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継承職《英傑の番人》は休めない  作者: 豚肉の加工品
3/3

番人は眠っている

一人眠らせたからと言って《番人》の夜は終わるわけもなく…………一人、また一人と時間を費やし眠りにつかせてやる。

今回は〝魔王〟である少女一人だけだったが、最悪の場合は三人同時に暴走するときだってある。

もしも《番人》がいなければ世界なんて一瞬で崩壊しかねない力の渦が、たった一ヶ所の屋敷に詰め込まれているなんて外にいる人達には分からないことだろう。


「……ふぅ、終わった」


ゼルネストの仕事はいつも通り太陽の顔を拝んでから終わった。

もうあの三人の《番人》として生きていくと決めた日から、夜に眠れたことなんて数え切れる程度しか味わったことはない。その事実は日課としている日記に全て記録されており、今日もまた更新される。


「三人とも異常はなし、暴走もすることなく平和に過ごせた……と」


簡単でいて簡潔な日記。

それでも何時でも鮮明に思い出せるような記憶。


「んじゃぁ……オレも寝るとするかな」


欠伸を噛み締めながら、天に向けて手を伸ばす。

あとは村で購入した石と遜色ない硬さのベットに横になりながら瞼をゆっくりと閉じていき、気怠そうでいて隣に人がいても聞こえないような小さな声で自らの『願い』を思い浮かべて言葉を綴るのだ――――


「オレが起きるまで〝時を止めてくれ〟」


彼がいつも世界そのものに応えているように、また世界も彼に応えてくれる。

きっとこの現象は彼にしか分からないし、この現象を起こせるのも世界以外には到底起こせない。

これは〝世界〟そのものと言っても過言ではない存在を守りし者である、《英傑の番人》であるからこその力である。

そして、誰も知りえることのない世界との指切りでもあるのだ。




生きているものが現実に起こしてはいけないであろう禁忌、それとも神にも等しい力と言えばいいのか。

《英傑の番人》という代々継承されてきた職業を継承される前から、ゼルネストには異様な力があった。

万人が右に行けば左へと歩を進めるような。

周りが好きなものを嫌いだと言えるような。

当たり前のことを当たり前に行えないような。

正義であることが悪に感じてしまえるような。

歪なパーツが組み合わさって象られた、完成しているのに他とは違う不気味な雰囲気を持って生まれたばかりに、世間や周囲から疎外()ずされて生きて来た。

だからこそ……


――――ゼルネストはこの世の中に存在する異質や異常や超常に愛されてしまった。


これは才能でも何でもなく、選ばれし者だからでもない。

運命といった綺麗な奇跡でもなければ、運命という一言で片づけてしまっていいものでもない。

ただ生まれてくる場所を間違えてしまったと言われてしまえば頷くしかなく、生まれてくる時代を間違えたと言われれば首を横に振る。

ゼルネストという人物は、何も知らない者たちから見れば〝異様〟だが、全てを知っている者たちからすれば喉から手が出るほど必要な存在だったということ。

故に――――《英傑の番人》という力を得るに最も相応しい者だった。


「〝魔王〟も寝た……、ゼルネストも寝てる」


「うふふっ、今回は(わたくし)たちが隣で眠る番ですよ」


時が止められた状態ですら活動出来る正体と言ったら、この屋敷に住まう四人しかいない。

それも暗闇でも微かな光源があれば反射してしまうような透き通る無色の瞳の中には魔方陣のような図が描かれており特徴がない瞳の色をより目立たせてしまってるし、渦巻く力がより鮮明に映し出されている白色の瞳を持つ人物なんて簡単に割り出されてしまう。

〝賢王〟ドーンズ・ゴールドマキシム

〝英雄王〟セラフィム・スターダスト

想像を具現化させることの出来る〝神を宿す〟幼女(幼女ではない)と、邪悪なる存在を確実に滅する聖属性の力を持ち〝熾天使を率いる〟聖女。


「どうしよ、ゼルネストが珍しくベットの隅の方で寝てる」


「大丈夫ですよ。そんなことは奇跡(・・)がどうにかしてくれますから」


二人が眠るゼルネストを見下ろしながら囁き声でそんなことを話していると、偶然にもゼルネストが仰向けになるように寝返りをうった。


「ね? 大丈夫だった」


「……流石は〝奇跡〟と言えばいいのかい?」


「何を言ってるんですか? 次はドーズの番ですよ、絶対に気が付かれないことを前提(・・)に潜り込みますよ」


「分かってるよ」


そう言いながら、何をすることもなくベットの中に当たり前のように潜っていく〝賢王〟に視線を送ると当然のように〝英雄王〟をベットに入る。

これでゼルネストの運命が二人と眠っていること前提に進んでいき、いつもなら感じるはずの気配を感じないまま深りに眠りにつくのだ。


「……いいね、これ」


「えぇ……最高です」


二人が腕を枕にしていても静かに寝息を立てている。

二人がどんな表情で見つめていても気が付くことなく瞼を閉じている。

こんな隙だらけなゼルネストの姿を味わえることに歓喜しない者は、この屋敷にはいないだろう。

むしろ〝魔王〟がこの場所にいたのならば、遠慮なくゼルネストに襲い掛かっていたに違いない。


「〝魔王〟も惜しいことをしましたね」


「まぁ……仕方ないさ。ここは二人しか入れないからね、それにこの頃はゼルネストに対する独占欲が過ぎる。独り占めはダメだって言ってるのにね」


「全くですっ……この方は私たちのためにいるのに、独り占めなんてズルです」


「本当だよ。どうせボクたち以外じゃゼルネストのことを包んでやれないんだから、もういっそ三人で囲ってしまえばいいのに」


「…………本当に、結局は私たちの所に戻ってくるのに。どうしてゼル様は受け入れてくれないんでしょうか?」


これだけ喋っていても気が付かないほど深く眠るほど疲れるまで私たちのことを甘やかしてくれるのに。

どれだけくっ付いても嫌な素振りだけで、全てを受け入れてくれるのに。


「時間の問題だよ、〝英雄王〟」


ただくっ付いただけの仕草の中には、強い独占欲が垣間見えた。

「これはボクたちのだ」そう物語っている。


「ですね。ゼル様は生まれたその瞬間から私たちのですもんね」


白くか細い指先で頬を撫でてるその視線には、強い執着心が淀んでいた。

疲れを癒すように、ゼルネストの体を労わるように優しく撫でられた指先から伝わってくる気持ちは〝賢王〟と同じようなものだ。



「「…………絶対に誰にも渡しはしない」」



二人の見つめる視線の先には、優雅とも言えるほど純粋に眠る一人の青年の姿が捕らえられていた。



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