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近所で会話からの駅で会話

挿絵(By みてみん)


 一万田青年は帰路を急いでいた。三月の日はつるべ落としに暮れていく。

 九州の地方高校を卒業し、警視庁に就職が決まった彼には東京の風景がまだ想像できていない。

 明日はついに上京である。母がお祝いにすき焼きをすると言うので、食材の買出しに出たのだが、空腹とはちきれんばかりの期待はあいまり、彼の歩みを速める。

 しかし、彼は歩みをゆるめた。視界に入った女性に強い見覚えがあったからだ・・・

「あれ、・・・首藤・・・さん?」

「あ、一万田・・・君・・・いちまんちゃん?」

 声を掛けられた女性はふりむいて答えた。

 首藤さんと呼びかけられた女性は、どてらを着て一軒家の庭にいた。

 胸のあたりの高さのブロック塀越しに首藤さんはほころぶように笑っている。

「え、お前んちここやったん?」

 彼女は小学校の頃に同じクラスだった首藤という女子だ。確か、記憶が正しければ。

 一万田青年はちらと道路向かいの我が家を見る。

「しらんかったん?生まれたときからここやにから。」

「しらんかった・・・」

 小学校卒業以来なので、六年ぶりだろうか。しかし首藤さんの顔かたちはあまりかわっていないので一目でわかった。もっとも一目でわかられたため、それは一万田青年も同じだったのだろう。

「ひさしぶりやん、いちまんちゃんなにしよるん?」

「明日から俺が東京に出るけんウチの母ちゃんがすき焼きやるっち。そんで買い物して帰るとこや。」

 一万田は気軽な口調で話しかけてくる首藤さんに対し、ちょっとぶっきらぼうに返した。

 ちょっとした沈黙があった。まずい、気分を害したか?一万田がそう思った次の瞬間

「いちまんちゃん、一万円ちょうだい。」

 首藤さんはニヤニヤしながら片手をだしてきた。

「おまえ小学生のときんこというなっちゃ・・・」

 一万田は小学生の頃に友達からなにかあるたびこの絡み方をされ、あまりにも繰り返されるので心底嫌だったのだ。だが、今は懐かしさもあいまって嫌悪感はなく、むしろなぜか心地よかった。

「あんたんち近いん?」

 首藤さんが一万円をねだるのをやめ、尋ねてきた。

「あっこや。」

 一万田は道路向かいの我が家を指さす。

 昔、駄菓子屋だった一万田の家は今ではこぶりなスーパーになっている。

「ええ!スーパー後藤っち、あんたん家やったん!」

 そう、一万田の実家のスーパーは母方の名字で営まれているのだ。

「おまえもしらんかったんか。」

 一万田はご近所だったのを知らないのが自分だけでなかったことにいくばくかホッとする。

「じゃって後藤やんか!一万田やねえやん!」

 首藤さんが猛烈に抗議する。抗議されても困るのだが。

「後藤はうちの母ちゃんの名字や。」

 一万田は抗議におされ、話題を変えることにした。

「ところで首藤・・・さん、ここん空き地はおまえんちなんか?」

 首藤さんとはブロック塀越しに話しているが、首藤家からみてブロック塀の向こう、つまり今、一万田が立っているところは空き地である。一万田は足元を指さしながら尋ねた。

「そうで。」

「俺ここで小せえ頃よう野いちごとりよったんやけど。」

 一万田は幼稚園の頃の記憶をたぐりたぐり話題を変える。

「あーあれアンタやったん!?」

 乗ってきた!一万田は心中でガッツポーズをとる。しかし記憶を手繰るうちに付随した古い思い出がよみがえってきた。

「もしかしておまえ小せえとき、野いちごとりよる子供にヘビイチゴなげつけよらんかった?」

「あー投げよった投げよった!」

 空き地に自生する野イチゴをとっていたら塀の内側からいびつな形の野イチゴ(それが子供の間では通称「蛇イチゴ」とされ、食べられないと言われていた。)を何度となく投げつけられ、退散した記憶がありありとよみがえる。

「ありゃぁおまえやったんか・・・」

 抗議したかったが、すでに十年以上も前の話だ。

「あんたここでよう立小便(たっしょん)もしよった子やねえん?」

 一万田はぐっと言葉をつまらせ、

「すまん・・・しよった・・・」謝罪した。

よく考えたら立小便をしていた草地の野イチゴを食べていたんだな。今更ながら気づく。

夕暮れどきの街角にやわい風が吹く。

「首藤さん、一応聞くけんど、お前小せえ頃うちにボックリマンチョコよう買いにきよらんかったか・・・?」

「しゃっち買いにいきよった。」

 思い出す。確か首藤さんは女子にしては珍しくボックリマンチョコが大好きで、男子に負けない枚数のシールを保有していた。首藤さんは「ボックリマンチョコのプロ」と呼ばれていた。

 確か俺は「プロ」の指南を受けたことがある。一万田はまたしても思い出した。

「お前、店の留守番しよった子供にキラキラシールが箱の上から何列目何番目に必ずあるっち教えよらんかったか?」

「なんとのう覚えちょん。」

 首藤さんは首を傾げ傾げなにやら思い出しているようだ。

 確定だ・・・

「やっぱそうか・・・あの留守番は俺や。ちなみにお前の言うこと信じてキラキラシール狙ったんやけど全部デビルカードやったわぁ。」

 一万田は当時の悔しさが今頃こみあげてきた気がした。

「なぁん、そげん昔のことようおぼえちょんな。もしかして恨んじょるん?」

 ちょっとドキッとした。恨むではないが、悔しかったのは確かだ。

「あほか、そげんことでいちいち恨むか。」

 一万田はうそぶいてみせる。

「そういやアンタ、明日から東京っち、なにしにいくん。」

「警視庁に就職や。」

 そっけなく返す。

「あんたお巡りさんになるん!?県警やねえん?」首藤さんは意外と乗ってきた。

「県警は落ちた。でん、剣道しよったっちゅうたら警視庁受かったんじゃ。」

 一万田は高校で剣道部に所属し、なかなかの腕前。片手にスーパーのビニール袋。中身がこぼれないように素振りのまねごとをしてみせる。

「そうなん、警視庁とかしんけんすげえやん!」

 映画やドラマなどでしかその名を聞かない警視庁。首藤さんの眼はキラキラ輝いていた。

「お前はなんか、県庁前のデパートにでん就職したんか?」

「アタシは福岡の大学に行ってキャンパスライフやに。

    せからしかーこん席とっとーとー」

 首藤さんは覚えたてのわざとらしい博多弁をまくしたてはじめる。

「ああめんどしいのう、もう博多弁使いよるんか。」

「あんたんとこの工業高校っち男子校やろ?」

「そうや。」

「彼氏おるん?」

 彼女なんかおるかよ・・・いや彼氏?

「おらん、ホモやねえ!

 彼女とかもおらん

 首藤は・・・首藤さんは彼氏とかおるんか?」

 いらんことききやがって。やり返してやる、と逆に質問してしまったが、一万田は瞬間、後悔した。

 なんだか首藤さんの答えが怖い。

「おったようなおらんかったような~」

 首藤さんは難しい顔をして腕組みし、うんうんとうなりながらそう答えた。

「ずりきいのう・・・もうええわめんどしい。」

 はぐらかされたか。まあ、どうでもいいか。同級生の女の子の色恋沙汰の話は男子校生活が長かったゆえ苦手分野だった。こうして女子とゆっくりと会話するのすら、よく考えたら中学以来だ。

 ふと、我に返ってあたりをみるとだいぶ暗くなってきていた。

 この町は絵に描いたような扇状地で、頂点にある標高八百mほどの山は西側に位置し、早々に太陽を隠してしまう。まばらに散る雲が日暮れの茜を放射状に反射していた。

「そろそろ暗く(くろう)なっちきたな。」

「やっち最近だんだん日がなごうなっちきたよ。」

 首藤さんはブロック塀によいしょと手をかけて身を乗り出し、山をみあげて言った。

 十八年この町で暮らしてきたが、こんなに夕暮れ空が印象的なのは初めてだ・・・と一万田は思った。

 首藤さんはニコニコと山をみて微笑んでいる。

 一万田は首藤さんの横顔をじっと見ていることに気付いて視線をそらす。

「しっかし首藤がこげえ近くに住んじょるっちしらんかったけんたまげたわ。」

 見ていたこと、視線をそらしたことに気付かれないよう即座に話しかける。

「あたしもアンタが後藤(ごっさ)さん(ん)スーパーの子っち、今まで知らんかったけんたまげた。」

「お前福岡にいつ行くん?」

「ししあさって。」

 しあさってが三日後だから、ええと。一万田は指折り数える・・・数えるほどの数ではなかったが。

「四日後か、」

「そわそわしとんしゃっとよー」

 首藤さんのインチキ博多弁がまた出た。

「博多弁はもういいけん。」

「あんたも東京弁?っちいうん?共通語話さんといけんやろ。」

「面倒くさい(よだきい)けんこんままじゃ。」

 ありがたい御忠告だが、標準語を話す自信はないし、標準語を勉強するのも面倒くさい(よだきぃ)。

「よだきいとか言いよったらいじめられるんやねえん?」

「しらんわ。」といいつつ、体育会系の極みであろう警察の世界を考えると「標準語しゃべらんとな。」とも思えてくる。

「首藤・・・さんは大学出たらなにするん。」

 思ったことをすぐに聞く。今日はなんだかいつもはしないことをする。

「そげん先のことわからんわぁ。あんた東京行ってもう帰ってこんの。」

「そげん先のことわからん。」

 自分も首藤さんに尋ねたことではあるが、いざ自分が聞かれると「わからん」以外の答えはないものだな、とちょっと苦笑した。

「あんた明日汽車に乗るん?」

「電車やろ・・・電車と新幹線乗り継いで東京や。」

 首藤さんがブロック塀に肩ひじを突いて手を頬にあてる。

「見送っちゃろか?」

 一万田は息をのんだ、が、悟られないようにあわてて返事をする。

「・・・いらんいらん!いらんけん!」

 来られたら困る!なにが困るかよくわからないが、とにかく困る!

「いらんっちいわれたらしとうなってきた。」

「いらんわ!」

 こられたら困るんだ!

「明日何時の汽車なん?」

「・・・八時半や。」

「東京には明後日着くん?」

「なんぼなんでんその日に着くわ。」

 話題が変わったと思えば、この認識

「えー!たったの一日で東京に行けるん!」

「知らんかったんか・・・」

 東京と言えばドラマや漫画で目にする遠い遠い町

 実際どのくらいで行けるのか、知らない人もいる。

 ここは小さな地方都市で、隣の県庁所在地の市までいけば買い物はだいたい間に合う。

 俺も、首藤さんもこの小さな世界で一八年生きてきたんだなあ、と。東京まで一日で到着するしないのやりとりで一万田は感慨に浸る。

 そういえば腹が減った。今晩はすき焼きだ。

「ほなそろそろ帰るわ、卵が腐るけん。」

「そげえはよ腐らんわ。」

 そうだな、腐らないよな。

「じゃあな。」

「明日八時半やろ、改札いっちゃるけん。福岡行くまで暇やし。」

 首藤さんがブロック塀に上半身を預けてニヤニヤ笑う。

「まあ好きにせえ。」どうせそう言ったところで実際にくるわけがない。

「アンタがいやがるけん、しねーっと行くけん。」

 首藤さんがこっそり忍び足で駅に来る様がありあり想像された。

「わかったけん、堂々と来ていいけん。」

 ここにきて一万田は観念する。まあ実際には来ることはなかろう。

「ほいたらさよなら。」

「じゃあな。」


一万田はなぜか名残惜しかった。道路に向かってしばらく歩く。

ふと振り返る

首藤さんはまだこちらを見ている。

一万田は手を振った。ふり返された。両手の大振りだ。

 

 明日からは東京だ。

この町ともしばらくはお別れになる。そしてなぜか首藤さんともお別れになる。今日会わなければお別れもなにもなかったのだが、会ってしまった以上お別れだろう。そしてもう会うこともないのだろう。

一万田青年は家路を急いだ。


 挿絵(By みてみん)


「はよ来んかい。」

 母に促されて一万田誠二は駅改札の前にしぶしぶ足を運んだ。


 一万田誠二は警視庁に合格して本日、東京に向かう。

 それを両親、祖父母、そして親戚はおおいに喜んだ。

 ・・・が、誠二からすれば、それは非常に有難迷惑でもあった。


 商店を営む両親と地主の祖父母、そして叔父に大叔父。

 叔父の友人、近所の誠二の友人の両親等々

 誠二の住む地方都市の駅の改札前に10人からの人間がどやどやと集まっている。


 誠二の肩身をもっとも狭くしたのは友人の両親が用意してくれた

「祝・警視庁入庁 一万田誠二君」

 と書かれたのぼりだ。


 カチカチカチ

 暇そうにしている改札の駅員が改札鋏を手遊びで鳴らしている音がする。

 チラチラとこちらをみていた。そりゃあ見るだろう。


「えー、一万田誠二君は本日から警視庁、ええ、全国警察で一番偉い、あの警視庁に向かうわけであります。」

 と、司会を始めたのは小学校の友人である玉田哲の父ちゃんであった。

 もちろん警視庁は全国で一番偉い警察ではない。


「一万田君、東京に行っても元気でな。」

 そう声をかけてくれたのは父の友人で自衛官の小室さんだ。小室さんは自衛隊の募集係をやっており、高校3年の時に自衛隊を勧めてくれたのだが、紆余曲折を経て誠二は警視庁に入ることになった。

 だが小室さんはちっとも恨むことなく、こうして快く送り出してくれる。


「誠二、東京に行ってもアカになるなよ!くれぐれも!」

 と、謎の忠告をしてくれるのは大叔父の正平さんだ。通称「うえのオイさん」

 誠二の生まれ育った街はなだらかな坂にあり、大叔父正平の家は誠二の実家から坂を上って100mほどのところにあった。

 終戦時には海軍航空隊に20歳で勤務していたらしい。そして反共の闘士でもある。


「誠二、ソ連は絶対に攻めてくるけんの!満州で露助に殺された兄貴夫婦の敵は絶対に取ってくれ。」

 と、すでに滅びたソ連を目の敵にしているのは祖父ののぶである。

 祖父ののぶは戦時中は大陸で八路軍と戦い、戦後1年ほど中国に抑留されてから帰国している。中国に対しては特になにも言わないが、ソ連だけは大嫌いであった。

 なお、仮にソ連が復活して攻めてきても戦うのは多分自衛隊で警察ではなかろうと誠二は思った。


「セイちゃん、東京の水道水は錆びが混じるとか言うけん、ちゃんと濾して飲むんよ。」

 と、多分そんなことはないだろう心配をしてくれるのは母だ。

「誠二、東京タワー登ったら写真撮ってきてくれ。」

 と、簡易使い捨てカメラを渡してきたのは父だ。


「小室君、ソ連の空挺軍が東京に降りてきたら誠二も自衛隊と一緒に戦うけんの!のう、誠二」

 祖父のハッパだが。・・・と、言われても。誠二は口をとんがらせて明後日の方を向く。

「一万田さん、ソ連はもうないけんですね。あと自衛隊は戦闘機をいっぱいもっちょりますけん、ソ連・・・ロシアが空から攻めてきても東京には近寄れんのですよ。」

「ほうか、そら安心じゃ。誠二、でも油断はゆめゆめならんぞ。」


「え~ここいらで、一万田誠二君を万歳三唱して送り出したいと思います。」

 と、収拾のつかない雰囲気をバッサリ切ってくれたのは玉田哲の父ちゃんである。


 玉田の父ちゃんは祝辞を述べ、音頭を取って万歳三唱をしてくれた。

 もっとも、そもそもこの仰々しい出征会自体が余計なお世話ではあったのだが、この万歳三唱で終わるのかと思うと誠二はホッとするのだった。


 カチカチカチ

 改札鋏をニヤニヤしながら鳴らす駅員と目が合う。

 小室さんがそっと近寄ってきて封筒を渡してくれた。

「誠二君、少々やけど祝い金が入っちょん。もらっちょきよ。」

「そんな、悪いですよ。」

「いいんや。知らん土地はなにかっちゃ金がかかるもんなんや。

 あとね、警察は就職するとその土地を離れられんけんね。もしこっちに戻って仕事をしたくなったらいつでも自衛隊に来よ。うちんとこの連隊ならいつでん、入れるけんな。」

 小室さんはあくまで任務に忠実だった。


 誠二が小室さんに礼をいいつつ改札をとおると再度万歳の歓呼が背中に聞こえてきた。



「ふう・・・ひでえ目にあった。」

 そうひとりごちながらホームに上がりベンチを探す。

 3人掛けのベンチには若い女性が座っていたので誠二は他を探す。が、他のベンチはずっと向こうだったのでホームの柱に背をあずけたのだが、ベンチの女性が誠二を見るや隣の椅子をべしべしと叩いて「ここ、ここ」と合図をする。


 よくよく見るとその女性は・・・

「いちまんちゃん、ここあいちょんよ。」

「首藤さん!?なしここおるんか。」

「昨日言ったやんか。暇やけん見送るっち。」


 誠二は昨日の夕方、首藤さんとばったり出会ってそういう話をしたことを思い出した。

 昨日会ったときはどてらを着て化粧もしてない顔だったのだが、今日は髪の毛をカジュアルにまとめ、そこそこ化粧もして外行きの格好だ。


 まさか本当に見送りに来るとは思わなかったのと、出征の祝い会のインパクトが強すぎてすっかり忘れていたのだ。

 半ば強引に隣に座らされる。


「あのどんちゃん騒ぎ終わったん?」

「お前、見ちょったんか!」

「そら、あげなおもしれえもん、みらんわけねえやん。」

「ああ~~~」

 誠二はもんどりうちたかった。

「アンタ、日本で一番偉い警察に入ってソ連軍と戦うんやろ?がんばらんと。」

「ああ~~」

 誠二は天を仰いだ。

 首藤さんは最高の笑顔でニヤニヤしていた。

「ばんざーい」

「やめちくれんか」

 誠二は顔を真っ赤にしてぶんぶん横に振った。


「アンタ、小倉で乗り換えて東京に行くんやろ?あたしは小倉乗換で博多に行くけん、小倉まで一緒で。」

「へ?」

「アンタ、指定席?」

「ああ。」

「どうせ空いちょんけん自由席で一緒に乗るで。」


 首藤さんは有無を言わせない。

「首藤さんは、なし博多行くんやったっけ。大学?」

「あたしは福岡の下宿の下見やけん。」

 誠二はやれやれという表情をする。

「なん、不服?」

「うんにゃ、なんも不服やねえよ。」

「あんた警察官になるんやけん、護衛と思えばいいやん。」


 まあ、ソ連と戦うよりは警察っぽいな。


 一万田誠二は無理やり自分を納得させた。


 しばらくして小倉行の特急がホームに来た。ガラガラだ。


「行くで。」

 首藤さんは一万田の手を取ってベンチから立ち上がった。

 誠二もなんだか慣れてきた。


 もしかしたら小倉で別れたらそれっきり会わないかもしれないんだよなあ。

 なんてことを考えながら誠二は首藤さんのあとを追って電車に乗った。


 ほどなく特急は二人を乗せて発車した。

 3月もそろそろ終わろうとしていた。その日はちょこっとだけ肌寒かった。

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