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コウジマチサトルのダンジョン生活2  作者: 森野熊三
第六話「コウジマチサトルは臆病者である」
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7・泥の中の宝石

 あんなに重そうな岩が流れるのだからと納得するヒースたち。しかし納得するヒースたちとは逆に、サトルはおかしいなと首を傾げた。流木と岩は比重が違うはず。あんな風に絡まり合って同じ場所にとどまるだろうか。

 サトルが僅かに立ち止まり、流木と絡まる岩に目を向けていると、サトルの懐でくつろいでいたはずの妖精が一匹、フォーン! と興奮したように飛び出していった。

 この自分勝手な行動は、間違いなくニコちゃんだろう。


「ちょっと待ってくれ……ニコちゃんが、あの岩に反応している」


 ニコちゃんが反応と聞いて、オリーブたちの表情が好奇心に輝く。

 アロエが真っ先に岩に向かって駆けだす。サトルたちもそれに続いて岩の元に向かう。

 同じくらいに大きな岩はその場には無く、それよりも小さい岩がいくつか絡み合う流木の間に見えた。


「やった! ってことは何かあるんだ?」


 ニコちゃんは強く光ってフォンフォン鳴いていたので、アロエにもどこにいるのか見えているのだろう。ニコちゃんに向かって問えば、ニコちゃんは肯定するようにフォフォン! と強く鳴いた。

 アロエの目は期待に輝いているが、それはお宝を前にしての欲に目がくらんでいる、というような物ではなく、一体何が飛び出してくるのかと期待する子供の目のようだった。


「見た目ただの石だね」


 期待に目を輝かせながら、岩を触って確かめるアロエ。サトルも岩に触れながら感触を確かめる。触り心地もまるきり岩そのものだった。


「この岩、割れるだろうか?」


 サトルは岩の傍にある邪魔な木の枝を、体重を使って引きずり落とし、オリーブに向けて問う。


「やってみよう」


 オリーブはこともなげにそう言うと、サトルとアロエを岩から遠ざけ、持ってきていた戦斧の背で、巨大な岩を殴りつけた。

 どうやら岩の形を見て効率よく衝撃を伝えられる部分を探しているらしく、三、四、五回と殴りつけていくうちに、巨大な岩にひびが入った。


「硬い、が、脆い」


 そう言うと、オリーブはさらに、二、三と斧の背を叩きつけた。

 まるで卵の殻が剥がれるように、ぼろりと岩の一部が崩れた。岩の中は空洞になっていたらしい。


 それを見て思わず声を上げたのはヒースとワームウッド。


「あ、出来立てのダンジョン石みたい」


「確かに、よく似てる」


 ヒースとワームウッドは、場所が場所なだけに、以前サトルが割って見せたダンジョン石の中で結晶化していた無機物と、この割れた岩がよく似ていると感じたらしい。


 オリーブはその崩れた破片に手を伸ばす。

 二メートルを超える巨躯のオリーブが手にしてもその手に余るほどの岩塊の内側は、鮮やかに澄んだ赤紫色に彩られていた。


「水晶ってやつかしら?」


 鉱物はよく分からないけどとカレンデュラ。


「いや、これは……水晶じゃないな。結晶の形が違う」


 水晶にしては結晶の形が短小で、キューブを無理やりくっつけたような形をしているとオリーブは言う。しかもオリーブの手の中で、水晶にに似た赤紫の結晶は、ニコちゃんが放つ光りが当たった部分のみが、金色に似た緑に輝いていた。ニコちゃんが離れると結晶は赤紫の色を取り戻す。

 驚くオリーブたちの前で、ニコちゃんはその結晶に近づいたり離れたりを繰り返してみせた。

 光の質で色が変わるのか、真似して近付くテカちゃんの光りでは、赤紫のままだった。


 光の質によって色の変化する宝石がある事をサトルは知っていた。


「これ……もしかして……」


 ワームウッドが岩の中を覗きながら問う。


「知っているの? これ、岩の中もびっしりこの結晶だよ」


 ワームウッドが覗き込む空洞は、球体を潰したような楕円形をしており、十に満たない子供くらいならば入って隠れることが出来そうに見えた。

 そんな空洞の中に、水晶のクラスターのようにびっしりと大小の結晶が生えている。


 しかしサトルの知っている石は、人工の光の下だと赤く、自然光の元だとエメラルドに似た緑色だったはずだ。自分が知っているのとは違うかもしれないと首を振りつつサトルは答える。


「いや、どうだろう……でも、当たる光の種類によって色の見え方が変わる石がると言うのは聞いたことがある。とても高価な物のはずだ」


 高価と聞いてアロエたちは「へー」と感心するが、それで欲に駆られると言う事は無いらしい。

 カレンデュラとオリーブに至っては、自分たちがどうこうしようというつもりはないらしく、留守番を押し付けたアンジェリカにいい土産だとただ嬉しそう。


「妖精の光でだけなんて、これで装飾品を作るのも面白そうかも」


「ああ、アンジェリカならば喜ぶだろう。どのような条件で色が変わるのか、もう少し調べよう」


 しかしサトルは素直に喜べなかった。この岩がどこから来たのかがわからない。少なくともニコちゃんはこの間、この周辺では反応していなかったはずだ。


「……この間は、この石は無かったのは確かなんだ」


 そう呟くサトルの横で、プクちゃんがシュワっと声を上げた。


「プクちゃん……?」


 見やればプクちゃんはサトルの頭上をぐるりと回り、そして突然何処かへ向かいとんでいく。しかし少し離れると止まって、サトルに向けてシュワっと鳴く。そしてまた少し進んで、立ち止まるを繰り返す。

 サトルは慌ててそれを追いかけた。どうやらプクちゃんは「この岩がどこから?」というサトルたちの疑問に答えてくれるつもりだったらしい。プクちゃんの行く先を見てサトルは確信した。


 プクちゃんが向っていたのは、どうやら以前サトルたちがこのホールを訪れた時に使った外への抜け穴の方角。


 プクちゃんを追う内に、足元が酷くぬかるみ、サトルたちは美味く走る事が出来なくなった。

 それに気が付いたかプクちゃんはやや進路を変えて進んでいく。


 プクちゃんを追ってたどり着いたのは、ホールの壁の端が見える高台だった。

 サトルは目の前に広がる異常な光景に愕然とした。


「凄い量出てる」


 サトルの後ろを追いかけてきたヒースも茫然と呟く。


 そこにはちょっとした丘のように巨大な岩交じりの土砂が積み上がり、その隙間から噴き出す驚くほどの量の水のせいで地面が抉られ、家屋が二、三戸は沈められそうな池が出来ていた。

 池からはゴウゴウと唸りながら水が流れ、どうやらこれが

 頭上を見上げれば我部に接した天井の一部が崩落していた。崩落した天井から壁を伝い水が流れ込んでいた。

 まだ頭上での土砂崩れは続いているのか、時折流木や土砂も紛れて落ちてくるが、その際は巨大な飛沫が上がり、細かな石がサトルたちの元にも飛んできたほどだった。


 オリーブが口元に手を当て考えるように呟く。


「これはやはり……上のホールで、大規模な崩落でも起こったのだろうか?」


 サトルはそれは違うのではないかと首を振る。

 何せその水の溢れる滝の真下は、すっかり水没してしまっているが、ついこの間地上に通じる場所として使った抜け穴だ。


「どうだろうか、そうとも言えない気がするな」


「うん、このホールの真上はすぐに地上だよ。むしろこれは……地上から水が流れ込んでるのかも」


 サトルの言葉を受けて、地図を確認したワームウッドが肯定する。

 ならばとカレンデュラ。アロエもそれならばつじつまが合うと言う。


「ここで水があふれて、他のホールにさらに流れ込んでいる、とかかしら?」


「あ、そっか、真水のはずが潮の匂いしたしねえ」


 そうなると、一度地上に戻り、再び地上から調査をする必要が有る。しかし今日はそこまでする余裕はないだろう。

 本当に地上の調査が必要ならと、サトルは肩を落とす。


「再度要調査、ってところか……一回ローゼルさんには報告しておくべきだろうな」


 時間はそろそろ日が傾きだす頃。ダンジョン内の疑似的な空も、光ゴケの妖精テカちゃんも、そのことを告げるように光量を落としていた。

 そろそろ引き上げる時間だ。


 サトルたちは見つけた岩をいくらか砕き、モーさんが持てる分と自分たちが抱えていける分だけを持って帰ることにした。

 岩の中の空洞は二カ所にあり、もう片方にはまた別の結晶ができていた。

 本当に宝石だったら行幸。もし違ったとしても、妖精が反応する意思なので何かしらあるに違いないと考えたからだ。


 他に妖精が反応する場所は特になく、ニコちゃんが珍しい物をいくばくか見つけたくらい。原因がわからないのでは、やはりしばらくはダンジョンに潜るのは控えるかと結論を出し、サトルたちはダンジョンを出ることにした。


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