4話 憧れの先輩は…(香織)
四話 憧れの先輩は……
自分は小学生の頃から、積極的な人物ではなかった。覚えているのは小学四年生の頃から。何故だか知らないが、小学四年生の時より前の記憶がない。取り敢えず、消極的だった。何をするにしても自分からは進んで出なかったし、他人から薦められてもあまりしないことが多かった。私はそんな性格だったから、自分で行動を起こすことが苦手だった。
だけど、アイドル部に入って少し変わった気がした。練習がどんなにキツくても、挨拶は当然,先輩達にははっきりとした口調での受け応えそんなのが当たり前、行動は自分で考えてからする,そんなところだから自然と自分は前みたいに消極的ではなくなっていた。
「おはよー東田さん!」
「おはよ,香織」
東田さんは隣のクラスだけど私の席にたまに遊びにきてくれる。
「別に、楓って呼んでくれてもいいのに」
東田さんは微笑みながら私の隣の席にドカッと座る。少し荒い感じがするが、笑う時に手を口の所に持っていき、クスクスと静かに笑うお嬢様な一面もある。常に笑顔でいて、隙がない完璧な女子。
「じゃ、楓!呼び方変えてもよろしくね」
「呼び方変えてもって何よ。私のこと、冷たい人なのかって疑ってるの?」
頬を膨らませて言うその顔が私の最近のお気に入り。だから最近はよく楓を茶化してその顔を見ている。自分も変わったなと思いつつ。
アイドル部に入って、自分はクラスメイト女子の話の中にすっぽりと入れている。だから、本当に楓には感謝している。実際、クラスメイトの女子達が、休み時間などちょくちょく私の周りに集まってくる。可愛い女子といると自分がクラスの仲間になれた感じがしてとても楽しい。窓を開けて、涼しい空気を浴びて春の心地よさを感じながらの、ガールズトークは最高だ。考えてもいなかった人生に私は時々、夢なのでは?と思ったりしているが全て事実だ。
最近、一番私が多く話すのは楓である。
そんな楓との最近の話題は使っているシャンプーの話だ。その話はひょんなことから始まった。
それは、とある日のこと。寝る前に寮内の洗面台で楓にあった時のことだ。楓の髪からふわっと甘い香りを感じた。
「楓ってさ、髪の香りいいよね」
「え?そう?なんか嬉しいな」
「私も美人になったら香り良くなるのかな」
不意に思うことがある。美人だったらスペックが違っていただろうになってことだ。そんなこと科学的根拠など何もないのだが、雰囲気がそうさせているのだろう。
「香織は美人じゃん、香りもいいじゃん甘い匂い」
そこまで笑顔で言った楓の顔が少し曇った。短く「え?」と言って考え込んでいる。
「どうしたの?」
心配になって聴いてみるが反応はない。すると、突然楓がクスクスと笑い始めた。
「香織の香りってダジャレじゃん」
なんとしょうもない事、でも自然と笑顔がこみ上げてくる。それで気がつけば私のツボにハマって私は笑いを堪えるのに必死だった。自分はクラスで人気一位なんかにならなくてもいい。ただ友達と笑っていられることが素直に嬉しかった。
多分こういうことがあったから、何かとシャンプーの話をたくさんするのかもしれない。寮に帰ってスマホを見て、いいシャンプーを探してこれはこういう成分がいいよねなどと話している。側から見たら中々にやばい二人なのかもしれないけれど、これで楓と話せるならそれでいいと思う。
そんな毎日を過ごしていたある日のこと、寮のベッドに並んで座って話していた時、楓が不意に私に抱きついた。
「ちょっと⁉︎楓?」
私は突然のことに頭がパニックになった。これって百合なのでは?そんな恥ずかしいけれど楓となら。そう思った私は楓に抱きついた。が、楓は私が抱きつくと、私に抱きつくのをやめて顔を赤くしてで私に言った。
「香織?何考えてんの、やらしいね……」
てっきりそうゆうことだと考えていた私が余計に恥ずかしくなった。じゃあなんで抱きついたのよ!
「じゃあなんで抱きついたの?」
すると、楓の顔が急に目を逸らしもじもじとし始めた。やっぱりそういうことなんだよ、恥ずかしがることないのに。そう思った私に意外な返答が返ってきた。
「香織の香り、アイドルとしての香織の匂いを嗅いでいたの。会った時からあなたから、アイドルのオーラを感じでいたから、だから気になって」
さぁ、厄介なことになった。どーゆーことなの。アイドルとしての香織の香りとは?
そのアイドルとしての香りについての発言から数日した時のことだった。
「一ヶ月後にあなた達一年生には、このブランドのオーディションに出てもらいたいの。」
練習後のミーティングで先生が紙を配りながら告げた。その紙にはアイドルらしき人が2人並んで立っているイラストが描かれてあった。
どうやら先生達は、私達をそろそろアイドルとしてデビューさせる気なのでしょう。やっぱりアイドル活動が苦手かも……。
「こんなの出れるわけ……」
自分の弱さにもらった紙をくしゃっと握ってしまった。自分だってこんなのに出てみたいと思ったことある。しかし、自分には無理なんだ。部活には入ったものの,曲に合わせて踊れない、綺麗な声が出ないなどの問題点が自分にはあった。だから、,こんなのに出ても私は恥をかくだけなのだ。
「どーしたの?顔をしかめていたらせっかくのお顔が台無しだよ?」
後ろから松崎先輩にそっと話しかけられた。松崎先輩は、入学式の時の私の憧れの先輩だ。松崎先輩は、どこか不安げな顔をしていた。私が周りについていけてないことを心配でもしているのかな……?だとしたら先輩に悪いな、そう思った私はとっさに思いついた嘘をついた。
「いえ、ただ、夕日が眩しいだけです」
「心配なんだよね?このオーディション」
そう言って松崎先輩は、私のくしゃっと握った紙を小さな生き物を手にとるように優しくそっと私の手から取った。
「私はね、心配してないよ?きっとあなたなら合格するわ、努力を積み重ね続ければ」
「へ?」
私は驚いて思わず横の松崎先輩を見た。聞き間違いだろうか、でも、確かに先輩は言った。合格すると。私は松崎先輩が何か言うのを見つめて待ったが、松崎先輩は私にそっと紙を返し歩き出した。振り向いて「明日も頑張ろ!」そう言って遠くへと行ってしまった。日の入りの遅くなった夕日が松崎先輩を照らし、松崎先輩はとても眩しかった。私はその後ろ姿から目を離すことが出来なかった。
「ねぇ、まだ帰らないの?」
後ろ姿から目を離さなかった私に誰か話しかけてきた。話しかけてきたのは、桜田先輩。桜田先輩は私達よりも背が低く、先輩達の妹キャラである。最初の頃は、先輩達と楓以外は私も全員同級生だと勘違いしていた。
「え、あ、帰ります。少しボーッとしていて」
すると、桜田先輩はニィっとにやけて私をからかう。
「かずみんに見惚れていたんじゃないの?」
「ち、違います」
私は松崎先輩を恋愛的に好きと言うわけではない。確かに、可愛いところとか惹かれるけれど……。
「あなたはかずみんに惹かれている、憧れ、なんだよね?わかるよ、その気持ち」
桜田先輩は、私の心の中が見えるのか知らないけれど、私の先輩に対する想いが全てわかっている。私は桜田先輩を見た。桜田先輩は松崎先輩が行った向こうの方をどこか寂しそうな目で眺めていた。
「私もかずみんに憧れ、そして惚れた。かずみんはすごかった。誰からも好かれる何かのオーラを発して、あの子の周りには必ずいた。けど、今のかずみんはあの時みたいに明るくない。何となくみんなと距離を置こうとしている気がするの……」
松崎先輩の周りには確かに同級生があまりいない。同級生と一緒にいるのを見たことがない。私達に教えるので精一杯なんだろうな……。そういうふうに思っていた。
「彼女はアイドルとしてもすごい。完璧な歌と踊りで沢山の人々を魅了してきた。そしていつしか、日本のトップアイドルになるだろうと、誰もが思っていた。しかし、今は表舞台からも姿を消して、ここの学校でひっそりと部活をしている。」
「松崎先輩は何があったんですか?」
桜田先輩の表情が暗くなる。何か暗い過去の話が出てくる予感がした。
「かずみんは1人だけズバ抜けてアイドルとしての評価が高かった。だから、次第にそれを悪く思う人が校内にいて、かずみんはいじめられた。それの結果、かずみんは気が病んでアイドルとしての才能を失ってしまった。もう昔のかずみんはいないの。」
言葉も出なかった。松崎先輩が……。
「ごめんね、こんな暗い話して。でもね、彼女のこと知ってもらいたかったんだ。あなたには」
ようやく、桜田先輩が私の方を見た。その顔はどこか悲しそうで今にも泣き出しそうだった。でも、なんで私に知ってもらいたかったんだろう……。理由を悩む私に桜田先輩はこう告げた。
「かずみんに認められたあなたならきっと助け出せる」
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