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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第六話「コウジマチサトルは臆病者である」
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11・鉱石の功績

 サトルはこの日、ルーに書いてもらったダンジョン内の浸水についてのレポートを渡すため、ローゼルとの面会をしていた。

 レポートの内容をざっと見て、二、三の質問をサトルにした後、地上からの調査ならばサトルに頼む必要はないだろうと結論付けた。ここ最近頼っている調査専門の冒険者のパーティーに頼むつもりらしい。

 実際にその現場でダンジョンの組み換え、崩落に敏感なテカちゃんが何の反応も見せず、これ以上の崩落はなさそうだったので、サトルはその方がいいだろうと答えた。


 主目的の話が終わり、サトルはローゼルに個人的な話があると切り出した。

 サトルが取り出したのは、ダンジョンで見つけた、光の質で色の変わる謎の鉱石。


 ローゼルに見せた物は、サイズはサトルの掌よりやや大きいサイズの母岩の表面に、びっしりと結晶が張り付いている物。割った岩の欠片の一つだ。結晶の最大サイズは最大で五センチほど。それと岩を割る際に母岩から剥離した結晶、小さい物なら一センチ、大きい物なら五センチになる物を合計二十ほど。


 ローゼルはそれを見るやすぐに身を乗り出し、サトルの手から石を受け取ると、その結晶を矯めつ眇めつ眺め、窓からの光や天井の光精にかざし確かめる。

 その行動からどうやらローゼルはこの鉱石について、何かしらの心当たりがあるのだろうと分かった。


「ほほう、これはこれは……また珍しい石を見つけて来たね」


 石を確かめながら何度も感嘆の声を上げるローゼル。声には喜びがにじんでいる。

 オリーブたちは冒険者の中でも調査や採取に長けていると言っていた。そのオリーブたちが知らなかった鉱石だが、一体どんな物なのだろうか。


「やっぱり価値がある物なんですね。宝石なんですか?」


 サトルが問えば、ローゼルはもちろんだと頷く。


「ああ、これはジンジャライトという石だ。ガランガルの子、ジンジャーが見つけた、ここでのみ産出される宝石さ。これはね……とてつもなく希少価値が高い。この結晶一つでもなかなかの値は付くが、それ以上にこの一塊があれば、市場の価値が変動するかもしれないなあ」


 その言葉にサトルは息を飲む。

 珍しい物であればいい、金にできるなら万々歳だと思っていたサトルだったが、まさか市場価値を変動させるほどとまで言われるとは思ってもみなかった。


「……もっとあるんですが」


 それもこのサイズにするなら十や二十を超えるほど。とまでは言わないでおく。

 ローゼルがサトルの言葉を理解できなかったと言うように首を傾げる。


「うん?」


「その……大量に、あるんです。家に、もっと」


 ローゼルは自分の手にしたジンジャライトを見下ろす。

 そしてもう一度サトルに視線を向ける。

 サトルは無言でうなずく。

 またローゼルの視線がジンジャライトへと落とされる。


 よほどサトルの言葉に納得がいっていないのか、いやまさかと、口の中で呟く。


 しばらく悩んだ末に、ローゼルはようやく顔を上げ、サトルに告げる。


「うーむ……それが事実だとしたら、それ、下手なところに売ってくれるなよ? 君ならわかってくれるとは思うが」


 ローゼルの言いたいことは、もちろんサトルにもわかった。 市場崩壊を招きかねないと言われたその何倍もの数のレアアイテム放出することは、経済の面でも、サトルの利用価値という面でも、いろいろと問題になりかねない。


 市場経済の混乱を引き起こし、サトルが恨みを買うかもしれない。ガランガルダンジョン下町にはレアアイテムがあると、他所から人が来ることにより、治安に影響があるかもしれない。ルーの家に金目のものがあると目されて、窃盗の被害に遭うかもしれない。サトルがどんな方法でこの高価なアイテムを手に入れたのか探りを入れるために、サトルが何かしらの被害を受けるかもしれない。そしてそれらすべてで人の命が奪われかねない。


 想像できる最悪の事態が何通りもある。

 しかし、サトルとしてもこれを金に換える必要があった。


「下手なところとは?」


 サトルの困惑したような表情に、ローゼルはしばし考え、答えを出す。


「ああいや、そうだな、全部ではないが、いくらかうちの御用商人に降ろせるようにしよう。サトル君、君、この三倍までだ、この三倍量を私の所に持ってきてくれ。必ず適正な価格で引き取ることを約束するから」


 自分が引き取るとローゼルは言う。


「それをどうするんですか?」


 問うサトルに、ローゼルは椅子に腰を下ろして答える。


「今までのように、互助会から少しずつ市場に流す。今までより頻繁にはなるだろうが、なに、うちは調査が得意な人間が多い。それにダンジョンの崩落によって危険が増した場所で見つかったとでも言えば、それはそれで信憑性があるんだ。石なんて物は地面の中から出てくるのだから」


 ゴトリと音を立て自分の机の上にジンジャライトを置き、その錘面をトントンと指で叩く。

 石は土からなどと身もふたもない言い方だが、現在なら今までと違う鉱脈が見つかったとしてもおかしくはない状況なのだとローゼルは説明する。


 その説明が許されるのは、ローゼルの互助会が元からダンジョンの調査に力を入れているからだろう。


「少しずつというのは、市場を守るためですか?」


「ああそうだとも。もう一度繰り返すが、君ならわかってくれると思っている。それに欲も無いだろう?」


 本当はサトルにも欲はある。だからこそこの鉱石を売りたいと思っているのだ。ただその欲にあまり大きな額の金銭が絡んでいないだけだ。

 かかる金銭と言えば、ダンジョンに一緒に潜ってくれたオリーブたちへの依頼料だ。

 分け前はこの鉱石が売れるかどうかで、また話し合おうと決めていた。思った以上の収入になりそうだが、このままでは単純な収入とは言えない。 


「いいですよ。その代り一緒に行ったオリーブたちには、貴女から説明を」


「それは分かっているとも。彼女たちも金銭のために動いているわけではないしね、大丈夫だろう」


 オリーブたちならば、金欲しさに市場の混乱を良しとするほど浅薄ではない。もちろん構わないとローゼルは頷く。


「それと、この一欠片分程度を、たまに小遣い稼ぎに売ってもいいですか?」


 そう言ってサトルが摘まみ上げたのは、大小ある結晶の打ち、五センチほどの物。

 ローゼルは渋い顔をしつつも、まあそれ位ならばいいだろうと頷く。しかしそれには条件があるとも釘を刺す。


「頻繁でなければ……月に一回ほどにしてくれるかな? 欠片一つほどでも、ほとんど月一出るか出ないかだ。この大きさだと一年に一度も出ない……というか、群隗のジンジャライトは、私は過去に一度しか見たことがないさね」


 だからこそローゼルは、今回サトルが持ってきたジンジャライトの群隗に、こんなにも食いついているのだと分かった。


「価格次第ですね」


 サトルの言葉にローゼルは顔をしかめる。


「ドラゴナイトアゲートよりも高いんだぞ、ジンジャライトはここでしか採れない。ドラゴナイトアゲートはダンジョンの町ならばまだほかにも産出地があるんだ」


 ドラゴナイトよりも高いと聞いて、サトルは感嘆する。


「なるほど、それなら確かに……この大きさでいくらになるやら」


 ドラゴナイトアゲートでさえ、ルーのひっ迫していた財政が、いくらも余裕が出るほどだと言っていた。そんなドラゴナイトアゲート以上というジンジャライト。


 しかも光の質で色を変えるという特性付き。他の色石でだまそうとも不可能というオプションまで付いている。

 その価値たるやいかほどか。


「それにしても……これが大量にか……壊れるなあ」


 ローゼルはつくづくと言った様子で呟くと、小憎たらしいとばかりに、ジンジャライトの功績を指の腹でつついた。


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