2話 アイドルへの道標(香織)
二話 アイドルへの道標
一人でうずくまっていた私に誰かが声をかけてきた。
「で、あんたどこの部活入るの?」
「え?」
「あんたさ、ずっとそこにいるじゃん」
その子は初めてなのに、愛想のない話し方で話しかけてきた。
初めて会ったけれど、このタイプの人ちょっと無理かも……。
今日はこれからの生活関わると聞いている例の部活決めである。そのせいか、今日だけ教室には誰もいない。別に義務ではないので行かなくてもいいのだが、私とは真反対の熱心な人間ばかりであるため、部活紹介に行ってない人なんていない。保真麗も「ごめん、今日は早くに出るよ」と、さっさと部活紹介へと行ってしまった。流石の私でも焦りは感じていた。
「私も行ったほうがいいのかな」
そう呟いて、荷物しかない空っぽの教室を、逃げるように私は出て行った。
廊下には、部活紹介へと向かうべく急いでいる生徒ばかりだ。その人の多さは、私をさらに焦らせた。みんな部活決めのことに集中していて一人で頼りなさそうに歩く私のことなんか少しも見ていないはずなのに、何故か軽蔑された視線を向けられているように感じた。
決めないといけないのはわかっているけれど学校に来ること自体,とある過去を持つ私にとっては高い壁。こんな無謀な挑戦するべきでは無い、そんな当たり前のことに気づいたと同時にその自分の愚かさも痛感させられた私は現実から逃げることしかできなかった。
誰もいない校舎裏。この前よりも更に奥側。古びた錆びついた褐色の倉庫がいくつも倒れ気味で並んでいる。地面は草が生茂ってっていて、スカートを履いている私に、草がチクチクと刺さり痛かった。体だけダメージを受けているはずなのに、草が刺さっていくたびに、心にも何か刺さっている気がしていた。それでも、逃げる場所が欲しくて奥の方へと進んだ私の前方に、草が絡み付いている木製のベンチを発見した。
心身共に疲れていた私は、そこに座って俯き,生茂っている草を見つめた。そうしていると、周りから取り残されたという虚しい感情と、自分だけ何も行動できていないという悔しい気持ちに襲われて、目蓋の裏がじわじわ熱くなって、涙が少しずつ流れてくる。それは気がつけば止めようとしても止まらないほど溢れ出てきた。そして私は泣きながら、誰からも返事の返ってくるはずない質問を、次々と口に出して言った。
「何で私だけこんな思いをしなきゃいけないの?」
「どうして、あの頃の私はこんな無茶なことを?」
「どうしたらみんなみたいになれるの?」
言っていると、自分の心が更に傷み始め自分一人ではどうしようも出来なくてうずくまった。
そんな時だった,一人でうずくまっていた私に誰かが声をかけてきた。
「で、あんたどこの部活入るの?」
「え?」
「あんたさ、ずっとそこにいるじゃん」
その子は初めてなのに、愛想のない話し方で話しかけてきた。初めて会ったけれど、このタイプの人ちょっと無理かも……。
「余程の事があったんだね、私に出来ることあれば手伝おうか?」
その子はさっきとは違い、今度は優しい笑顔で話しかけてきた。
前髪を真ん中で分けていて、後ろはツインテールにしている。
「私の名前は、東田 楓よろしくね!」
「私の名前は、上林 香織です,お願いします」
私が名前を言うと,東田さんは微笑んだ。そして、私の隣に座ってきた。
「で、いつまでもこんな場所にいるわけ?」
「いえ,……ですが、自信がないんです」
私には決めれる自信が無い。今の私には東田さんに頼るしか無いのか、と思ったらまた悔しい気持ちになり、安心して止まりかけていた涙がまた頬を伝って下へと落ちる。
だけど、私は頼まないと!ここで、動かないと本当に何も出来なく終わってしまう。下を俯いたまま私は強く拳を握っていたが、顔を上げ隣の東田さんを見る。東田さんは微笑んだまま私を見つめている。少しばかり緊張するが,私達の間を通り過ぎていく春の風が心を落ち着かせてくれる。意を決し、怖いけれど私は勇気を出して言った。
「東田さん!お願いがあります。私の部活決めを手伝ってください」
目を瞑り頭をぺこりと下げ、相手の返事が返ってくるのを待つ。フゥ、っと、息をつき東田さんは立ち上がったと思う。見えてはないが、耳から入ってくる音で状況が理解できた。きっと、無理なんだな……。
「ほら!立って!」
私は目を開け東田さんを見る。手を差し伸べてくれる東田さんは迷惑そうな顔はしていなかった。夏の太陽みたいに眩しい笑顔を作っている東田さん。思わず私も笑顔になる。私は差し伸べられた手を両手で掴み立ち上がる。私は少し前に踏み出せた気がした。風が少し強くなりスカートの裾を強く揺らす。
「いい笑顔だね香織!私についてきて!」
「あなたにオススメする部活はここよ!。あなたの求めてる理想の場所かもしれないわ。理由は入ればわかるから」
そう言って連れられたのはアイドル部、校舎の端っこにある教室3個分くらいの部屋。部屋の大きさの割に人はあまりおらず、なんだか寂しそうな部活だ。部屋のカーテンを全部開けてるからか部屋が広く感じられ、余計に人が少なく感じる。
私は入口のドアに手をかけガラガラと開けた。
「失礼します」
中にいた何人かが私達の方を見る。その視線がなんだか怖かったが、
「あ,この前の子じゃん!」
近づいてきたのはこの前の先輩だった。
「この前は本当にありがとうございました」
本当にこの前のことは感謝をしていて、会った時にその気持ちを伝えたかった。まさかこの部活にあの先輩がいたなんて!ここの部活に入ればこの先輩の後輩になれる。そう考えると私の頭にはこの部活に入ろうという気持ちが湧いてきた。
「それならよかった。君、アイドル部に来てくれたんだ。いい子だね」
そう言って頭を撫でられる。春の暖かさをイメージさせるような柔らかな微笑み方が、同性の私さえもキュンとさせてしまう。こんな可愛い理想の先輩に頭を撫でられ、私の顔が赤くなったのが自分でもわかった。
「東田さんに紹介されて来ました。どこに行けばいいかわからず……」
「ね、香織!ここの部活どう?」
東田さんはウインクをして,私の肩にポンと右手をのせた。まさか、元々わかっていたのかな……?
「香織って名前なんだ。いい名前だね」
先輩に言われて嬉しくて体がムズムズとする。こんな嬉しいことがあるなんてそう思っていたらさらに奇跡が起きた。
「香織ちゃん!アイドル部入る?」
ニコニコしながら近づいてきたのはこの学校で最初にできた友達、保真麗だった。これは何かの運命なのかもしれない、逃すわけにはいかない!だから私はこの部活に入ることを決意した。
「上林 香織です、アイドル部に入ります!よろしくお願いします!」
次回もよろしくお願いします
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