全自動ロボット
2120年1月2日、片山氏はほとほと困り果てていた。
2120年1月1日に、全自動ロボットというものが開発された。自分の体にロボットの装置をうめこみ、思ったことを、体内のロボットが感知して体を動かすのである。
つまり、「トイレに行きたい」と思うだけで、体が勝手に動き、トイレに行くことができるのだ。
このロボットは、体が不自由なひと、高齢者、めんどうくさがりやのひとに人気だった。
片山氏は、めんどうくさがりやなので、さっそく体にロボットをうめこんだ。
だが、思ったことをそのまま感知してしまうので、生活がしにくくなった。
体に装置をうめこんだ直後、たまたま「このコンサート見に行きたいなあ」と思うと、勝手にコンサート会場へ連れて行かれ、二時間ほど席に強制的に座らされた。
また、同じ時に複数のことを考えると、めちゃくちゃになる。
たとえば、「ピアノを弾きたい」「食事をしたい」「トイレにいきたい」と同時に思うと、トイレの方向、ピアノの方向、ダイニングの方向に体がひっぱられ、大変なことになったのだ。
そのときは、「体が痛いのでひっぱられるのをやめたい」と考えて、かろうじて助かったものの、これではまともに生活ができたものではない。
だが、装置をはずすわけにはいかない。心臓に近い部分にうめこんであるので、除去しようとなれば命の危険が伴うし、お金もたくさんかかるのだ。
そして、今日、片山氏にとんでもない事件がおきた。「飲み物が飲みたい」と思ったら、トイレに顔をつっこまれたのだ。汚い上、息もできなくて、片山氏は死にそうになった。
片山氏のように、困っているひとはたくさんいた。あるひとは、「あのひとを訴えたい」と思うと、「訴えたい」が「歌いたい」に感知されたようで、「あのひと」という曲を強制的に歌わされた。ほかにも、殺し屋が「ひとを殺したい」と思うと自分を殺しそうになってしまったり、スーパーの店員が「レジを開きたい」と思うと口が勝手に開いたり、とにかくひどかった。
殺し屋の場合は人殺しを阻止できてよかったかもしれないが、そのほかの場合はかなり困る。
そして、とうとう装置を開発したひとが訴えられた。だが、開発側が勝訴してしまった。
なぜだ?と装置を体にうめこんだひとが言うと、開発側は、
「[『思ったことを行動にうつす』んです。そのことを頭にいれておいてください。]と、うめこむときに言ったはずですよ。」
とだけ言ってどこかへ去ってしまった。