留置場
おれは今、手錠と腰縄をされて歩いている。
「手錠」ときいたからにはもうわかっているかもしれないが、おれは捕まったのだ。とはいっても、正式な逮捕ではない。まだ「容疑者」である。
白い鉄格子のはめられた部屋へ、おれは入れられた。入る際、手錠と腰縄ははずしてくれた。
部屋には、既に二人の男がいた。一人は髪の毛がボサボサで、めがねをかけていて、ぐったりとしている。もう一人は、力強そうな男で、まゆげが太い。
おれは、この二人のどっちかに分類されたら、めがねをかけているほうに入れられるだろう。めがねはかけていないし、ぐったりもしてないし、髪の毛も整っているけれど、運動が嫌いで、ゲームが大好きだ。力強そうなほうは、あきらかにスポーツが得意そうなので、おれとは全然違うと思う。
正直言って、おれはこの二人よりはかっこうがいいと思っている。よく、小学生時代に女子からもてはやされたものだ。その女子たちに手錠と腰縄をつけたおれを見られたら、なんといわれるであろうか。
さて、今まで話していなかったが、おれが捕まった理由を教えてやろう。「万引き」だ。それも、盗んだものは9円のうまい棒。我ながら、馬鹿なことをしてしまったと思う。おれは貧乏で、両親とも音信不通だが、9円くらいの安いお菓子なら買えないこともない。
ここで、他の二人に留置場に入れられた理由を聞いてみた。めがねをかけているほうは、殺人だという。殺人犯と同じ部屋だなんて、なんとも恐ろしい。
まゆげの太いほうは、トラックでひとをひいてしまったかららしい。そのひとは死んでしまったので、罪が重くなるぞ、と、警察官からおどされたそうだ。だが、故意ではないようなので、どっちかというと、いいひとなのかもしれない。
さて、それからしばらくしておれは裁判をうけたわけだが、判決は懲役2年で5年の執行猶予つきであった。もちろんおれは執行猶予のほうを選んだ。ついでに、9円の罰金もさせられた。おそらく、うまい棒を売っていた店にわたすものなのだろう。
ここで、他の二人の判決を予想してみた。まゆげの太いほうは、懲役20年はありそうだ。殺人犯のほうは、もしかしたら死刑かもしれない。
警察署の門から外へ出ると、すがすがしい風がひたいにあたった。