1話 先輩との出会い(香織)
一話 先輩との出会い
「今日から友達だね」
「えっ、うん…よろしく」
友達か…私にとっては、懐かしい響きだった。私の目の前にいる子はそんなこと思っていないだろう。きっと、新しい学校で友達増えた、なんて思っているのだろう。
私には……いなかった。作ろうとなんて思ってもいなかった。友達なんて……。作っても離れてゆく。そんな考えが、小さい頃の私には既に根付いてしまっていた。だから今も嬉しいなんては思わない。
「元気ないの?大丈夫?」
その子はわざわざ寮の部屋の床に座って、私の顔を覗き込んできた。なんだかとても親切な人だなぁ。
「大丈夫だよ。ちょっと緊張してるだけ」
「まだ、はじめてのとこだし私も緊張してるの」
私は緊張なんてしていない、これからの生活が不安なのである。1つは、この学校でも小学生の頃と同じこと繰り返すがもしれないという不安。きっといつかこの子も、私から離れていくんだろうな……。もう一つは、……。
「私は、蒼原保真麗。同じルームメイトとしてよろしくお願いします」
「私は、上林香織です。お願いします」
そう。寮生活なんてやったことないから迷惑かけてばかりになるかもしれないという不安。とある事情で親元を離れたかった私は、この中学校に入学することにした。
「香織ちゃん、明日、入学式だね。持っていくものとかわかる?私、わかんなくてさ」
「えっと、ほま……蒼原さん、この紙を参考にすればいいと思うよ」
私は、入学するにあたってという紙を蒼原さんに渡した。さっき、保真麗ちゃんって呼ぼうとしたけど恥ずかしいし、やけに馴れ馴れしいと思われたくなかったから使うのをやめた。
蒼原さんはその紙をキョトンとした顔で受け取って、しばらく私の顔をじーっと見てきた。何かを観察するかのように。
「呼び方変えなかった?」
「いえ、別に……」
「本当に?『ほまれ』の『ほま』まで聞こえたけど……?」
「私は、言っていないかな……」
私は、精一杯ごまかそうとしたが、自分の顔が赤くなっていることがわかる。顔が熱い。さらに蒼原さんが、私の目を見つめてくる。もうダメだな……。
「言おうとしました。すみません」
またまた蒼原さんはキョトンとした顔して、「えっ?」と言った後に、くすくすと笑い出した。
「香織ちゃんは、見た目だけじゃなく中身も可愛いなぁ。私のことは『保真麗』って呼んでよ』
保真麗って呼んでいいんだ。私、少し焦っていたけど。あと、可愛いって……?保真麗の方が私より何十倍も可愛いよ?こんな恥ずかしいこと口に出して言えるわけない!
「明日の入学式楽しみだね」
「そうだね、保真麗」
「A組、蒼原保真麗、井川久志、岩山一太、上林香織、……」
「保真麗、同じクラスだね」
「やったよー、嬉しいー!」
教室の前に貼ってあるクラス分け発表を見ると、保真麗と同じクラスだった。友達が近くにいると安心するなぁ、とは思う。
私達は、教室のそれぞれの席に座った。大きな窓の外には後者の方へと、向かってくる人達が見えた。あの中に私と友達になってくれる人いるかな。そう思うと、前の席に保真麗がいても、教室が少々うるさくても、私は何故か寂しいと感じてしまった。
「私にも多くできるかな……」
言おうとは思っていなかったが、つい言葉に出てしまっていた。まぁ、私の,ため息混じりに吐いた言葉が聞こえたのなんて私だけだろう。そう安心していると、
「お前さ、上林香織だよな」
「えっ?私?」
声のした方を向くとそこには男子が立っていた。
「嘘……⁉︎」
見覚えのある顔だった。あの頃から顔立ちが青年っぽくなっているが、肌の色や髪の長さ、目つきは何も変わっていない。
「俺、住川武琉だけど覚えてるか……?」
覚えてるも何も、私の幼馴染みである。私が家の都合で引っ越す前までは二人で学校に通ったりしたものだ。まさかこんなところで会うなんて。少し嬉しかったが、問題が。気がつけばクラスの何人かが、私達のやりとりを見ている。保真麗も二つ前の席から見ている。こんなに恥ずかしい事は経験したことない。ここで、「覚えてるよ」なんて言ったら最後。周りから変な噂を立てられ、恥ずかしくて,まともに学校なんか行けやしない。
「えっと……、勘違いでは無いですか……?」
結局は知らない人のふりをした。気がついたら自然と言ってしまっていた。武琉には申し訳ないとは思う。でも、私だって恥ずかしい思いはしたくない。だから、仕方のない事だ。
「そっか……。悪いことしたな」
そう言って、武琉はどこかに行ってしまった。
それと同時に周りもザワザワとなる。私は,責められてるのかな?「ひどい。」とか言われてるのかな?私は,そんな不安に駆られ始めた。
「ねぇ、香織ちゃん?今の男子……」
「ごめん、ちょっと緊張で気分悪いの」
そう言って、私は席を立った。今から、どこに逃げようか。取り敢えず、私は教室を出ることにした。私が席を離れる時に、保真麗が小声で、
「何かあったら相談していいよ」
と,私に言ってくれた。私は、後ろを向いたまま、「ありがとう」そう言って教室から走って出た。
どうやって来たかは忘れたが、取り敢えず校舎裏みたいなところについた。
「ここ、どこだろ……」
口に出してみるものの,反応してくれる人なんているわけない。早く戻るべきだとは、わかっているが、やっぱり不安。また、小学校の時みたいな事を繰り返してしまうのかな……。
「ねぇ、君、どうして校舎裏に?」
悩んでいた私に声をかけて来たのは、私よりも少しだけ背の高い女子生徒だった。二年生の先輩なのかな……?その人は私の顔を怪訝そうな顔で見て、ハッとした。
「緊張してるの?この学校に」
せっかく優しく声をかけてくれているのだから、私も何か返さなければならない。だから、正直なことを話すことにした。
「同じクラスに私の幼馴染みがいたんです。けれど、彼から話しかけられて、私、周りからの誤解を受けたくなくて、他人のフリをしたら少し気まずくなって、不安で逃げたんです」
その人は、私の話をじっと聞いていたが、「そーゆーことね。」と、ポツリと言って続けた。
「相談できる人いないの?」
そんな人いるわけない、私はまだ入学したばかりで、そんな頼れる人いない。
「入学したばかりで……。あっ,……」
そうだった!教室を出る前に保真麗が言ってた。同じ部屋だし、きっと相談に乗ってくれるはず!でも,保真麗だけなんだ……。
「います。でも一人だけです」
その人は私の言った後に少し微笑んだ。何か,安心する要素あった?一人だけなんだよ?
「私は二年だし、部活も違うと思う。だから、相談に乗ってあげれるほど仲良くなるのは難しいと思うの。でも、今,あなたを元気付けることなら出来るよ!」
あ,この人先輩だったんだ!そして,私が何か反応する前に,先輩は微笑みながら歌い始めた。
「ね?どう?少し元気は出た?」
とても綺麗な歌声だった。初めて聞いた、こんなに綺麗な歌声。こんな人が身近に居たらいいな、そう素直に思えた。元気付けられたけれど、歌の上手さに感動したという気持ちの方が強いかもしれない。
「はい!とても元気出ました!」
「それなら良かった。さ、入学式始まるよ、行っておいで!」
先輩は笑顔でそういうと、校舎の方へと去った。
「あんな人が身近にいる先輩だったらな……」
私が教室に戻ると、教室はやけに騒がしかった。
「ねー、明日は,部活決めなんだよ」
「え,どこにしよー」
今は,そんな会話がたくさん耳に入るけれど、私には何があるのかよくわからない。部活決めるのだけで話題になのかな。まるで、小さな子供のようにはしゃいでいる人だっている。
自分の席に戻ると保真麗は少し半泣きのような顔で私に飛びついて来た。
「香織ちゃん!心配してたよーー」
「ありがとう、ごめんね心配させちゃって」
私は保真麗の頭を撫でながら、保真麗に、今の話題、部活のことについて聞くことにした。きっと、保真麗ならわかるだろう、そう思ったから。
「保真麗、今日って入学式の後,何かあるの?」
「え?」
私の言葉を聞いた保真麗は信じがたい言葉でも聞いたような顔で、私を見つめている。あ,目がすっかり乾いている。さっきの半泣きはどこに行ったの?その顔を見て、私は自分が、今,何かの地雷を踏んでしまったことを察した。何か心臓の辺りを撫でられているような恐怖を感じた。私、何かした……?
「ど、どーゆーのかなーって……」
誤魔化そうとして思いついたセリフを言ったが、そんなことは効果なしのようで、余計に空気を凍りつかせてしまったようだ。保真麗は私に呆れたのだろうか。ハァ、っとため息をついて「香織ちゃん……」と、話し始めた。
「中学生なのに部活に入らないの?みんな部活に入るらしいよ?入らなければ孤立するとか何とかっていう噂もあるくらいだし。」
え?初めて聞いたよ、そんなこと!孤立してしまうなんて……。
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