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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第八話「コウジマチサトルの反撃」
98/150

8・罪を憎んで人を憎まずとは言う物の

 バレリアンが実に申し訳なさそうに語ったのは、噂の内容の一部の実を補完する物だった。


「悪口ではないですが……その、サトルが勇者の力を使って、ボスにダンジョン内で見つけた物を高値で売りつけていると、そう話した覚えがありました……あ、僕だけではないですよ、先輩もしていた話です」


 互助会に所属している人間以外知るはずのない情報、そう思っていたのだが、特に黙っておくようにと緘口令を敷いていたわけでもないので、クレソンやバレリアンが話すのなら、簡単に情報が拡散するというのは不思議も無かった。

 しかしその話をバレリアンたちはどこで喋ったというのか。セイボリーが至極真面目に聴取をする。


「悪意はなさそうだが、何故そんなことを?」


「……何と言いますか、その、まあ、ええっと」


 口ごもるバレリアン。クレソンは露骨に視線を逸らすが、耳だけはサトルやセイボリーに向いていた。


 サトルはため息を一つ吐くと、お前らが言わないならと、自らの口で説明する。


「女性を横に置く系の飲み屋のお嬢さん方に話しを盛って伝えて、すごーいって言ってもらいたかったんだろ。俺はこんなすっげえ秘密を知っているぞって」


 サトルの言葉にバレリアンはさっと顔を青ざめさせ、クレソンは毛も尾も立てて顔を真っ赤に死して吼えた。


「んな、わけ、わけねえし、おま、それ、何でそうなるかなあ」


 しかしどもった否定の言葉は、何も言わない以上に肯定に聞こえてしまう。

 サトルはもちろん、寝たふりをしていたワームウッドにもそう聞こえたようで、軽蔑するように低く呟く。


「うわ露骨」


「露骨か、そうだね、その通りだ」


 確かにねえと頷いて、マレインは一度離したはずのクレソンの手首を思いきり掴んで、指で関節を圧迫した。


「ぎゃあああ痛い痛いマレインさん手! 手!」


「痛くしているからね」


 涙目で訴えるクレソンに答えるマレインは実にいい笑顔。

 クレソンとバレリアンが女性を買うような店に行くこと自体を禁止してはいないが、迂闊なことをすることのないようにと、普段から言い含めていたからこそ、笑顔の下でマレインは怒っていた。


「お前たちの行動が、僕らの評価にもつながる事があると、前々から言ってあったな? クレソン、バレリアン。まさか鶏でもあるまいに、二歩三歩と歩いて忘れたのかな? もしそうなら今後は見てすぐ思い出せるところに、文字を掘っておこうか。腕はそうだな、剣を振るうのに邪魔になるかもしれないから太腿か。しっかり掘りつけて墨も入れるかい? なに、多少痛い程度だ、その痛みも君らが物を忘れなくなるためだと思えば安いよな?」


 ニコニコと笑顔な分、その言葉の棘が二人に刺さる。

 クレソンは痛みも忘れ、尾を足にまきつけながらプルプルと震え、バレリアンは耳を倒してマレインから必至に視線を逸らす。


「マレイン、彼らも反省しているようだ、そこまでする必要はないと」


 セイボリーが止めようとするが、それをルイボスが肩を掴み押しとどめた。


「本気でやりはしないでしょう、大丈夫」


 ルイボスの言葉を、マレインは半分否定する。


「先生……僕は結構本気ですよ。僕たちの評価につながるというのも本心だが、それ以上に、自分を上げるために身内を貶すのはよろしくないでしょう」


 サトルのために怒っていると言わんばかりの言葉を吐いて、マレインはふいとそっぽを向く。サトルの反応が気になるのか、そっぽを向きながらも耳はサトルに向けられていた。


 素直に心配していると言ってくれればいいのにと、サトルは苦笑する。

 身内を責めるのはきっとマレインにとっても気分が良いことではないだろう。そんなマレインの心配に応えるべく、サトルは二人がサトルを貶める意図は無かったはずだと擁護する。


「クレソンとリアンの話が出所なのは間違いないとしても、ただそれを聞いて、悪意的に解釈したのは別の人間だろうと思う。クレソンとリアンが飲み屋のお嬢さん方に俺の話やルーの話をしていたっていうのは、すでに裏を取ってある。内容は大げさだったが悪意は無かったと聞いている」


 サトルが二人の素行を知っていただけでなく、その裏付けもしていたということにマレインは驚く。


「いつの間に」


 アマンドもまた、銀の馬蹄手のサトルの反応を見ていたので、こんなにも早く噂の出所を特定しているとは思っていなかった。


「特に気していない風だったのに、意外に行動が早いね」


 揶揄するのではなく純粋な疑問として、アマンドはサトルに問う。


「下宿先で俺の事ママだの父さんだの呼んで懐いてくる子らが、俺の噂を聞いて気にしてたから。子供に悪影響与えるのは流石に駄目だろうと思って」


 返された答えにアマンドはどういう事だろうかと首を傾げ、その後ろでワームウッドがぼそりと呟く。


「……サトルってそういうところがママなんだと思うよ」


「たしかにそうかも」とヒースも頷く。


 またママと言われたと、サトルは眉をしかめる。サトルとしては、できればパパの方がありがたいのだが。


 アマンドはワームウッドの言葉の意味を知らないので、その辺りは気にをせずにサトルに問う。


「で、どうやって?」


「食い物屋と酒を扱う店は相性がいい。なにより銀の馬蹄亭のタイムは酒を造るのが何より上手いんだ。量もそれなりに作るが、銀の馬蹄亭の夜の営業は不定期なうえに時間もまちまち。作った分を消費しきるとも限らないから、自分の店で提供する分以外にも、多少は他所の店に卸してる分もあるんだと」


「そこから?」


「俺がタイムに聞いたのは、他所の店でも似たような噂を聞いているのか、ってことくらいだったんだが……思いの外はっきりと、クレソンとバレリアンの名前が出てきた」


 銀の馬蹄亭のタイムのことはアマンドも知っていたので、そういう事ならと納得する。

 そのサトルの言葉を肯定するようにバレリアンが答える。


「ああ、先輩はタイムの作るクランブルワインが好きですからね。少量ですが取り扱っている店でしたよ」


「あ、てめえこら」


 クレソンはこの期に及んでも抵抗をしているようだが、バレリアンはすっかり従順に自分の罪を認めいるようだった。

 サトルは噂の出度これである事を二人が認めるなら、それでいい首を振る。


「いいよ、正直に話してもらったし、この話はおしまいだ、別に俺はこれ以上クレソンやリアンを責めるつもりはない」


 それでは納得いかないとマレインは言いかけるが、サトルはそれに被せてつづけた。


「サトル、でも噂は」


「元の話の内容は、少し調べれば出てくる状態だった。ならばあえて悪い情報にすり替えてる人間がいるってことだ。クレソンとリアンは軽率だったのは確かだけど、だからって二人を責めても何も解決しない。悪意のある噂に改編した人間を探すのを手伝ってもらえれば、それでいいよ」


 噂の改変をして、悪意を込めて流した相手は、少なくともクレソンとバレリアンの行っていた店に出入りをしている人間の可能性が高い。もしそうでなかったとしても、その関係者を手繰っていけば行き付くはずだった。


 責める代わりに手伝いを強要してくるサトルに、クレソンは自業自得とはいえと項垂れる。正直そんな面倒なことしたくないと、顔に書いて有るかのようだ。


「あ、それって俺ら手伝いは絶対って事っすか、そっすか」


 対してバレリアンは、自分のやってしまったことを理解しているのか、神妙な態度。


「すみませんでしたサトル……自分で蒔いた種です。しっかり刈り取らせていただきます」


 二人の返事を聞いて、サトルはわずかに口の端を持ち上げて頷いた。


「よろしく頼むよ、二人とも」


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