半年後には結婚する。逃げるなよ?」
「え?聞いてない」
「言ってないからな。なんで俺が婚約者を決めていないと思ってるんだ」
俺様王子は、悪役令嬢に囁いた。
「お前だけが、好きだからだよ」
ゲーム内でも、一度好感度が上がるとほとんどの場合、俺様王子ルートに突入してそのままハッピーエンドを迎える。
他人と自分のフラグを折り続け、断罪からは逃れられても、悪役令嬢は俺様王子から逃れることはできなかった。
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