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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第七話「コウジマチサトルは値打ち物である」
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4・切れ味

 この日サトルはタイムとの約束があり、銀の馬蹄亭へ行くことになっていた。そのついでにローゼルの元へ行き、幾つかの話をした。


「手短に頼みたいですね。この後も用事があるんで」


 と言うサトルに対して、ローゼルはそのつもりさと嘯く。


「なあに、君が頭を働かせてくれれば、話しはすぐに終わるともさ」


 幾つかの話の内容の内一つは、ダンジョンの崩落からの浸水について。

 浸水はやはり雨が降った直後にひどくなっているようで、二日、三日と降り続くと、浸水の起こっているホールが増えているようだった。どうやら崩落からの浸水は複数カ所で起こっている可能性があるとも言う。


「ここ数日の雨だ、土砂崩れが起こっていても不思議はない。それとダンジョンの組み代わりによる崩落が重なったのだろうね。ここ、外から見ても地面が崩れている場所があったよ。この時期は吹き下ろすような風も強くてねえ、風の流れに沿うように根こそぎ木々が倒れた谷間があり、そこから続くように地面にぽっかり穴が開いていたそうだ。木が倒れて根が土を緩ませたのだろうね」


 ローゼルとサトルはいくつかの地図を広げた机を挟んで話す。


「その意見には同意します。ルーに話しを聞いて来たんですが、この時期はヤロウ山脈の雪も大位部分が溶けると。雪解けの水が染み込んだ山の土は地崩れを起こしやすいんだ」


 ただでさえ季節的に緩んでいる土の上に大量の雨。今年は昨年度の雪も併せて、例年と比べても降水量が多い方で、それらが累積してのいまのこの状況だと言うなら、考えられなくも無いと、ルーも言っていた。


「うんうん、そうだろうとも。だからね、その調査を行うために今も人をやっているんだが、その人数を増やそうと思うのだけど……サトル君はどう思うね? ダンジョンの組み変わりは、今後も起きそうかい?」


 ローゼルに話を聞き、それを調べるために人手を割くのは危険があるとサトルは提言した。


「それは可能性は無いとは言い切れない、としか。それよりも現状ダンジョンは今災害が起きやすい状態だ、あまり人をやらない方がいいと思いますよ。何が起こるか分からない。不測の事態は幾らでも起きうる」


 ダンジョン内で起こる洪水と、生息域を追われたモンスターの異常行動が同時に起こる可能性があるため、できるならば浸水している区画は全体的に立ち入りを禁止するべきだ、そう強く主張するサトルに、ローゼルは何か経験がるのかと尋ねた。


「随分ときっぱりと言い切る。何か経験でもあるのかい?」


「ある。災害とモンスターの両方を相手にするには、人間は目も手も足りないし、根源的な恐怖が増す中で、モンスターの行動は読めなくなる、そういう経験があります」


 それはサトルが元の世界で経験したことであると同時に、サトルを探してダンジョンに潜ることになったルーが経験したことでもあった。


「まるで普段の状態だったら、モンスターの行動は読めるかのような言いようだね」


 サトルは自分が弱いと信じて疑わない。反復するように相手の行動を考え、繰り返しシミュレーションをして、いざという時動けなくならないように対処をしていた。


 災害が起きたら、モンスターが襲ってきたら……しかし、災害とモンスターが襲ってきたらどうだろうか。モンスターが必ずしも自分の予測していた通りに動かなかったら。

 予想と違う事が起きるかもしれない危険を、あえて冒すべきでは無いとサトルは主張する。


「読めるとは言わないが、経験や記録があれば予想は立てられますよ。今起こってるダンジョンの浸水は、その予想が立てられない事態だと考えます」


 こともなげに言って見せるサトルだが、ローゼルはそうでもないさと首を振る。


「普通は一回二回の経験程度では、そうも簡単に予想など立てられないのだけどねえ」


 一回二回でないならば、サトルは一体何回「そういう状況」に陥ったことがあるのだろうか。

 ローゼルはサトルの強い主張に折れ、ダンジョンの調査をしばし中止にしようと告げた。



 ローゼルと話をしている間、今日のボディーガードであるワームウッドとヒースは、別の部屋で待たされていた。


「長かったねえ」


 含みを持つワームウッドの言葉に、サトルは当たり前だろうと返す。


「ローゼルさん相手に、そうそう簡単に事が運ぶものか。だいたい予想の倍は時間がかかる。今日は短い方だ」


 二人を待たせてあるのだからと、いつもよりも強気で押して、時間を短くしたサトルとしては、嫌味を言われるのは心外だった。

 それでも時刻はもう昼時から昼下がりだ。


「はらへったー」


 互助会の会所を出るや、ヒースがそうボヤくのも納得の時間。サトルたちは急いで銀の馬蹄亭へ行こうと足を進める。


 ギンの馬蹄亭への道中、サトルは見るともなしに見ていた景色の中で、下の町で見るにはやや小奇麗が過ぎる格好の男へと目を止めた。


「あの人……」


 サトルの声に反応して、ヒースやワームウッドも男へと視線を向ける。

 サトルが思わず気に留めるのも納得と、その男へのそれぞれの感想を口に乗せる。


「道に迷ってるのかな?」


「似つかわしくない人間だね。面倒は御免なんだけど」


 きょときょとと道々の店舗の看板を見ては、確かめる様子の男。何か探している店でもあるのかもしれない。


関わり合いにならない方がいいと言うワームウッドに、サトルもヒースも同意する。


「そうだよな……」


「もっと遅くなったらタイムに文句を言われるよ」


 可哀想ではあるが知り合いでもない相手だし、歳の頃はサトルと変わらないほどのいい大人だ、放置していても困ったことにはならないだろうと結論付ける。

 しかしそれでも、三人がぶしつけに視線を送っていてことが、道に迷っているらしき男に伝わってしまったようで。


 ヒースがあっと声を上げる。


「目が合った」


 サトルたちを見て、男は助かったとばかりに嬉しそうな笑みで近付いてくる。他にもある人通りの中で、的確に視線を向けていたサトルたちにだ。


「言わんこっちゃない」


 そう呆れてため息を吐くワームウッド。

 サトルはそれを申し訳なく思いながら、面倒なことにならなければいいのだがと、内心重いため息を吐いた。


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