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虎
ある国の草原に、一頭の虎が居た。
この虎の名前は、「タイガー」。なんともセンスのない名前だが、本人は気に入っているようだ。
ところで、この虎はとてもお腹をすかせていた。もう三日三晩、何も食べていないようだ。
この草原、いや、この国自体に、草食動物というものが全然いないのだ。ほとんどの動物は、肉食動物である。
タイガーのまわりにも、十頭ほどの虎が見えた。
「腹へったなあ。草食動物ども、いないかなあ。」
虎のくせに喋るなんて前代未聞であるが、このセリフはあくまでも心の中で言っているようだ。
「お、いたいた。あいつ食ってやっか。」
どうやら、一頭の鹿がいたようだ。タイガーは、全力疾走で鹿をおいかける。
だが、まわりの虎もそれに気づいたらしく、タイガーについていく。
タイガーが鹿を捕まえた。後ろにつづいていた虎たちは、タイガーの上に覆いかぶさるようにして、鹿に牙をむけた。
ガキン!
虎どうしが、牙をお互いの顔に刺してしまった。
生き残ったのは、タイガーのみ。
死んでいるまわりの虎たちを横目に、タイガーは鹿をむしゃむしゃと食べ始めた。