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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第八話「コウジマチサトルの反撃」
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1・ダンジョンに潜ってこそ

 まずサトルが始めたのは、意欲的にダンジョンに潜る事だった。

 それもタイムやホップ、オーツといったローゼルの互助会外の人間とだ。


「本当に俺たちで大丈夫ですか? 足を引っ張るって、むしろ俺たちの方ですよ」


 サトルに誘われ、流されやすいが根は真面目なホップはそう恐縮したが、多少調子に乗りがちなオーツは、いいじゃないかと張り切る。


「俺たちが頑張れば、サトルさんの汚名を晴らすことに繋がるんですよね? だったらいくらでも頼ってください!」


 とやる気満々だ。

 しかしホップとオーツはまだまだ冒険者としては駆け出し。それこそホップの言うように、サトルにとっては足手まといにしかならない存在だった。


「いやー、自分で見つけてきといてなんだけど、こいつら面白いな」


 最初にサトルにホップとオーツを斡旋したタイムが、けらけらと笑って二人を指さす。

 サトルはそんな軽い乗りのタイムを、じろりと睨みつけて、見せつけるようにため息を吐く。


「真面目なのは良いことだよ、お前と大違いでな」


「んだよー、それだと俺がまるで不真面目みたいじゃんよ」


「不真面目だろ」


 きっぱりと言い切られてしまい、タイムは言葉を返せず唇を尖らせる。

 まじめと言うにはさんざん遅刻もしたし、仕事の押しつけもしてきたタイムなので、反論をする余地もない。それくらいは考えることはできる。


 反論が無いならもう行くぞと、サトルは足を進めた。


 ダンジョン前広場からダンジョンへ下りる階段に向かいながらタイムは尋ねる。


「んで、今日はどこまで行くんだ?」


 少しだけダンジョンに潜りたい。浅い所でいい。日帰り。夕方には帰る。手に入ったアイテムは活躍に応じて分配する。少なくとも損をさせる気はない。そうサトルが言うので、タイムはそれならとホップとオーツに再び仕事を依頼し、今日こうして集まった。


 詳しい内容までは話していなかったなと、サトルは改めて今日の目的を説明する。


「初階層をしらみつぶしに回る。探してる物がいくつかある。採取が目的であると同時に、実験の一環」


 採取が目的という事で、サトル以外、タイム、ホップ、オーツの三人は籠を持ち、いつものように荷物運びとしてモーさんが付いて来ている。


 モーさんはいつもよりも体が大きく、これはサトルが目立つ姿で頼むとモーさんに依頼したからだ。

 そのためか、外見もいつもよりも整っているようで、普段の顔立ちが子供の落書きを立体にしたものだとするのなら、今のモーさんは阿蘇の赤牛くらいには可愛らしい顔立ちをしていた。


「何の実験してるんだったか?」


「俺の外見で噂が出回っているのか、それとも行動でか。しばらくダンジョンへはこの髪の色で潜る。オリーブたちとは行動をしない。それと、ジスタ教会に行くときはホップとオーツについて来てもらう」


 噂の出所を探すために行動しているという事は、先に話していたがもう一度繰り返し、ついでにと付け足す。


「それと魔法の汎用性の実験」




 魔法の実験をするには、その対象となる存在が必要だ。

 そのための準備として、サトルはとにかくありったけのホリーデイルが欲しいとニコちゃんに頼んだ。

 ニコちゃんはサトルの言葉を受け、次から次にホリーデイルを見つけ、サトルにその場所を教えてくれた。


 場所は初階層の中を流れる浅く広い川の縁。

 ダンジョン内の増水の影響が此処にも出ていたようで、以前より川の縁の草が泥をかぶっていたが、それは今回は気にしないことにした。


 重さにして二キロ以上採ったところで、タイムはしみじみと呟いた。


「なんっつうか、こんなに簡単に手に入るとありがたみなくなるな」


 極レアとまではいかないが、ホリーデイルはその辺りで採れるような野草とは違い、ダンジョン内部だけで見つかる希少なハーブのはずだったが、ニコちゃんはそんなことお構いなしだ。


「損はさせないと言っただろ。この後主目的の物が見つからなかったとしても、これを平等に分配するだけで、お前らの取り分としては十分なはずだ」


 サトルはいつもよりも厳しい声でタイムに返す。余裕がないとも違う、やけに抑揚が無い声やいつも以上に硬いサトルの態度に、タイムは違和感を覚える。


「まあそうだけどよ……サトル、怒ってるのか?」


「怒る理由がない。行くぞ」


 無駄口を許さないかのようなサトルの様子に、ホップとオーツも思わず口を噤む。


 ホリーデイルは十分に集まったからと、次にサトルが向ったのは、初階層の奥に広がる森林。

 ニコちゃんの案内に続き、ほとんど口を利かないまま小一時間歩いて、ようやくサトルは主目的としていた物を見つけた。


 小声で後ろに着いてくる三人に知らせる。


「見つけた」


 サトルが指で指し示す方角を見て、三人は顔を引きつらせる。

 そこにあったのは、倒木の上にこんもりと盛り上がった塚のような物体。サイズはオリーブの身長ほど。距離はサトルたちから二十メートル近く離れているので、途中木々に遮られてはっきり見えるわけではないが、その物体の正体を証明するかのように、周囲にはあり得ないほど巨大な昆虫がせわしなく羽音を立てて飛んでいた。


 タイム、ホップ、オーツの三人は三者三様に呟く。


「げ……さすがにあれはヤバいだろ」


「初めて見た」


「あれって、まさか、黄金のミード蜂?」


 肯定して、サトルは一人黄金のミード蜂の巣へと足を向ける。


「ああそうだよ。初階層中にはいくつか巣があると思っていたんだ……思った通りだった」


 何のためらいもなく巣に近付こうとするサトルの手を、タイムが掴んで引き留める。


「おいおいおいおい、あれはヤバいってなあ」


 慌てるタイムの手を押さえ、サトルは低く落ち着いた声で告げる。


「大丈夫だタイム。お前はここにいるんだ、いいな。ただ俺が動けなくなった時は頼む。それ以外は気にするな、俺が一人でどうにかするから」


 どうにかする、とサトルは言い切る。しかしタイムにはあの数の虫からの攻撃を食らわずに撃退する方法など知らない。

 黄金のミード蜂の毒が人間に与える影響は、死かモンスター化かだという事はよく知られていることだ。いくらその解毒に使われるホリーデイルを多く持っているからと言って、一度に大量の毒を食らってしまえば、そのまま死んでしまうかもしれない。

 それなのに身一つで蜂の群れに突っ込んでいこうとするサトルの行動は、タイムにとっては無謀としか思えなかった。


「どうにかって何をする気なんだよ?」


 サトルは硬い声音を変えないまま答える。


「見て居ればわかる。いいかげん離してくれ」


 そう言うと、サトルは乱暴にタイムの手を振り払い、三人を置いて蜂の巣へと歩き出した。


 巣への距離は慎重に詰める。

 サトルはこの日のために、黄金のミードバチの習性を調べてきていた。


 黄金のミード蜂は盛夏から秋口にかけてが最も狂暴になるらしいが、今はまだ初夏。蜂の狂暴性も巣の規模もそれほどではないという。

 人にとっては致命的な毒を持つが、その食料はダンジョン内の特殊な花の蜜なので、人間を捕食する獣やモンスター等とは違い、近付きすぎさえしなければ何の問題も無いという。

 植物を直接経口摂取し、それから毒、糖分などの栄養素、不純物をえり分け、不純物で巣を作り、糖分を蜜としてため込み、毒を自分たちの体の中にためて武器としている。

 この毒が厄介で、人により多少の耐性は異なるが、毒針でかすり傷一つ付けられただけでも、毒によるモンスター化は始まる可能性があるという。


 逆を言えば、不用意に巣に近付く存在は、すべて攻撃対象になり得るという事。

 だいたい十メートル程度を目安として距離を取ると安全だと、過去の冒険者たちの経験談もまとめられていた。


 普通の蜂と違うのは、ダンジョン内の常春のホールか、季節があっても季節による寒暖差が激しくない場所を好むので、越冬をする働きバチも多く、冬場でも巣から出てきて攻撃してくるのだという。

 そのため普通の蜂なら蜜を余り蓄えていない時期にも蜂蜜を大量に蓄えているという黄金のミード蜂。


 ただし体を構成しているのは、普通の虫とそう変わらない物質なので、大きくても軽く、燃やせば燃えるし、冷気が強いと身動きが取れなくなることも分かっている。


 サトルはこれらの情報を全て検証してみようと思っていた。

 覚えた知識がどこまで正確か、習性を知っていさえすれば自分でも対処できるのか、それらを調べれば、他のモンスターも紙の上の知識と照らし合わせて、サトル一人で対処できるようになるかもしれない。


「そろそろ……俺も独り立ちした方がいいだろうしな」


 噂を払拭し、サトルに侍らされていると不名誉を被っているオリーブたちのためにも、サトルは今、自分一人で出来ることを増やす必要が有ると考えていた。

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