3話 怖いあの子と目が合った(香織)
三話 怖いあの子と目が合った
結局,私はアイドル部に入ることにした。こんな部活がある学校自体珍しいから入れば良いのに、そういう風に東田さんから誘われたので入った。
「部活決まって良かったね」
保真麗と寮から教室に行くまでの間、二人で話しながら歩いていた。四月だから、朝はまだ空気も冷んやりしているが、それも心地よい。気持ちの問題だけで捉え方が変わるなんて考えたこともなかった。昨日、部活に入っていなかったら、この空気は冷たくて嫌だったかもしれない。アイドル部に感謝しながら、廊下を歩き教室を目指していた矢先、突然事件が起きた。横を向いて保真麗と話していて、前を注意していなかった私が悪かった。
女子生徒が急にぶつかって来た、というよりぶつかった。
「うっ!あ、ご、ごめんなさい!」
謝ろうとしたが先に謝られた。どうやら、相手は故意でぶつかって来たわけではないらしい。だから、安心していたらもう一人の女子生徒が来た。
「今度、なんか言ったらただじゃ済まさないから!」
前髪で左目を隠して、前髪で隠れていない右目はとても鋭く、少し日に焼けた肌、立っているだけで強さを感じるオーラを発している、狼を思わせる強いイメージ。ぶつかった子、この強そうな子に喧嘩売ったんだな……。
「す、すみません!」
そう言って、私にぶつかって来た方の女子生徒は走って何処かへと行ってしまった。私は何処かへ行ってしまった、女子生徒から目を離し、少しばかりの文句を言いながら前を向いた。
「急にぶつかって来て驚い……た……よ」
なんと、私の前にはあの子がいた。キスをするぐらい近くに顔を寄せてじーっと私を睨んでいる、いや、目付きが悪いからであって本当は見つめているだけだろう。
「なぁ、お前」
「はい、なんですか……」
私の声が自然と震える。急に冷や汗が出てきて、さっきまで気持ちの良かった冷んやりは気がつけば空気が凍りついた感じの冷んやりに変わっていた。なんで私……?すると、怖い子はやっと顔を離してくれた。なんか、カツアゲでもされるのかな……?
「お前、保真麗の友達?」
「え、」
え?これは予想外だった。何 てっきり、何かされるのか思いある程度の覚悟は決めておいたものの、……どゆこと?
「ごめんね、香織ちゃん。言ってなかったね、この子私の幼馴染み!」
「えーーーーーーーー⁉︎」
よく分からないが、何かの冗談なのだろうか。こんな怖い子と、ゆるふわイメージの保真麗が幼馴染み?きっと、何かの間違いだ!そんな冗談言っていたら殺されちゃうよ!
「ごめんなさい、急に驚かせてしまって。あなたの隣のクラスの霜田 伶良です。」
霜田さんの私の呼び方が、お前からあなたに変わってるし、急に丁寧な言葉使いになり、さっきとは全く違う態度になった。そんな彼女に私は驚きを隠せなかった。
その日の昼休みに保真麗と話していると、霜田さんが来た。
「保真麗と香織さん、仲良いんだね」
「同室で仲良くさせてもらってます」
やっぱ、いくらあのような丁寧な態度を取られても怖い人は怖いのだ。理由はよくわからないがそんなこと、この三人いやこの学校内でも私が一番よく知っているはずだ。
「わざわざ、敬語なんて使わなくてもいいのに」
霜田さんはそう言ってくれているが、やっぱり怖い。そんなこと言ったら捻り潰されるに決まってるし、言われた方は傷つく。だから、私はなんとかごまかそうとした。
「霜田さんとは、あまり喋ったことないし……」
「伶良の事、怖かってんじゃない?」
保真麗に何か心を読まれたらしい。私はそれを言わないように努力していたのに、それを言われた本人もかわいそうだと思った。一瞬、三人の間の空気が凍りついたように感じた。爆弾発言、まさにこういう発言のことをいう。私はこの空気をなんとかしようと、ごまかそうとしたが先手を霜田さんに取られた。
「私のこと、怖い?」
そうやって見つめてくる顔は可愛かった。だから、しばらくの間、目を離すことが出来なかった。
でも、やっぱり怖いかも……。
「すこし、怖いです」
気がつけば言ってしまっていた…心の声が漏れたというやつだ。すると、霜田さん落ち込むどころか、ニヤリとして小学生学が悪戯するみたいに私のホッペタをいじり出した。
「ダメな子だね、でも正直に言ってくれて嬉しいよ」
確かに怖かった。でも今は違う。笑顔で私と戯れる霜田さんはもう怖くはなかった。きっと、心の広い優しい子なんだな、この態度で私はそれがわかった。だから、今はもう怖くない。
「や、わらひはこはくなんへありまへん(や、私は怖くなんてはありません)」
だから私はほっぺたをいじられながらも頑張って笑顔で答えた。
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