7・華とダンジョンとマレインと
そもそもサトルがこの世界に召喚された理由は、ダンジョンの勇者として、悪い竜にバラバラにされてしまったダンジョンの管理者である妖精を元に戻すこと、である。
そのダンジョンの妖精はダンジョンの付近やダンジョン内のモンスター内に捕らわれていることが分かっているので、単純にダンジョンに潜ってモンスターを退治し、妖精を探しをするだけでも、サトルの目的に合致していた。
なのでサトルが自分の意思でダンジョンに潜りたいと言う事を、ルーは止める事は無かった。
しかしセイボリーのパーティーと一緒にダンジョンに潜ると宣言したサトルに、アンジェリカやアンジェリカと同じパーティーのカレンデュラが、不機嫌そうに眉をしかめた。
「男だけで行くの? 色気が無いわ」
「華やかさが足りなくて、少し、つまらなそうよね」
色気とか華やかさとか、冒険者に必要な要素なのだろうか。
確かに自分で着道楽を自称するアンジェリカは、姿形は幼いがそこにいるだけで華やかで、故マリリンをほうふつとさせる甘やかな色気のカレンデュラは、いるだけで気分を高揚させる存在になるだろう。
しかしである。酒の席や行楽に行くのではなく、あくまでも目的はダンジョンの探索、およびレアなアイテムの採取だ。
「必要ないと思うんだけど」
きっぱり言切られるとは思ってなかったのか、二人は少し目を見開き、それぞれ長い耳と短い耳をぴんと天井に向け立てる。
アンジェリカが不服そうにつぶやく。
「そうかしら?」
カレンデュラは直截的に、サトルに向かってしなだれかかる。
「ねえ、私も付いて行っていいかしら?」
絡めようと伸ばされる手から大きく距離を取り、サトルは首を横に振る。
そんなサトルの腕を掴んで引き寄せ、ニゲラがいい笑顔で宣言する。
「却下します!」
「何で貴方が仕切るんですか?」
思わずルーが突っこめば、ニゲラはしょぼんと眉をさげる。
「だって、女性がいると父さん対応が冷たくなるんです」
ニゲラを無言で引き離すサトル。
それを見てルーはまあそうですよねと頷く。
「あ、そういう事なら納得です」
ニゲラは中性的だ。なよなよしいのではなく健康的な中性。元々痩せ気味のサトルと身長の差も無いせいか、並ぶとどう見ても男性に見えてしまう。
そんな男性同士が抱き着いたり腕を組んだりというビジュアルに、ヘテロ性愛者のサトル自身が耐えきれないのと、女性にそんな姿を見せるのだけは勘弁という、サトル的紳士のイメージを守るため、サトルは女性の前ではニゲラに塩対応だった。
ニゲラがまだ生まれてそう時間の経っていない子供であることも、サトルを親と慕っていることも周知してあるので、親を慕って泣く子供の邪魔をすることはできないと、アンジェリカもカレンデュラも肩を落とす。
「貴方も面白い人に好かれるものよね」
「つまらないわね。まあいいわ、せいぜい楽しんでいらしてね」
分かりやすく耳が後方に伏せられる二人に、サトルは苦笑して、土産だけは頑張るよと返した。
ダンジョンの初階層。ホール、階層などと呼ばれる部屋の中で、最も最初に足を踏み入れる場所だ。
ここはダンジョン内であれど、ダンジョンの人数制限のルール適応外なのか、大人数で長時間居座っても崩落する事は無い。
なのでダンジョン探索にまずは初階層に潜ってから、ブリーフィングを行い、そこからどの階層に行くかを話し合うことにした。
初階層から続く他のホールはいくつもあるが、今回は今まで行ったことのない場所がいいというサトルの要望を最重要とした。
今まで行ったことのない場所の方が、まだ見つけていない妖精が見つかる可能性があるからだ。
妖精を体内に捕えているモンスターは、どうやら仲間の妖精に引かれて本来ならあり得ない行動をすることもあるらしく、生息域外にいる、異常行動をとるなどの目撃例もいくつかあった。サトルはその目撃例がある場所に、重点的に潜るつもりでいた。
一つ一つのホールはとてつもなく巨大で、個々の差異は有れど、サトルが見てきた限り何処も町が一個すっぽりと収まるほどの広さがある。
階層を一つ一つ探索するとなると、一日二日では済まないだろう。
今回予定している期間は最長五日。理由はその次の日にサトルに用事が入っているからだ。
地図を広げワームウッドがサトルに問う。
「さてと、じゃあ上と下、どちらに行きたい?」
「お勧めは?」
ワームウッドの代わりにマレインが答える。
「どちらも。まだサトルの行ったことのない場所の方が圧倒的に多いからね。今回は十分人数もいるし、持ってきている道具も多いよ。だからどっちに行っても探索に力を入れることが出来る。荷物持ちも確保しているし」
荷物持ちというのはクレソンの事だろう。
「下に行くとどうなるんですか?」
マレインは少し考え、何故か楽し気に尾を振り端的に答える。
「ここより暖かくなるな」
サトルはつい最近身も心も凍えそうな氷水の中に入ったばかりなので、マレインの言葉に一瞬で結論を出した。
「じゃあ下で」
「即答だね」
マレインの尾がより一層激しく振られる。どうやらマレインも下の階層に行きたかったらしい。
「いや、俺の住んでた国は少なくともこのガランガルダンジョン下町より温暖だったんで。湿度も高かったし。だったら下の方が慣れ親しんだ気候に近い場所になってるんじゃないかなと」
懐かしいから、が理由では弱いだろうか。サトルはもっとプレゼンをするべきかと悩む。
上の方の寒冷かつ湿度の高い山岳地帯風のホールも、サトルには覚えのある雰囲気だったが、できれば今はもっと温暖な場所が良かった。
「へえ、それは面白そうだ」
そう言って目元だけで笑うマレインは、何かを企んでいるようにも見えた。